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工程見直しが現場の習慣に阻まれる深層構造

目次
はじめに 〜なぜ工程見直しは難しいのか〜
製造業の現場では、高品質かつ効率的なものづくりを実現するために「工程見直し」が求められる場面が多々あります。
しかし、現実には工程見直しを実行するのは難しく、なかなか現場に根付きません。
特に昭和の時代から続くアナログな慣習や暗黙のルールが働くことで、習慣化された現場の仕事のやり方を変える大きな壁となっています。
この記事では、製造現場で20年以上の管理経験を持つ筆者が、工程見直し推進の際に直面する「現場の習慣による深層抵抗」の正体と、その乗り越え方を実践的視点から解き明かします。
また、調達購買やサプライチェーン、サプライヤーの方々にも役立つバイヤー視点での考察も織り交ぜて解説します。
工程見直しが現場で必要とされる理由
なぜ今、工程見直しが重要なのか
現在、日本の製造業は少子高齢化、人手不足、コスト高、国際競争激化といった複合的な課題に直面しています。
これらの課題を解決する一手として、自動化・デジタル化・省人化技術の導入だけでなく、現場の「ムダ」を徹底的に見直し、最適な工程に再構築していくことが不可欠です。
進化し続ける技術も、現場のオペレーションが旧態依然のままでは最大限に活用できません。
このため、根本的な生産プロセスの見直しが急務となっています。
工程見直しによる主な効果
工程見直しにより、以下のような効果が期待できます。
・作業効率・生産性の向上
・コスト削減
・品質安定や不良率低減
・熟練者依存からの脱却(標準化)
・納期遵守力の向上
・働く人の負担軽減や安全性向上
こうした効果を享受するために、多くの企業で工程見直しプロジェクトが進められていますが、現場側の抵抗によってその歩みが鈍化してしまう例は後を絶ちません。
現場の「習慣」が持つ見えない力
なぜ習慣は変わらないのか?
人はなぜ「古いやり方」にこだわるのでしょうか。
そこには合理的な理由だけでは説明できない、現場ならではの深層心理が潜んでいます。
1.安心・安全のナワバリ意識
現場の習慣には、失敗やトラブルを回避するために先人たちが積み上げてきた知恵が含まれています。
新たなやり方は「未知」であり、ミスのリスクや責任の所在が不透明になる不安があります。
2.仕事観と自尊心への影響
長年同じやり方を守ってきたことは、作業者の自信やプライドとも直結します。
「今までやってきたことが間違っていた」と捉えられることへの反発も根深いのです。
3.情報の非対称性・現場独自の暗黙知
改善提案は本社や上層部から降りてくることが多いですが、「現場を知らない人が言っている」という反感を呼ぶ場合も多いです。
現場には図面やマニュアルだけでは伝わらない「現場の勘」「コツ」が数多く存在します。
現場の「アナログな本音」が入り込む隙間
デジタル化・自動化ブームの昨今でも、「紙伝票」「口頭伝承」「体感による微調整」などアナログな仕事のやり方は多くの現場に根付いています。
昭和〜平成に培われた価値観、たとえば「手を動かせ、体で覚えろ」「現物現場現認」という現場主義、山勘も重視する熟練技能の文化などは、工程見直しを進める上で一筋縄ではいかない障壁となります。
工程見直しが現場で失敗する理由・事例
よくある失敗パターン
現場でよく見られる失敗パターンは、以下が挙げられます。
・トップダウンで一方的に進める(現場の声・背景理解不足)
・目先のコストや時間短縮だけが目的化し、品質や安全が犠牲になる
・現場のキーマン、リーダー層の取り込みが不十分
・現場が体感できる小さな成功体験が得られないまま進む
・KPIや評価軸だけがひとり歩きし、現場のやる気が落ちる
実際にあった現場の抵抗事例
ある自動車部品工場では、異常停止情報・設備監視のDXツールを導入し、工程異常を自動でリーダーに通知する仕組みを設けました。
