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製品開発に求められるディペンダビリティと信頼性データの解析手法および作り込み

目次
はじめに:製品開発でなぜ「ディペンダビリティ」と「信頼性」が重要なのか
製造業における製品開発の現場では、「ディペンダビリティ(Dependability)」と「信頼性(Reliability)」という言葉が、年々重要度を増しています。
古くから日本のものづくり現場では、「いいものをつくれ」「不良品は出すな」という掛け声のもと、高品質の製品づくりが求められてきました。
しかし、現代ではその要求がより高度かつ複雑化し、ビジネス環境や社会インフラ全体が製造業の製品に寄りかかる中で、「壊れない」「長持ちする」「想定外にも耐える」といった安心・安全の側面が、企業価値そのものに直結しています。
とくに、電機・機械・自動車・医療といった業界では、製品が一度信頼を失うとブランドの存続危機さえ招くため、ディペンダビリティと信頼性の確保は絶対条件です。
それでは、実際に製品開発の現場では、どのような観点から「ディペンダビリティ」や「信頼性」をとらえ、どのような手法でデータを解析・設計段階から作り込んでいくのでしょうか。
昭和の職人技術とデジタル化・自動化がせめぎ合う現場のリアルな知見を交えながら、実践的なアプローチを解説します。
ディペンダビリティとは?信頼性との違い
定義の違いを整理する
「ディペンダビリティ」とは、直訳すれば“頼りになること”、すなわち製品やサービスが様々な状況下でも、ユーザーやシステムの期待どおりに動作する能力の総称です。
たとえば、次のような要素が含まれます。
– 信頼性(Reliability):一定期間、故障せずに正常動作し続ける能力
– 可用性(Availability):常に使える状態にあること
– 保守性(Maintainability):トラブル発生時の修理・復旧のしやすさ
– 安全性(Safety)・機密性(Confidentiality)など
ディペンダビリティはこれら複数の要素を総合的に評価し、ユーザーの期待や社会的責任を満たすかという広い概念です。
一方で、狭義の「信頼性(Reliability)」は、「一定の条件下・一定期間内において、所定の機能を維持できる確率」として定量的に扱われます。
したがって、品質保証部門、設計部門、生産管理、調達購買に携わる全ての方は、「ディペンダビリティ=多面的な安心」「信頼性=定量的・確率的な壊れにくさ」を意識しながら日々の業務やプロジェクトに取り組むことが求められます。
なぜ昭和的な現場でもディペンダビリティが問われるのか
顧客要求が多様化・高度化する時代背景
かつては、製造現場では「壊れたら直す」「現場で工夫して対応する」という考えが主流でした。
しかし、近年ではIoTやスマートファクトリーの進展により、生産設備や製品のダウンタイム=直接的な損失となります。
また、B2Bのサプライチェーン全体が高度につながったことで、ひとつの製品の不具合が即時にサプライヤー、バイヤー、最終ユーザー、社会全体にまで波及します。
つまり、製造の上流工程(設計・開発)段階から「いつ・どこで・どんな環境でも・安全に・安定して」動作することが問われ、かつ「なぜ動かないのか・いつまで止まるのか」もリアルタイムで説明が求められる時代です。
昭和の現場で培われた勘・コツ・現場力は依然として重要ですが、それだけでは立ち行かなくなっています。
そのためにはディペンダビリティと信頼性を「設計・製造プロセスに組み込む」ことが必須です。
ディペンダビリティ・信頼性データの「作り込み」基本ステップ
1. 市場・顧客仕様の分析(要求工学)
開発の最初段階で、顧客(社内外)の求める「ディペンダビリティの本質」が何かを十分分析します。
– 製品の使用環境はどこか(温湿度、振動、粉塵、腐食など)
– 期待される寿命は何年か
– 社会的な安全基準・法規は何か
– 「最悪のシナリオ」は何か(フェイルセーフ、フェイルソフト等)
設計・生産側だけではなく、調達購買や営業、アフターサービスまでを巻き込んで全体最適の視点で要件定義を行います。
2. 故障モードの明示とFMEAの活用
FMEA(故障モード影響解析)は、製品やプロセスの設計段階で「どこが壊れるか」「壊れたらどうなるか」「どんな対策が必要か」というリスクを洗い出す代表的なツールです。
昭和時代から親しまれている「なぜなぜ分析」と組み合わせることで、現場の勘を理論に落とし込みつつ、抜け漏れを防ぐことができます。
