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パワーデバイスの信頼性を確保する設計課題と改善技術のノウハウ

目次
はじめに:パワーデバイスの重要性と信頼性問題
パワーデバイスは、産業用機器や自動車、家電、エネルギー分野など、あらゆる電気製品の心臓部を担うコンポーネントです。
とくに次世代自動車や再生可能エネルギー分野が急速に発展する現代社会において、パワーデバイスの性能向上と信頼性確保は業界全体の最重要課題です。
しかし実態として、製造現場では「信頼性を前提とした設計」が十分浸透しておらず、設計段階での“思い込み”や、アナログな業界習慣が問題解決を難しくしているケースが少なくありません。
この記事では、現場の改善経験をもとに、パワーデバイスの信頼性設計課題と、その解決に向けた実践的なノウハウを解説します。
現場目線とバイヤー視点を織り交ぜながら、新しい地平線を切り拓きます。
パワーデバイスの代表的な故障メカニズムと設計課題
半導体チップの熱ストレスとパッケージ信頼性
パワーデバイスの最も一般的な故障要因は、熱ストレスによる半導体チップおよびワイヤーボンディングの劣化です。
たとえば、パワーモジュールでは、回路のON/OFFによる繰返しの熱膨張・収縮でワイヤが断線したり、チップのはんだ材にクラックが入ったりします。
設計段階で熱解析を十分に行っていないと、「ピーク温度」だけでなく、「繰返しサイクル」まで意識していない場合が散見されます。
さらに、パッケージ材料と実装工程の“相性”も無視できません。
昭和から続く慣習で「ずっとこの接着剤だったから」という惰性で選ばれているケースもありますが、材料科学は日進月歩。
わずかな材料選定ミスが、大量の初期不良・潜在不良に繋がるリスクを孕んでいます。
電気的ストレスによる絶縁破壊・リーク
技術進化に伴い、パワーデバイスへの電圧印加はますます高くなっています。
ダイオードやIGBT、MOSFETといった素子が、設計値ギリギリの状態で運用されることも増えています。
その結果、絶縁膜の劣化や微細クラックによるリーク電流、場合によっては絶縁破壊による短絡事故も発生します。
ここでも「試験状態は良好でも、実際の負荷変動・温度変化まで考慮できていない」甘い設計思想が根強く残っています。
現場の実情:設計と品質保証が分断している問題
実践現場では、設計部門・品質保証部門・生産技術部門がきちんと連携できていないことが、信頼性問題の温床になっています。
設計部門が「図面上は間違っていない」と主張しても、品質保証部門は“現象面”しか見ず、根本原因を特定できないことが多いです。
また昭和型縦割り組織の“壁”が想像以上に大きく、「誰も責任をとりたくないから動かない」悪しき文化が残っている企業も少なくありません。
現場目線で見ると、「設計図面は理想、工程現場は現実」。現実を踏まえたラテラルな視点で問題解決を進めることが本当の信頼性設計につながります。
信頼性向上のための設計ノウハウと改善アプローチ
1. 前倒しの信頼性シミュレーションとモデルベース開発
従来、パワーデバイスの信頼性評価は「製品ができたあとに試験・評価」というプロセスでしたが、これでは歩留まりと手戻りが発生しやすくなります。
今後のトレンドは“設計工程で前倒ししたシミュレーション”です。
熱応力・電気ストレス・材質劣化の挙動を多角的にデジタルシミュレーションし、NGシナリオを事前に潰し込むことが肝要です。
たとえば、“フーリエ熱伝導方程式+有限要素法(FEA)”を併用したモデリングは、最適なパッケージ設計を大きく前進させます。
さらに、昨今主流のモデルベース開発(MBD)を導入することで、実設計への落とし込み精度も飛躍的に向上します。
2. アナログからデジタルへの転換とDX人材の育成
昭和以来の「職人勘だけで組み上げる」やり方から、数値・データ管理を中心とした設計体制への変革が必要です。
パワーデバイス分野でもデジタルトランスフォーメーション(DX)は避けて通れません。
とはいえ、現場の“おじさん技術者”まで一足飛びにデジタル化できるわけではありません。
