投稿日:2025年10月15日

缶コーヒーの炭酸ガス抜きを制御する脱気工程と圧力バランス設計

はじめに:製造現場で重要性を増す「脱気工程」とは

近年、缶コーヒーの品質要求がますます高まっています。
消費者が求める「いつでも新鮮なおいしさ」を実現するためには、製造工程のひとつひとつが極めて重要です。
そのなかでも、外見にはほとんど現れないものの、品質や保存性、そして生産性に大きな影響を与えるのが「脱気工程」です。

とくに、コーヒー抽出液や原液には、溶存ガス(主に二酸化炭素:CO₂)が多く含まれています。
この炭酸ガス抜きが不十分なまま缶詰工程に入ってしまうと、缶が変形・破裂する危険性、不良発生や賞味期限短縮の原因となります。
一方で、過剰な脱気は風味損失や酸化促進にもつながりかねません。

本記事では、缶コーヒー製造における炭酸ガス抜きを「脱気工程」として詳しく解説し、さらに「圧力バランス設計」という観点からも実際の現場の工夫や最適化事例を紹介します。
バイヤーやサプライヤーを志す方、現場担当者ならではの課題感、そして今後のラテラルシンキング(水平思考)による革新のヒントについても言及します。

炭酸ガス抜きが必要な理由と業界での課題

缶コーヒーに含まれる溶存ガスの影響とは

コーヒーは焙煎・抽出の過程で、多くの炭酸ガスやその他揮発性物質を含みます。
原液1L中に数十mg~数百mgの溶存CO₂が存在することは珍しくありません。

そのまま缶詰工程に進むと、加熱殺菌や高温充填時にガスが急激に膨張し、缶が膨れる「膨張缶」や、開封時の吹き出し「噴出缶」という品質トラブルが発生します。
また、缶内部の圧力上昇による溶接部の割れや、内容液の二次反応で内容成分劣化のリスクも高まります。

真空加熱や減圧排気など、さまざまな脱気方法が採用されていますが、理想は「不要なガスだけを、製品設計上必要な分だけ正確に抜去する」ことに尽きます。

アナログ体質が残る現場の「あるある」

長年現場にいると、「脱気=減圧するだけ」という単純な運用がいまだ根強いことを実感します。
脱気量、脱気温度、時間管理、真空度計測などを、設備メーカーや古参作業者の「経験値」頼みで設定している例が多く、時には「このやり方しか知らない」という昭和的な属人運用になりがちです。

また、サプライヤー側(飲料OEM工場など)とバイヤー(ブランドオーナー)との情報の非対称性、品質トラブル時の原因究明難航といった課題も未だに残っています。

最新事例に学ぶ脱気工程の基本メカニズム

一般的な脱気方式とその特徴

1. 減圧脱気(真空脱気)

真空槽内に原液や抽出液を投入し、一定時間保持することで炭酸ガス等を飛ばす。
最大の特徴はシンプルで信頼性が高い一方、すべてのガス(酸素、香気も含む)を一律に抜いてしまうリスクもあり、細かなコントロールが求められます。

2. 加熱脱気

加熱・減圧を組み合わせて、溶解度を下げ急速に炭酸ガス抜きを促進。
高効率だが、加熱による香味成分の変質・飛散も起こりやすいので、温度管理や脱気速度の最適化がカギとなります。

3. エアーバブル脱気

原液に微細なエアーまたは不活性ガスを加えながら攪拌し、相対的な溶存ガス濃度差で不要なガスを放出させる方式。
繊細な香気成分を守りつつ脱気できるという利点がありますが、制御が難しく、量産には不向きな工程です。

現場では、これら単独方式や複数を組み合わせて使い分ける例も増えています。

工程分解:どのタイミングで脱気を「仕込む」か

多くの場合、コーヒー抽出液をタンクへ一度移送した後、充填直前に脱気工程を設けます。
充填直前の理由は、移送途中にガスが再溶解したり、外部空気(酸素や埃等)を巻き込みやすいためです。

バイヤー視点では、最後の「安全弁」工程として脱気工程の追設や、真空度記録の義務化を求めるケースもあります。
サプライヤーとしても、ここを疎かにすれば自社ブランドイメージを損ねるリスクと直結するため熟練技術者を配置する現場も多いです。