ところが、現場オペレーターは依然として紙の日報やホワイトボードに記入し続け、DXツールの利用が一向に進みませんでした。
原因を探ると、「現場は停まってからが勝負」「数字にならない勘どころは記録できない」「あの人が管理しているから大丈夫」などの意識がありました。
新システム導入に伴う業務手順変更について現場への説明が乏しかったため、現場は新しい手法に必要性を感じられなかったのです。
サプライヤー・バイヤー関係で見落とされがちな工程見直しのポイント
供給側(サプライヤー)の悩みとジレンマ
調達購買の現場では、サプライヤーから「現場のやり方を変えたいが、上手く進まない」という相談も少なくありません。
新しい工程や自動化機器の導入によるコストメリットや安定品質を売りたい一方、現場作業者の高齢化・技能継承課題・作業者の職責意識・現行プロセスの評価制度など、工程見直しを阻む要素が複雑に絡み合います。
発注側(バイヤー)の本音と発想転換
バイヤー側でも「現場に任せれば何とかなる」「過去トラブルの経験値で動く」と考えがちです。
ただし今後は「現場任せ」だけでなく、サプライヤー現場の工程改善まで踏み込むことで、協創による全体最適を目指す姿勢が求められます。
発注国が変わる、調達拠点が多拠点化するグローバル調達の時代こそ、ミスやバラツキを最小限にする現場力強化が重要となります。
協力会社現場との現物確認・ワークショップ・オープンな情報共有を取り入れ、サプライチェーン全体での工程見直しを主導するバイヤー像が確かな成果を生みます。
工程見直しを“現場の習慣”に根付かせるアプローチ
現場主義と科学的視点の両立
現場から真の工程見直しを実現するには、現場の事情や心理・誇りを理解した上で、現実的かつ科学的手法と融合させる必要があります。
1.現場のキーマン(リーダー・ベテラン作業者)と膝を突き合わせて議論し、「なぜ今、見直しが不可欠か?」を丁寧に説明する
2.現場で有効な「なぜなぜ分析」「現場カイゼン」「標準化と変化点管理」などの技法を使いながら、現場の勘や知恵も反映させていく
3.工程変更の「小さな成功(Quick Win)」を現場で共有し、現場のやらされ感を減らす
4.アナログな部分(紙・ホワイトボード)とデジタルの橋渡し役を育成し、現場独自の工夫を推進リーダーとして評価する
昭和から脱却〜習慣を変える3ステップ
1.「見える化」(可視化)で現状を直視
まず全員で工程を「見える化」し、「なぜこの手順なのか」を棚卸し・分解します。
習慣でやっていることの中にも“意味があること”“無意識なムダ”が混在していることを実感します。
2.「納得感」を醸成(共通ゴールの設定)
ゴール(例:不良0、工数▲20%、品質UP、安全徹底等)を現場メンバーとともに設定し、現場の経験値を尊重しつつ“なぜ工程見直しが必要か”の納得感を醸成します。
3.「小さな成功→称賛→定着」
工程見直しの一歩目(小さな工程改善)で成果を出し、拍手や称賛で現場のやる気を高めます。
新しいやり方を標準作業としてマニュアル化・OJT化し、習慣化へ定着させていきます。
まとめ〜習慣の壁を越え、現場から進化を始めよう
工程見直しは、現場の習慣という目に見えない「深層構造」との根競べです。
昭和の価値観やアナログ文化に根ざした現場心理を充分理解し、現場の声を聞きながら少しずつ進めることが成功の鍵と言えます。
またバイヤーやサプライヤーなど取引先との関係でも、工程見直しが“単なる効率化やコスト削減策”にとどまらず、現場を巻き込んだ全体最適の観点で進める姿勢が大切です。
「現場知」と「科学的手法」「人の心」をつなぎ、アナログからデジタルまで強みを融合させた現場改革が、これからの製造業の発展に大きく寄与します。
これを機会に、あなた自身の現場でも小さな工程見直しから始めてみませんか。
習慣の壁を一緒に乗り越えていきましょう。
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