現場目線のラテラルなアプローチでは、「既存の熟練者のノウハウをAIやデータベースに形式知化→若手や設計者が活用する」橋渡しプロセスが不可欠です。
IT部門頼みではなく、生産・設計の現場主導でDX人材を育成することが、逆説的に日本型製造業の競争力を維持するポイントになります。
3. サプライチェーン全体での共同改善活動
パワーデバイスは、1社単独での設計改善だけで信頼性を確保できるものではありません。
半導体チップメーカー、パッケージ業者、実装EMS(電子機器受託製造サービス)、そして最終製品OEM(相手先ブランド製造)まで、多層的なサプライチェーンが絡み合っています。
バイヤーやサプライヤーの双方の立場で見ると、「自社だけがギリギリの仕様でコストダウンを強いられる」状況に、どうしてもなりがちです。
ここで重要なのは、「品質問題情報をサプライチェーン全体で共有し、技術的な課題も協調して改善する文化」を根付かせることです。
調達先を単なる価格交渉の対象ではなく、“技術パートナー”として位置付けることが、長期的な信頼性確保への捷径となります。
昭和型アナログ業界文化にどうアプローチするか
なぜ「昔からこれでうまくいっていた」が通用しなくなったのか
技術者の世界には「昔からこれで問題なかった」「今回もこの材料で大丈夫なはず」といった思い込みが根強く残っています。
しかしグローバル市場では、製品の使われ方や期待水準が年々高度化しています。
さらには部材の調達難やサプライヤーごとの質のばらつき、海外製品との数値競争など、「今まで通用していた製造ノウハウ」が急速に時代遅れになりつつあるのです。
「アナログからデジタル」への転換、「個人技から組織知」への昇華、これを推進できるかが、今後の製造業の生死を分けます。
現場目線のラテラルシンキングが突破口に
ラテラルシンキング、つまり「水平思考」で他業種や異分野のノウハウを積極的に取り入れる姿勢は、停滞した現場の閉塞感を破る鍵になります。
たとえば、車両用パワーデバイスでは車載規格(AEC-Q101等)が標準化しており、これを産業機器分野にも取り入れる。
あるいは半導体業界の“リーン生産方式”や“品質流出ゼロ体制”を、材料調達や組立ラインの現場改善にも活用する。
現場技術者自ら“他の現場を見に行く”“異業種交流会に参加する”“外部コンサルの意見に耳を傾ける”などの自発的行動が大きなイノベーションを呼びます。
パワーデバイス信頼性確保の業界動向と今後の展望
標準化とオープンイノベーションの加速
電動車両や再生可能エネルギー市場の拡大で、パワーデバイス分野にも「国際標準化」の波が押し寄せています。
日本国内だけで通用する“我流”の設計思想や現場ローカルルールが、世界市場での競争力低下につながる懸念が高まっています。
今後のトレンドは、IECやJEITAなどの国際・業界標準への準拠、さらには顧客・サプライヤー・アカデミアを含めたオープンイノベーションの推進にあります。
品質保証から品質創造への進化
従来、品質保証は「生産ラインで規格に適合しているかチェックする」活動が主でした。
しかし今後は、部品設計段階から信頼性を“造り込む”QbD(Quality by Design)の設計哲学が重要です。
また、パワーデバイス単体の信頼性確保だけでなく、システム全体の最適化、コストダウンと品質向上の両立など、高度なノウハウが求められます。
バイヤーやサプライヤーの役割も、価値創造型へと大きく変容していきます。
まとめ:100年企業を目指すための“現場力×設計力”
パワーデバイスの信頼性確保は、単なるテストや確認項目の増加だけでなく、「現場で現実を見据えた設計」と「異分野ノウハウの水平展開」を両輪で推進することが重要です。
昭和から続くアナログ習慣の中でこそ、ラテラルシンキングを活かした着実な変革が求められます。
バイヤーを目指す方、サプライヤーの立場でバイヤーの本音を知りたい方、現場で苦労している製造業エンジニアの皆さま。
“現場力と設計力のハイブリッド”こそが、将来の日本型ものづくりを牽引する礎となります。
自分の現場でできることから一歩ずつ、「信頼性で差別化する」挑戦をはじめましょう。
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