投稿日:2025年9月4日

OEM先とのトラブルを回避するための納品基準と検収方法

はじめに:OEMの現場でなぜトラブルが絶えないのか

日本の製造業、特にOEM(Original Equipment Manufacturer)取引を巡る現場では、「納品でモメた」「検収で揉めて納期が遅れた」といったトラブルがいつまで経っても尽きません。

業界のデジタル化が話題になる一方で、現場ではいまだにFAXや紙でのやり取りが中心だったり、昭和から続く“暗黙知”に頼った管理体制が根を張っています。

このアナログな現場感覚と、急速に変化する市場ニーズのギャップが、OEM先とのトラブルを誘発する大きな要因となっているのです。

本記事では、OEM取引でよく起こる納品・検収トラブルの本質を分解しながら、納品基準・検収方法をどう設計し、どう現場に落とし込んでいくべきか、私自身の20年以上にわたる製造業現場での経験を交えながら解説します。

この内容は、現場のバイヤーや購買担当者だけでなく、サプライヤー側で「どうやればバイヤーに信頼されるのか」悩む生産・品質担当の方にも必ず役立つはずです。

OEM取引の本質とは:モノではなく「信頼」を納品する関係構築

まず初めに整理したいのは、OEMが単なる“委託生産”ではなく、発注者と受注者の間に生きた信頼関係が必要不可欠な契約形態であるという点です。

短納期・低価格だけじゃない!OEM契約の“見えないリスク”

OEMでは、発注者は仕様書や図面を提示し、メーカーに生産を委託します。
しかし、その仕様がいくら明確に見えていたとしても、現場での品質基準や細かい運用ルール、突発トラブル時の対応策など、“契約書に書ききれない領域”がどうしても残ります。

仮に納品物が基準を満たさなかった場合、「仕様通りでないから突き返す!」といった硬直的な対応では、現場同士の信頼が一気に損なわれ、長期的には取引継続が困難となります。

だからこそ、書面で規定した内容+αの「信頼」をどう担保するかが、OEM現場の大テーマなのです。

昭和から続く“口約束”文化の功罪

日本の製造業には、「細かいことは現場同士ですり合わせて解決する」という文化が根深く残っています。
これはある意味、きめ細やかな対応が強みになる一方、“担当者が交代したとたん基準が揺らぐ”“エビデンスがなくトラブル時に揉める”という弱点にもなっています。

これからは属人的な「暗黙知」ではなく、「誰が担当しても一定レベルの品質・納期・検収が実現できる仕組み作り」が欠かせません。

納品基準の設計:設計部門・調達・生産現場、それぞれの“視点”を統合する

では実践的に、どんな納品基準を設ければOEMトラブルを回避しやすいのでしょうか。

ポイントは「図面・仕様書」という“一次情報”だけでなく、現場それぞれの視点(設計・調達・生産・検査)が持つ“注意すべき点”を、集約・統合してドキュメント化することにあります。

設計部門:「使い方」「設置環境」まで考え抜いた仕様伝達

図面やBOM(部品表)といった設計データだけでは、時として仕様の解釈に行き違いが生まれます。

たとえば「表面はR付きで仕上げること」とだけ書かれていても、
・怪我防止のため“触っても痛くない仕上げ”が欲しいのか
・“ミクロン単位”での寸法精度が要求される場所なのか
現場が分からず、受注先の品質管理部と設計者の間で認識ズレが生まれがちです。

設計部門は、単に「仕様書通りに作れ」ではなく、その部品・製品がどんな環境でどう使われるのか、なぜその仕様が重要なのか――この“設計意図”まで必ずOEM先と共有することが大切です。

調達・購買:「曖昧な表現」を徹底排除したドキュメント作成

調達・購買担当はよく「QCD(品質・コスト・納期)」のバランスを取らねば…と悩みますが、トラブルの大半は、品質基準の「曖昧さ」から生じます。

・「目視で傷が見えるのはNG」→何センチ離れて?どんな明るさで?
・「箱に入れて納品」→1個ずつ梱包?複数まとめて?仕切りは?
こうした「状況依存な条件」を、写真や寸法入りの例示付きで明確化すること(バイヤーズガイドやサプライヤーハンドブックの整備)が、調達現場の信頼構築には不可欠です。

生産現場・品質管理:「抜き取り検査」だけで本当に事故は防げるか?

