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国際輸送リスクを軽視する仕入先が招く納期遅延課題

目次
はじめに:製造業を揺るがす国際輸送リスク
現代の製造業において、グローバルサプライチェーンはもはや切り離せない要素です。
高度に分業化された部品供給網は、1つの遅延やトラブルが全体の生産ラインを一気にストップさせる危険性を内包しています。
とりわけ、国際輸送におけるリスク管理は、バイヤー、サプライヤー双方にとって業務の根幹を揺るがす非常に重要なテーマです。
本記事では、「国際輸送リスクを軽視する仕入先が招く納期遅延課題」をテーマに、実践現場で起こりうる具体的なリスク、そして現場目線でどう備えるべきかを紐解いていきます。
昭和から続くアナログ的な商慣習から抜けきれずにいる現場と、変化を迫られる今の時代の“リアル”を、長年現場で培った知見を元に徹底解説します。
国際輸送リスクとは何か?仕入先企業の“他人事意識”が生む落とし穴
国際輸送リスクを語る上で最も危険なのは、「海外工場からの出荷が終われば自分たちの責任ではない」——そんな他人事意識がサプライヤー側に強く根付いていることです。
海外のサプライヤーの多くは納期回答時、「港渡し(FOB)」や「現地渡し(EXW)」といったインコタームズでの取引に慣れており、それ以降のリスクはバイヤー側に転嫁されがちです。
ところがこの“境界線”が曖昧になったまま信頼や慣習のみで取引が進行すると、港でのコンテナ滞留、船舶の遅延、通関トラブルといった輸送過程のリスクが全く想定されておらず、最終的な納期遅延へとつながってしまいます。
なぜなら工場の生産計画は、「材料が工場のゲートを通過し、製造設備の前まで届いて初めて成立」するからです。
どのような国際輸送リスクが存在するのか?
国際輸送における主なリスクは次の通りです。
- 港湾ストライキや自然災害、悪天候による船舶の遅延
- 海外工場から港までの内陸輸送における事故や渋滞
- 通関書類の不備や現地事情によるイレギュラーな税関検査
- コンテナ不足、スペースブッキングの遅れ
- 地政学的リスク(紛争、政変、突然の禁輸措置 他)
- 感染症流行などによるロックダウンや人員不足
これらはバイヤーにとっては日常的な課題ですが、現地の仕入先(サプライヤー)にとっては、港への納入後は「目の届かない場所」の話のように捉えられがちです。
なぜ仕入先はリスクを軽視しがちなのか?背景にある3つの理由
仕入先が国際輸送リスクを軽視しやすい理由としては、以下の3つが挙げられます。
- 自社の納期遵守が工場出荷ベースで管理されている(最終到着を見ていない)
- 輸送工程の可視化・トラッキングができる人材やITインフラが不足している
- コスト重視の文化が根強く、安易な安価物流サービス利用でリスク回避策が薄い
工場長や現場担当者として言えるのは、どれほど「安定した納期回答」を受け取っていても、港で1週間もコンテナが積み込まれなかったり、現地税関で貨物がストップした事例は枚挙に暇がありません。
納期遅延が現場にもたらす実害:生産管理・調達・品質管理への波及
1. 生産現場への打撃
納期遅延によって生産ラインが停止すると、下記のような重大な影響が発生します。
- ライン停止による生産損失、稼働率低迷
- 生産リスケ(急な夜勤・休日出勤で人員やコスト増大)
- 後工程サプライヤーや最終顧客(顧客工場)への納入遅延
突発的な遅延は、調達担当者の残業、現場の混乱、仕掛品や在庫の山積みを引き起こし、そのストレスは瞬く間に職場全体へ波及します。
2. 調達(バイヤー)としての責任問題
調達部門では、サプライヤーから「出荷済」と報告を受けたものの、結局「倉庫着」が遅れ、現場から“調達何やってるんだ!”と追及されるケースが頻発しています。
その都度、バイヤーは現地サプライヤーやフォワーダーに問い合わせ、書類のやり取りに追われ、ルートや再輸送手段の緊急確保に駆け回るハメになります。
サプライヤーが「FOBまでですよ」と責任回避姿勢を示した瞬間から、バイヤーのすべての段取り業務が爆発的に増加し、残業の常態化や精神的な負担も深刻化するのです。
