投稿日:2025年12月7日

治具の摩耗が原因なのに気づかず半年間不良が続いた事例

治具の摩耗が原因なのに気づかず半年間不良が続いた事例

はじめに:熟練現場でも見落とす「当たり前」の罠

製造業の現場は多様な知識と経験が集約し、日々高い精度を求められています。

しかし、熟練の現場であっても「当たり前」と思い込んでいたことが、重大な問題の見落としにつながる場合があります。

今回は、私自身が管理職として体験した「治具の摩耗が原因で半年間不良が続いた」実例を通じ、現場と業界に根強く残るアナログ文化、そして改善のヒントについてラテラルシンキングで掘り下げていきます。

この事例は、今なおデジタル化の波が遅い工場にも通じる教訓が詰まっています。

治具の摩耗とは?基礎知識の再確認

製造現場で使われる治具(じぐ)は、部品や原材料を正確に固定し、加工や組立をサポートする重要なツールです。

どんなに堅牢な治具も、毎日の使用とともに少しずつ摩耗し、その精度は必ず劣化します。

多くの現場では「定期点検」や「交換基準」がマニュアル化されているものの、実際の運用は人手やコストの問題で曖昧になりがちです。

半年間見逃され続けた不良—現場で何が起きていたのか

私が工場長を務めていた時、ある自動車部品の組立ラインで徐々に歩留まりが低下しはじめました。

当初の不良率は1%以下でしたが、月を追うごとに1.5%、2%、やがて3%にまで増加。

主な不良内容は「部品の取り付けずれ」や「寸法不良」ですが、どれも微妙なズレであり、選別検査でしか発見できないものばかりでした。

現場はロット抜き取りの検査や作業員への再教育を強化しましたが、不良率は一向に下がりません。

昭和的感覚が生み出す悪循環:原因追及の思考停止

この工場では、「現場の職人技」と「現場で改善を回す文化」が根強く残っていました。

ある作業員は「機械や治具は定期点検を回しきれている」と口を揃えて答え、メンテナンス担当も「音や振動で異常は感じない」と報告します。

このような発言は一見頼もしいものですが、裏を返せば「見慣れたもの=正常」という昭和的な先入観の表れです。

点検記録も紙ベースで残され、数値データや比較分析はほとんどされていませんでした。

つまり、実態把握が「勘と経験」に頼りきりの状態で、見えない摩耗は完全に死角となっていたのです。

工程FMEAで盲点が浮き彫りに―本質原因の発見

不良の増加が続く中、私は改めて工程FMEA(故障モード影響解析)による全プロセスの見直しを指示しました。

ラインの工程ごとに、不良発生リスク、既存管理方法、抜け漏れの有無を精査。

この分析で「治具摩耗」というリスク項目が長期間記載はされているものの、管理や交換の基準が「経験」と「主観的評価」に依存しており、点検方法も「目視・手触り確認」のみという曖昧な運用になっていることが判明しました。

そこで、治具全数に寸法測定と非破壊検査を実施した結果、想定以上の摩耗が確認されました。

多数の治具が微妙に摩耗し、部品の位置決め精度を失っていたのです。

治具摩耗の進行が検出されなかった理由

摩耗進行が見逃された最大の理由は、「定性的な感覚」に依存したアナログな点検です。

治具の寿命を延ばすために「ちょっとした削れくらいなら大丈夫」という長年の慣習が当たり前となり、データで劣化進行を可視化できていませんでした。

また、交換タイミングが「明らかな破損」「極端なガタ」の場合に限られ、多くの治具が摩耗限界を超えて使用されていました。

この曖昧な管理基準は、アナログ業界特有の「職場風土」や「コスト意識のズレ」が複合的に生み出したものです。

業界のアナログ文化とその根深さ

治具の摩耗事例は、日本の製造業に今なお根強く残るアナログ体質の象徴です。

多くの現場は「長年変わらないやり方」に頼っており、新しい管理手法やデジタル化が進みにくい環境があります。

特に中小企業や下請けの現場ほど、十分な設備投資が難しく、アナログ管理から抜け出すハードルが高い状況です。

また、伝統的な職人意識や現場リーダーの「自分の目を信じる」文化も、イノベーションの壁となりえます。

これからバイヤーや現場管理職を目指す方へのメッセージ

治具摩耗のような見えにくい問題は、それが引き金となり予想外の歩留まりや納期トラブルを生みます。

今後バイヤーを目指す方、またはサプライヤー側でバイヤーの課題意識を知りたい方は、単に見積や納期管理の数字だけでなく、現場の「見えにくいリスク」に目を向けてほしいと思います。

治具管理の改善要件をしっかりウォッチし、現場と工程改善をセットで考えられるバイヤーは、サプライチェーン強化の新しい価値を発揮します。

また、現場管理職は「これまでのやり方」「属人的な管理」ではカバーできないリスクへの感度を高め、効率化と安定品質の両立をデジタルの力も借りながら目指しましょう。

ラテラルシンキングで新たな管理手法を発見しよう

治具摩耗への対応は「定期的な完全交換」を増やすことだけが正解ではありません。

たとえば、
・治具ごとの使用時間や加工数をIoTで記録管理し、限界到達を自動で警告
・摩耗進行を数ミクロン単位でセンシングする非接触式の測定治具を導入
・3DプリンタやCADデータで治具の摩耗予測と加工精度をシミュレーション
・作業員による「体感品質」アンケートと、データ管理の2本立て
など、ラテラルシンキング(水平思考)で新しい管理の仕組みを現場から生み出すことができます。

このような発想の転換が、従来のアナログ現場にこそ優れたパフォーマンス改善をもたらします。

まとめ:治具管理から製造業の未来を変える

治具の摩耗という一見「小さな問題」は、現場が抱える体質的なリスクをあぶりだす鏡でもあります。

SE Oの観点でも、「治具管理」「摩耗対策」「現場改善」「アナログ脱却」といったキーワードで検索ニーズは増しています。

現場の見落としと紙ベース管理、属人化した点検の限界を自覚し、今こそ数字と感覚を融合した「新しい製造現場」を目指すタイミングです。

この記事が、製造業で働くすべての方、そして現場を変えたいバイヤーやサプライヤーの皆さんのヒントとなり、日本のものづくりがもう一段階進化する後押しになれば幸いです。

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