FMEAでは、各故障モードごとに
– 発生頻度(発生しやすさ)
– 重大性(影響の大きさ)
– 検出性(検出しやすさ)
の3軸で数値評価するため、設計ウィークポイントを可視化でき、対策優先度も明確になります。
3. 信頼性データの「設計段階」シミュレーションと「現場」試験
現代の製造業では、設計段階から信頼性を“数値で評価”するアプローチが主流です。
– 加速試験(高温高湿・耐久振動試験など)による早期故障メカニズムの特定
– 信頼度設計(MTTF/MTBF/MTTR:平均故障間隔/平均故障率/平均修復時間)パラメータの設定
– システム全体としての「冗長構成(2重化等)」や「フェールセーフ」設計
昭和的な“現場の目利き”と、統計的手法やシミュレーション(CAE・FEM)の融合が大切です。
現場での実機・実環境評価(全数試験・抜取検査)は今なお有効ですが、デジタル・CAE・AI解析の導入によって「時間短縮」と「潜在リスクの先読み」が可能になっています。
4. データ解析と「見える化」「ナレッジの蓄積」
試験やフィールドデータから得られた信頼性データは、単なる合否判定にとどまらず
– 対象ロットや型番ごとの信頼性パラメータ(Weibull分布・ワイブル解析等)
– 実際の故障事象と設計パラメータの相関分析
– 工場ラインごとの設備稼働率、停止原因のトレンド解析
といった“多層的”なデータ解析が重要です。
このとき、現場の改善ノウハウや不具合対応履歴を「紙の記録」や「個々人の記憶」に埋もれさせず、データベース化、見える化、組織ナレッジの共有に昇華させることが肝です。
この領域こそ、アナログ業界が最も課題を感じているポイントといえます。
信頼性データをビジネス価値につなげるポイント
サプライヤー側から見た視点
バイヤーから見れば、“より信頼できるサプライヤー”とは
– 品質トラブルが少ない
– 不具合時の原因究明・再発防止対応が早い
– 根拠データをすぐに提示できる
– 開発初期から一緒にリスク低減・設計提案ができる
– 新技術やIoT・DXによる改善意欲が高い
といった“ディペンダビリティ”があれば、値段競争以外での付加価値となります。
現場のバイヤー志望者や、サプライヤー担当者は「信頼性データをいかに語るか・活用できるか」に注力するとよいでしょう。
データの持つ“説明責任”と“将来価値”
信頼性データは単なる「開発部門の自己満足の指標」ではありません。
実際の市場流出不良やリコール時には、取引先や顧客のみならず、社会・株主・行政などからも「なぜ動かなかった?」「データの裏付けは?」と問われます。
近年では「PL法」「サプライチェーン全体のESG(環境・社会・ガバナンス)」規範の視点からも、信頼性データのトレーサビリティや説明責任は避けて通れません。
逆にいえば、信頼性データを企業価値、ブランド価値の源泉ととらえ、サプライヤー選定や新規ビジネス開拓の場で積極的にアピールすることは、競争力強化につながります。
昭和→令和流の“現場主導”ディペンダビリティ向上のヒント
データ解析やIoTばかりが強調されがちですが、現場の「気づき」と「暗黙知」を数字に変換し、DXと融合させていくプロセスが重要です。
実際に筆者が工場長時代に感じたポイントをいくつか挙げます。
– 現場作業者からのヒヤリハット・設備異音・動作違和感の吸い上げは、“手書きメモ”でもよいので即時データ化
– 設備メーカーや素材サプライヤーからの「事例」「失敗談」を定期的に共有し、FMEAや設計レビュー時に活用
– 自動化設備のセンサーデータ(温度・振動・トルク等)の閾値設定を現場職人の意見と融合
– 不具合や流出品の「なぜなぜ分析」は紙1枚で直後に回覧させ、現場全部門の知見を集約
こうした“昭和職人×デジタル”の融合が、サプライヤーとしての説得力や信頼性レベルの底上げになります。
まとめ:製造業の未来を支える「ディペンダビリティ経営」へ
製品開発の現場では、ディペンダビリティや信頼性データそのものが“競争力”、さらには“経営基盤”となる時代へ突入しています。
設計・開発・現場力・DXをつなぎ、データ解析と現場の知恵の両輪で「壊れない・止まらない・困らない」ものづくりに挑戦しましょう。
バイヤー・サプライヤー双方が“信頼性データで語り合える関係”を築くことが、製造業全体の進化を促します。
昭和の現場力を活かしつつ、最新技術・統計的解析を柔軟に取り入れることで、日本の製造業がグローバルで新たな地平線を切り拓くことを願っています。
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