現場は大量生産の都合上一つひとつを全数検品は困難―だから「抜き取り検査」で済ませるのが通例ですが、頻度や判定基準が甘いと、いざ納品後にNG品が顕在化する危険があります。

・抜き取りのロットサイズや頻度
・許容不良数(AQL:合格品質水準)の明示
・出荷前検査の証跡(検査成績書、寸法検査成績表)の提出ルール
こうした“いつ”“誰が”“どれだけチェックしたか”の運用ルールを手順書化し、双方で確認・運用することが必須です。

検収方法のポイント:実物評価・デジタルエビデンス・トレーサビリティの三位一体

納品後の「検収(受入検査)」で揉めるケースも後を絶ちません。
「納期は守ったのに、検収で不合格・全返却された」「納品後しばらくして瑕疵が見つかり、全部返品を迫られた」――こうした悲劇を防ぐのは、下記3つの基準です。

1.実物評価:五感でチェック+判定基準を現場で共有

検収時の品質確認は、現場作業者の五感(見る・触る)を重視すべきです。

写真だけでは分からない「手触り」「色調」などが問われる場合は、検収立会いの場でサンプルやマスター品を事前共有してから全品判定することがトラブル抑止の鉄則となります。

2.デジタルエビデンス:検査成績書・写真で相互証跡化

近年求められるのは「検収で揉めたときに第三者が見ても明確に白黒つく証跡」です。

・寸法や外観チェックの写真
・日付・誰が検査したかを明記した成績書
・NGのあった現品ラベルの現物 or 画像保存
これを「納品物と一緒にデジタルデータで提出」を標準運用とすれば、後になって「やっぱりダメ」と言い出されるリスクが減るのです。

3.トレーサビリティ:いつ・どこで・誰が作ったか、現品で追跡できる仕組み

過去に多かった事例として“納品した直後に別の現場で混同・ロスが発生し、原因が特定できない”といった事故があります。
現品票やロットNo管理、バーコードやQR管理を組み合わせ、納入後も誰がいつどこで何をしたかログを残す―これは現場アナログ+デジタル化の必須ポイントです。

現場を動かすコツ:お互い「自分ゴト」として基準運用を徹底する

いかに基準やルールを作っても、現場が「面倒」「意味ない」と捉えてしまえば、形骸化するだけです。
ここに、工場長時代に学び、全現場に徹底させて成熟した“現場巻き込み”の知恵があります。

現場主導の「サンプルレビュー会議」

納入先・OEM先・サプライヤーの代表現場担当者が一堂に会し、
・実際のサンプルやNG品を手に取りながら“どこまで許容するか”
・基準書の記載内容と現物とのギャップがないか
こんなレビュー会議(できれば月イチでも)が基準理解・浸透の近道です。

属人的ノウハウはマニュアル化&ナレッジ共有へ

「●●さんだからこの検査ができる」という属人技は、必ず手順書・マニュアル・分かりやすい動画などで仕組み化しましょう。

また、「こんなトラブルがあった」など現場目線のナレッジも定期的に全員で共有することで、後輩や他部門のメンバーも同じミスを繰り返さずに済みます。

まとめ:OEM成功のカギは「共通言語」と「記録力」

OEM取引の納品・検収トラブルは、起こるべくして起こる人為的な“隙間”から生じます。
その隙間を埋めるのは、担当者同士の「想像力」と、どこまで誰とでも分かりやすく“共通言語”を築けるかの「伝達力」、そして証拠として後から見直せる「記録力」に他なりません。

自社のルール作りを見直す際は、図面や仕様書を単なる「作業指示」ではなく、“なぜそうしたか”が分かる現場ナレッジとして磨き上げましょう。

そして検収・検査も、写真やデジタルデータによる証跡化(ペーパーレス・クラウド活用)、トレーサビリティ仕組み化を進め、「誰が見ても公平」な判断基準を整えていくことが、まともな“信頼”と“付加価値”を生み出します。

令和の製造業は、昭和のアナログ現場の良さを残しつつ、デジタルの強みで“現場の知恵”を全員のものにしていく時代です。
本記事の実践ポイントを、ぜひ明日の現場づくりに活かしてください。

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