投稿日:2025年7月25日

新時代のIoT土砂災害警報システムの実証と事業連携

はじめに:IoTと土砂災害警報システムの新時代

日本は山が多く、台風や豪雨による土砂災害が毎年のように発生しています。
従来型の土砂災害警報システムは多くがアナログで、高度な連携やきめ細やかな予知が課題となってきました。
ところが近年、IoT(モノのインターネット)とAI技術の進展によって「新しい土砂災害警報システム」を構築する流れが加速しています。
本記事では、IoTによる土砂災害警報システムの実証と事業連携を、製造業の現場目線とバイヤー(資材購買)およびサプライヤー(部材提供)の両視点で掘り下げます。

土砂災害警報システムの現状と課題

アナログな警報システムが主流だった時代

これまでの土砂災害警報システムは、主に地域の自治体や気象庁が発表する降雨量や地盤情報、現地の人員巡回によって運営されてきました。
現場にはセンサー機器や多数のケーブル、時に紙の手順書が残るなど、昭和・平成初期型の「見回り運用」が主流でした。

アナログ運用の弱点

アナログな仕組みには、いくつもの課題がありました。

・人的コストが高い(人手不足の影響が直撃)
・データが点で記録され、集約・活用が難しい
・現場への伝達遅延や誤報のリスク
・過去データ分析による予知力の限界

これらの課題が、大規模災害時の判断や自治体間連携の難しさを生み、ひいては犠牲者の増加や復旧の遅れに直結してきました。

IoT化によるブレイクスルー

IoTセンサーの登場と強み

IoTセンサーは、雨量・地盤振動・斜面変位・気温など、さまざまな物理現象をリアルタイムで自動計測できます。
リチウムバッテリーや太陽電池で独立運用でき、無線通信規格(LPWAや5G)との親和性も高いことが特徴です。

これにより、

・山中や僻地でも「つながる」安全監視
・計測データの自動蓄積、AIによる異常検知
・クラウド経由で自治体や関係者と瞬時に情報共有

といった、これまで考えられなかった高効率・多地点監視が実現できるようになりました。

AI活用による予知・判断の自動化

大量のデータはAI(人工知能)と組み合わせることで、その真価を発揮します。
例えば、過去の災害データや地質・降雨と連動させ、「従来の基準式」では発見できなかった危険兆候もインシデントとして検出できるのです。
また、「いつ・どこで・どの程度警報するか」の判断も自動化され、現場の負担や誤報、遅延を大幅に減らせます。

IoT土砂災害警報システムの実証事例と現場視点

実証フィールドの課題と成果

実証実験は、多くの場合、地方自治体と民間企業の協業で実施されています。
現場視点では次のような発見がありました。

・山中での通信インフラ設営は想像以上にハード(LPWA/5Gの選択、障害物の多さ)
・センサーの設置、メンテナンスに現場経験が必須(地面の凍結や動物による破損対策)
・「人が現場で判断していた」作業もIoTシステムに置換するための詳細な業務フロー整理の必要性

これらの実証事例を通じて、製品選定や運用設計のベストプラクティスが蓄積されています。

バイヤー視点:調達とコスト構造の転換

IoT化が進むことで、「センサー単体」だけでなく「データサービス」や「クラウド連携」、さらにはAI警報アルゴリズムまでサプライチェーンが大きく複雑化します。
これまでの部材単価や納期交渉から、「システム全体のTCO(総所有コスト)」を見積もり、価値評価しなければ真のコストダウンはできません。

バイヤーには、IT企業や異業種ベンダーとの折衝力、新規調達スキームへの適応力も求められるようになっています。

サプライヤー視点:従来と異なる要求への適合

サプライヤーにも大きな変化があります。
センサーや通信機器はもちろんですが、「顧客の現場課題や導入効果までを一緒に考える」が主戦場になっています。
さらに、IoTシステムはバージョンアップやソフトウェア改修が多く、「納品して終わり」から「運用伴走パートナー」への進化が必須です。

また、JISやISOなどグローバル規格対応の要求も強まってきており、「モノ+知見・データ+国際目線」での体制強化が迫られています。

事業連携によるイノベーション創出

自治体×メーカー×IT企業の三位一体モデル

IoT土砂災害警報の社会実装には、自治体・メーカー・ITベンダーの三位一体型アライアンスが最も現実的です。
たとえば、
・メーカーがハード(センサーや現場計装)を供給
・IT企業がデータ解析、AIプラットフォーム、UI/UXを開発
・自治体が地域特性情報や住民対応をリード

それぞれが異なる強みを持ち寄ることで、「持続的に運用できる」官民連携モデルが成立します。

製造業サイドの新ビジネスチャンス

製造業メーカーとしては、「IoT単体」ではなく、「災害監視事業」という新しい市場への足掛かりを得ることができます。
また、一度IoT警報で実績を積めば、防犯監視や農業IoT、インフラ監視(橋梁、ダムなど)といった他分野展開も期待できます。
現場出身の人材やメンテナンスの知見を活かし、「人に寄り添ったIoT活用」の方向性がカギになります。

今後の展望:製造業の現場からみる未来

“現場力”×IoTで進化する安全インフラ

IoTが普及するとはいえ、必ず現場の知識や経験が求められます。
どの地点に設置するのか、どのデータをAI分析すべきか、機器の保守を誰がどのレベルでやるか、すべて現場視点のプランニングが必要不可欠です。

現場に根付くアナログのノウハウは今も大きな武器であり、IoTの力で「勘と経験」をデータ化し、再現度の高い予知を実現することが、これからの土砂災害警報システムの本質です。

人とIoTの協働による新しい価値創造

IoTを使った警報システムも、最終的には「人」を守り、命を守るためのものです。
人とIoTが協働し、現場知識をデジタル化することで、従来のポイント監視から“面的安全インフラ”への転換が進みます。
また、避難や防災教育、メンテナンス人材の育成をデジタルと組み合わせることで、持続可能な地域社会づくりにもつながります。

まとめ:昭和からの脱却と新時代への挑戦

IoTによる土砂災害警報システムは、単なる技術革新にとどまりません。
アナログが根強く残る製造業や社会インフラの現場で、新たな時代への橋渡し役を担っています。
バイヤーやサプライヤーを目指す方は、従来の取引発想から「システム全体×バリューチェーンの変革」へ視野を広げてほしいと考えます。

そして、現場で働く方々こそが、昭和の遺産と新時代のテクノロジーを融合できる“架け橋”です。
日本のものづくりの強み――現場に根付く知恵――をデジタルとつなげ、真に人を守る価値をこれからも発信していきましょう。

You cannot copy content of this page