圧力バランス設計の落とし穴と最適化の勘どころ

落とし穴1:缶内部の残留圧力と外部気圧の関係

缶コーヒーでは、殺菌工程や熱膨張を見越して、缶詰め時にわざと少し陽圧(プラス圧)状態をつくる場合があります。
これは缶の強度を保ち、外部からの圧力差で缶がペコペコ凹む「パンク缶」を避けるためです。

しかし、脱気をしすぎて内容液が“負圧(マイナス圧)”になってしまうと、冷却時に缶が変形、最悪はボトムプレートの割れを引き起こします。
一方で、残留圧力が高すぎても輸送・開封時の噴出リスク。
この「最適バランス」を設計することが、まさに高度な現場知見と理論設計の融合点となります。

落とし穴2:自動化設備の「融通の効かなさ」

最新の工場自動化設備では、真空度や温度、投入量・撹拌速度の設定値を忠実に再現できます。
しかし、原液の個体差や製造ロットごとの特性(豆質、抽出温度の“ゆらぎ”等)によって、同じ設定値でも結果が変わることがあります。

2020年代以降、AIやIoT連携でリアルタイムデータを蓄積→フィードバック制御に移行する現場もありますが、現状では「経験豊富なオペレーターによる微調整」が最も効果的なトラブル回避策です。
まさに、アナログとデジタルの融合が問われている分野だといえます。

現場の声:バイヤー・サプライヤー間での攻防と協業

バイヤーが求める「見える化」と「リスク最小化」

今や多くの飲料バイヤー・ブランドオーナーが、外部サプライヤーの生産プロセス情報の可視化=「見える化」を要求しています。
とくに脱気工程では、真空圧・脱気時間・原液温度・充填直前のCO₂測定値などの記録を標準仕様として求められつつあります。

万一、市中で膨張缶や味劣化缶の市場クレームが発生した際に、「手順通りやった」「ログで証明できる」という体制構築が生命線となります。
サプライヤー側も、設備メーカーと連携しIoT対応の真空度・温度・流量の自動記録システム導入、工程異常時の警報機能追加といった動きが活発化しています。

サプライヤー現場担当の「考動力」がブランドを救う

かつては「バイヤー指示通りに杯数・充填温度守ればOK」だった時代が、今は通用しません。
たとえば、焙煎の条件が変われば原液中の炭酸ガス量が激変すること、原材料豆の産地が変化した際の脱気効率低下など、ごく細かな製造現場の気づきが、異常品流出防止や工程改善の糸口となります。

現場責任者が日々工程パラメータをモニタリングし、小さな異常値や傾向変化に“ラテラルシンキング”で対応する。
属人的で済ませるのでなく、仕組みとしてナレッジ化し、設備設定の最適化や工程設計のフィードバックへつないでいくことが、これからの「攻めるサプライヤー」の条件といえます。

未来に向けた「脱炭酸時代」製造業のヒント

ラテラルシンキングで脱気工程を進化させる

業界が次に挑戦すべきは「必要なガスだけを、分子レベルで自在に制御する」ことです。
たとえば、AIを活用した原液ロットごとの個別脱気レシピ、缶種別ごとの圧力設計。
もしくは、「缶コーヒー専用のガス置換材」を用いた新発想のマイクロ脱気システムといったイノベーションの芽も考えられます。

バイヤーとしては、従来の工程監査や定性チェックの枠を超え、「現場の脱気技術レベル+見える化+自動フィードバック体制」をサプライヤー選定基準へ組み込むべきです。
一方でサプライヤー現場は、「記録=防衛」の発想から一歩進み、記録データの分析やノウハウ化へ積極投資する。
脱気工程を、単なるリスク管理でなく「付加価値化」「提案営業力の向上」につなげる視点が「次世代工場」のカギになると私は考えます。

まとめ:脱気工程を極めることは、工場の信頼と未来を築く礎

缶コーヒー製造における炭酸ガス抜き(脱気工程)は、単なる一工程ではありません。
生産現場の安全性、商品の信頼性、そして最終的には顧客満足度と強く結びついています。

昭和時代の経験則や職人技から脱却しつつ、設備自動化・データドリブン化による「見える化」とアナログな“違和感を察知する嗅覚”の両立。
現場の一人ひとりが、単なるオペレーターから「自ら工程を設計するエンジニア」へと成長を遂げる先に、真の製造業サプライチェーン進化があると信じています。

この記事が、製造業現場で働くすべての方、バイヤーを目指す方、そしてサプライヤーとして誇りをもって仕事をされる皆様にとって、新しい気づきと実践のヒントになれば幸いです。

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