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予備解析を省略した結果、量産立ち上げで大破する設計ミス

目次
はじめに:予備解析を省略するリスクとは
製造業の現場では「とにかくスピード重視」「コストダウン」が合言葉のように叫ばれています。
このプレッシャーの中で、設計から生産までの工程をできるだけ短縮しようとする動きは今や日常的です。
特に最近の業界トレンドとして、設計段階で行うべき「予備解析」を省略・簡略化してしまうケースが後を絶ちません。
その結果、一見順調に進むはずだった量産立ち上げで、大破につながるような致命的設計ミスが明るみに出てしまうことが増えているのです。
本記事では、現場で数多くの“予備解析省略事故”を見てきた筆者が、なぜ予備解析が軽視されてしまうのか、また、どのようなミスが発生し、それを未然に防ぐにはどうすればよいのかを、実践目線で具体的に考察します。
バイヤーやサプライヤー、ものづくり現場の皆様の参考になれば幸いです。
予備解析とは何か?その役割と目的
予備解析の定義と具体的な内容
予備解析とは、製品設計段階で行う各種シミュレーションや机上検証の総称です。
典型的な例として、以下のようなものが挙げられます。
– CAE(構造解析・熱解析・流体解析)
– 材料選定の評価・実験
– 成型・加工性のシミュレーション
– 先行試作・プロトタイプ試験
– 製造工程フローの仮当てとリスク洗い出し
– コスト試算・調達方針確認
予備解析は、製造現場で「やって当たり前」、的確にやってこそ後工程での手戻り・コストアップを未然に防ぐ“初期ダメ取り”です。
なぜ予備解析を省略したくなるのか
予備解析を十分に時間をかけてやろうとすると、まとまったリードタイムが必要になります。
しかし以下のような理由で省略しがちになります。
– 市場や顧客からの「納期最優先」プレッシャー
– 「自前の経験知」でリスクを見抜いたつもりになる慢心
– 十分な解析リソース人員・ツール不足
– サプライヤーや外注先に“丸投げ”してしまう体質
– 費用削減圧力から「必要最低限でOK」とされる社内風土
実は、こうした状況は昭和の時代から繰り返されてきたアナログ体質そのものです。
現場感覚では「とりあえず形にすれば何とかなる」と軽視しがちな風潮が根強く残っています。
予備解析省略によって引き起こされる主な設計ミスの実例
1. 製品強度不足・変形による不具合
たとえば樹脂部品の強度をCAEで検証せず、「従来品と同じ肉厚だから大丈夫」と思い込んで進めるケース。
量産試作段階で「一部部位の割れ」「荷重による変形」が発覚し、大規模な金型修整・作り直しに発展することがあります。
2. 異材組み合わせ・熱膨張差による寸法不良
アルミと樹脂、ゴムと金属など、異種材料のアセンブリ品で熱変形を評価せず、そのまま設計を進める。
温度サイクル試験で機能不良・クラックが発生し、最終品での致命的欠陥となる事例も珍しくありません。
3. 生産ラインでの“詰まり”や作業性不良
紙上レイアウトだけでライン設計した結果、「実際に流すと治工具がぶつかる」「人手作業の手順が煩雑」「部品供給の動線が成立しない」など、生産現場でトラブル続出。
量産立ち上げ直前に現場ラインが大混乱、納期遅延+追加コストが大きく跳ね返ります。
4. 部品調達・サプライヤー不適合
設計上は成立する部品でも、量産調達時に「量産数に見合うサプライヤーが存在しない」「コストが3倍になる」「納期が半年」といった事態が発生。
設計主導で調達への事前相談やコスト評価プロセスを怠った場合に、完成品納入が全てストップする“サプライチェーン崩壊”を招きます。
5. 危険な品質リスク:リコール・社会的トラブル
設計段階で耐久性解析、リーク試験などの信頼性評価も簡易で済ませ、量産立ち上げ後に“現場クレーム”として発覚する。
製品出荷後のリコール、損害賠償、安全問題へ発展すると、企業ブランドそのものに甚大なダメージを残します。
なぜ今も“アナログ業界”では予備解析が抜け落ちるのか?
根強い「経験第一主義」と“仕事丸投げ”体質
現場経験が豊富なベテランが多い製造業ほど、「俺のカンで大丈夫」「昔からこうやってる」のムードが優先されがちです。
また、「予備解析=技術部門の仕事」という部門任せの風潮も根強く、全体最適より“個別最適”がまかり通ります。
“人・モノ・カネ”のリソース不足
予備解析の高度化には、最新のシミュレーションツールや専門解析人材の育成が不可欠です。
しかし中小製造業も含めて、日々の受注生産で手一杯になると「人が足りない」「解析費がもったいない」と、つい目先優先で判断しがちです。
サプライヤー・バイヤー間での情報格差
設計側が「この仕様で発注」と一方的に条件を示し、サプライヤー側は「言われた通り納めればOK」というスタンス。
互いに“本音”をさらけ出して協議する風土が育たず、重要な予備解析工程が抜け落ちることにつながります。
上流から下流への「手戻り許容ゼロ」プレッシャー
「とにかく前倒しで進めろ」「遅延は許さない」という短納期プレッシャーが横行すると、設計者もリスク作業の圧縮・省略に走らざるを得なくなります。
表面的な“納期達成”のみが評価尺度となり、長期的な品質・信頼性につながる“見えない仕事”が評価されにくいのも原因です。
求められる現場主導型の予備解析改革とは
設計段階で「生産・調達・現場」の巻き込み型ワークフローを構築
理想的なのは、“設計主導”から“多部門巻き込み型”へのパラダイムシフトです。
設計、調達、生産技術、品質管理、現場作業者それぞれが、早期から案件レビュー・リスク抽出に関わる。
これが全社的な予備解析品質の底上げ、ノウハウ横展開につながります。
デジタルツール+現場カイゼンの両立
AI/CAE、デジタルツイン、3Dシミュレーションなど、最新デジタルツールの活用も有効です。
ただし、机上の理論値に頼りすぎず、実際の作業現場での“カイゼン活動”や“ヒューマンエラー”事例の蓄積・フィードバックが不可欠です。
クラウド活用で過去不具合データベースを横断検索する仕組みなど、現場知見のシェア仕組みづくりも重要です。
バイヤー・サプライヤー間の本音対話の仕掛け作り
調達部門とサプライヤーが、単なる価格/納期の交渉だけでなく、設計段階から「予備解析フロー」「検証評価ポイント」をオープンディスカッションする文化が大事です。
現場レベル打合せで、お互いのリスクや困りごとを早期共有できれば、二重投資や手戻りのない「ウィンウィンのものづくり」が成立します。
まとめ:ラテラルシンキングで未来のものづくりを切り拓く
昭和型の経験知や目先の省略主義だけに頼るのではなく、多様な視点と新しいツール・体制を取り入れた「ラテラルシンキング(水平思考)」が、今後の製造業発展には欠かせません。
予備解析を省くことで一時的にコスト・リードタイムを削減したように見えても、量産立ち上げ時の大破・設計ミスによる損失は計り知れません。
これからの製造業では、「全体最適」「現場巻き込み」「本音のコミュニケーション」を軸に、設計と生産、調達、現場管理を横断する“予備解析改革”が必要です。
読者の皆さんには、ぜひ自社の現場、日々の業務を改めて見直し、新たな視点からものづくりを進化させていくきっかけとして本記事を役立てていただければ幸いです。