- お役立ち記事
- バリ規格の明確化でエッジ仕上げの行き過ぎを止める加工ルール整備
バリ規格の明確化でエッジ仕上げの行き過ぎを止める加工ルール整備

目次
はじめに:なぜエッジ仕上げの「行き過ぎ」が問題になるのか
製造現場、とりわけ精密加工の工程において、部品のエッジ処理は常に気を使う項目です。
ミクロン単位の公差を維持しながら製品としての信頼性や組付性、そして見た目の良さも担保しなければなりません。
ですが、このエッジ仕上げには「行き過ぎる」ことによるリスクが潜んでいます。
バリやカエリの除去や面取りは、製品の性能を左右する大切なプロセスですが、過剰な仕上げは寸法不良や想定外のコスト増を招きます。
時間の無駄だけでなく、部品同士の合致に問題が出れば品質クレームにも直結する現場のリスクでもあります。
昭和時代やそれ以前のモノづくりの現場では、「きれいに仕上げる」ことへ職人技が重視されてきました。
今なお多くの現場で「できる限りバリを取る」「目立たせたくないからしっかり面取りする」など、評価基準が曖昧なまま美意識や経験則が優先されている現状があります。
その結果、「バリ規格」や「エッジの仕上げ基準」が不明確なために、無駄な工数ややり直し、サプライヤーとのトラブルを引き起こす例が後を絶ちません。
本記事では、20年以上製造業現場に携わってきた筆者が実体験を交えつつ、エッジ仕上げにおけるバリ規格の明確化と、そのための加工ルール整備の重要性や実践方法を解説します。
バリ規格の曖昧さがもたらす現場と調達・購買の悩み
なぜ「バリ規格」がすり合わせで片付けられてしまうのか
多くの工場では「バリなし」「面取り○.○mm指示」など曖昧な指示や、設計図面に規格自体が全く明記されていないことがあります。
その理由の一つは、製品そのものの機能や組付け性よりも、「見た目や仕上げの美しさ=品質」だと刷り込んできた文化が根強いことです。
また、設計者と加工現場、あるいはサプライヤーとのコミュニケーションは、つい「あうんの呼吸」となりやすく、結果的に「職人のさじ加減」に頼ってしまいがちです。
これが現代のデジタル化・グローバル化時代には大きな障壁となっています。
実際、私自身も調達品質管理担当としてサプライヤー監査や現場仕入立会をした際、「図面指示なくとも、いつもやってますから」と十分な工数をかけている姿を何度も目の当たりにしました。
しかしそれが手間で終わればまだしも、写真で仕上がりを見せられて「極小のバリでリジェクト扱い」、逆に「過剰な面取りで寸法外」といった、歩留まり悪化や手戻りコスト増へとつながるケースも散見されます。
バイヤー・設計・現場それぞれの“困りごと”
バイヤー(調達担当者)の立場から見れば、バリやエッジ仕上げに関する不明瞭な基準は、「サプライヤーの見積もりがバラつく」「品質監査での判定基準が曖昧」といった悩みの種です。
設計者や技術者からすれば、何をもって良しとするかの判断基準が社内ですら統一されていないため、「製品不具合=設計ミス」扱いされることも。
一方、加工現場では「どこまでやれば正解なのか」分からず、納期プレッシャーと品質クレームの板挟みに頭を抱えることになるのです。
サプライヤーも「バリをゼロにしろ」と言われれば品質・コスト・納期バランスを崩さざるを得ず、極端な要求にはギブアップしたくなるのが本音です。
現場を守る「バリ規格」「エッジ基準」整備のポイント
なぜ今“ルール化”が現実解となるのか
企業競争力の源泉のひとつは「標準化」にあります。
作業者の裁量に依存するままだと、現場力が一部のベテランに依存し続け、ブラックボックス化から脱却できません。
今やグローバルサプライチェーンでは、誰がどこで加工・検査しても一定品質を担保する「仕組み化」が不可欠です。
ISOやIATFなどグローバル規格も、工程ごとのバリ規格やエッジ仕上げのルール明文化を求めています。
この流れに対応するためにも、
・「どこまでバリを許容するのか」
・「どの部位にどのような面取り、公差、仕上げ精度を必要とするか」
の合意形成とドキュメント化・ルール化こそがカギとなるのです。
現実的な規格運用の考え方
バリ・エッジ仕上げ管理において、ありがちな失敗は「バリは全てゼロ!」「全箇所同じ面取り!」のような極端な理想論に振れることです。
実際にはコスト・加工技術・納期・歩留まりなどの総合的なバランスを見極めることが大切です。
たとえば、
・部品の機能上、バリが許されない箇所には「バリ規格ゼロ」とし、厳重な検査・記録を義務づける
・外観基準や安全対策上は「目視で触ってわかるバリは不可」程度に現実解を設ける
・厳密な仕上げが不要な内部部品は「研磨やバリ取り実施不要」としムダなコストと工数を抑制する
など、部位や用途ごとのメリハリと許容範囲を明文化します。
また、実際の加工現場で通常どれほどのバラツキを生むのか、許容バリ高さ(例:0.1mm以下など)や面取り寸法(例:C0.2、C0.5など)を定量的に設計者やバイヤーと摺り合わせて設定することが必須です。
サプライヤーとのコミュニケーションの工夫
さらに大切なのは、サプライヤー=外部工場ともルールを“共有する”ことです。