3. 品質保証・コンプライアンス面の悪影響
納期ギリギリの貨物を何とか間に合わせようと、現場で形式的な受入検査のみで処理してしまったり、本来必要な品質検査やサンプル抽出が一部省略されてしまうケースも見受けられます。
この結果、重大な品質トラブルやリコールにつながり、企業の信用失墜というレベルの損失に発展する場合もあります。
解決に向けて:古い商習慣を打破したリスクマネジメント戦略
1. “納品地点”と“責任範囲”を明確化する
まず最重要なのは、調達担当とサプライヤーの間で「◯◯倉庫着」までを納期の基準とし、FOB・CIF/EXW取引がどこまでのリスクと義務を負うのか合意形成することです。
この範囲が不明確なままでは、輸送トラブル時にどちらが早期対処に動くべきか不明瞭に。
たとえば、CIF(Cost, Insurance and Freight)やDDP(Delivered Duty Paid)取引を可能な限りベースにすることで、サプライヤー側に“最終地点”までのコミットメント意識を植え付けることが重要です。
2. フォワーダートラッキングとKPI管理の徹底
昨今ではフォワーダーサービスや各種物流ITプラットフォームを活用することで、リアルタイムでコンテナの位置・港湾状況が可視化できるようになりました。
「今、どの地点で何が起こっているか」を両社が即座に把握し、問題発生時には即ミーティングを開くといった体制の構築が不可欠です。
また、納期遵守率(OTD:On Time Delivery)をFOBベースだけでなく、「工場~工場、倉庫着」までをKPI化し、サプライヤー評価制度などにしっかりと組み込むべきです。
3. 状況変化を前提にした多様なBCP施策(事業継続計画)
グローバルサプライチェーンは絶えず変化しています。
たった1つの地政学リスクや新パンデミックによって、昨日まで平穏だったルートが突如ストップすることも珍しくありません。
- 急な港湾止めや航路変更に備えた「複数ルート確保」
- 重要部材は“非常在庫”や時にはローカルバッファー(国内倉庫)設置
- ベンダー側への緊急発注体制や再スタート時の優先順位決め
これらを徹底しておくことが、納期遅延による“ドミノ倒し”を防ぐための生命線となります。
なぜ今、“アナログ”から脱却しなければならないのか
日本の製造業、とりわけ中小含む現場では「長年の取引なので…」「従来の業務フローがわかりやすい」という理由だけで、紙書類や電話・FAXでのやり取りを続けている例がいまだに少なくありません。
しかし、今やサプライチェーンの遅延がグローバルにニュースで報じられる時代です。
IT化やDX(デジタルトランスフォーメーション)推進なしに、納期リスク管理やBCPは実行不可能となりつつあります。
- クラウド型調達システムによる進捗モニタリング
- AIアラートによるリアルタイムな遅延検知
- 電子書類による通関ミス削減
導入にあたっては現場での「慣れ」の壁も大きいものですが、ここで怖気づいていると、競合企業はより効率的にリスクを回避し、“納期信頼性”という最大の武器を手に入れてしまいます。
バイヤー・サプライヤー双方が“変化”に向き合う時代への提言
最後に現場経験者として伝えたいのは、納期リスク管理とは単なる担当者の努力やマメな連絡だけで解決できるものではない——というリアルです。
サプライヤーには、単純な出荷業務から一歩進んで「最終地点までをモニタリングする責任意識」を、バイヤーには現場を守るための“見える化”と“体制整備”を。
そして両者が月例の振り返りや現場見学を通じて、お互いの課題や背景を率直に話し合える風土を作ることが、これからの製造業成長のカギとなるのです。
昭和のアナログ文化を超えて、一人ひとりが“地球上すべてが製造現場”というグローバルな視点を持つこと。
納期遅延からサプライチェーン全体を守るため、いまこそ全社を挙げた意識改革と仕組みづくりが求められています。
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