一方的に「こうしてほしい」と伝えるのではなく、「なぜこの基準が必要か」「どこまでは許容するのか」を根拠と共に説明し、困難点やコストアップ要因があれば率直に話し合うことが協力関係の土台となります。
私が現場任せのバリ取りからルール化に舵を切った際も、座談会形式で設計者と加工現場・バイヤー・仕入先が意見を出し合い、現実的かつ効果的な新規格を半年かけて策定しました。
こうしたボトムアップの取り組みが、根付くルール整備と全体最適化に直結するのです。
バリ規格明確化による現場メリットと今後の展望
工数削減によるコスト価値の向上
バリ規格を明確にし、「過剰なエッジ仕上げ」をやめられれば、現場作業時間は着実に短縮できます。
作業標準書・作業動画を更新し「これ以上やる必要なし」と明文化すれば、特に多品種少量生産や派遣・未経験者の多い現場でも品質が安定します。
余った工数は他の工程や付加価値部分に振り向けられ、サプライヤーも「ムダな品質コスト」で悩まず適正価格での供給と安定納期が実現できます。
バイヤー・調達の「価格交渉力」向上
バリ規格がルール化されれば、「過剰品質分のコスト」を見積から除外でき、調達交渉における説得材料となります。
また、サプライヤー側のコスト構造説明も納得感が増し、パートナーシップ契約や長期供給協定の信頼性も上がります。
品質トラブル・クレーム低減
規格が曖昧なままの状態では、製品納入後に「想定外のバリ発生」や「寸法不良クレーム」が起こりやすいのですが、こうした事故を大幅に減らすことができます。
とくにQA部門・品質保証部門と一緒になって規格を運用することで、クレーム前倒し対応と予防活動が促進されます。
昭和的アナログ感覚からの脱却
加工現場の“空気読んでやれ”からAIやロボット活用による「デジタル標準化」への移行こそ、これからの製造業が生き残る鍵です。
面取り自動化装置や画像検査AIとの連携にも、明確なバリ規格基準が不可欠となります。
「ケガキ」「手ヤスリ」など独自技術も大切ですが、次世代へ繋ぐ「誰でも同じ結果になるルール」構築意識がこれまで以上に重要になるのです。
今すぐ始めたい:バリ規格整備のステップ
1. 現状のバリ・エッジ仕様の「見える化」
まず最初にやるべきは、現在の図面指示や現場作業標準、サプライヤー帳票などを棚卸しして「どこにどんなバリ・面取り要求が存在しているか」を明らかにします。
「暗黙の了解」や「作業者ごとの判断差」をリストアップすることで、改善箇所や優先順位が見えてきます。
2. 必要・不要の仕分けと合理的な基準作成
工程ごと、部位ごとに「必要なバリ規格・エッジ仕上げ」と「やりすぎている箇所」、「基準が不明確なところ」の3つに分類し、現場・設計・バイヤー・QA部門で議論します。
現実的な加工限界やコスト構造も織り込みながら、「この部位はバリ許容0.05mm以下」「ここは面取り不要」といったルールを数値化しサンプルで検証します。
3. ドキュメントと標準化、現場教育
策定した新バリ規格は図面や作業標準書、取引先仕様書へ反映します。
実作業者や検査員へは研修やサンプル部品を使ったトレーニングを実施し、「なぜこの基準なのか」「どこまでが作業のゴールか」を正しく理解してもらうことが肝心です。
4. 継続的な見直し・サプライヤーとの連携強化
一度決めたら終わりではなく、不適合やトラブル、サプライヤー側の加工技術進歩などに合わせて毎年規格をレビューしましょう。
フェアな見直しとフィードバックが持続的なコストダウンや品質改善につながります。
まとめ:製造現場の進化は「ルール整備」から
バリやエッジ仕上げの規格明確化は、現場ごとの職人技や過剰品質によるムダやトラブルを排除し、加工における最適バランスを可能にする要です。
調達・生産・品質・現場がチームとなり、サプライヤーとも協調しながら「あるべき姿」へのルール構築をすすめることで、全体最適化と現場力向上、ひいては企業競争力の底上げにつながります。
日本の製造業が「昭和的美意識」の殻を脱ぎ捨て、標準化・デジタル化を力強く進めるためにも、まずは自社・自部門のバリ規格・エッジ仕上げルールの整備から一歩踏み出してみてはいかがでしょうか。
資料ダウンロード
QCD管理受発注クラウド「newji」は、受発注部門で必要なQCD管理全てを備えた、現場特化型兼クラウド型の今世紀最高の受発注管理システムとなります。
NEWJI DX
製造業に特化したデジタルトランスフォーメーション(DX)の実現を目指す請負開発型のコンサルティングサービスです。AI、iPaaS、および先端の技術を駆使して、製造プロセスの効率化、業務効率化、チームワーク強化、コスト削減、品質向上を実現します。このサービスは、製造業の課題を深く理解し、それに対する最適なデジタルソリューションを提供することで、企業が持続的な成長とイノベーションを達成できるようサポートします。
製造業ニュース解説
製造業、主に購買・調達部門にお勤めの方々に向けた情報を配信しております。
新任の方やベテランの方、管理職を対象とした幅広いコンテンツをご用意しております。
お問い合わせ
コストダウンが利益に直結する術だと理解していても、なかなか前に進めることができない状況。そんな時は、newjiのコストダウン自動化機能で大きく利益貢献しよう!
(β版非公開)