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靴底がはがれにくい接着剤と加硫条件の組み合わせ設計

目次
はじめに:なぜ「靴底がはがれにくい」が重要なのか
靴の耐久性を大きく左右するのが「靴底のはがれ」です。
アッパー(甲部分)とソール(靴底)は異なる材料でできていることが多く、接着には高度な技術とノウハウが求められます。
靴底が剥がれると使用感の悪化だけでなく、安全性のリスクにも直結します。
また、クレーム対応や再作業、ブランド信用の低下といった経営的損失も無視できません。
靴の生産現場では「いかに靴底を強固に接着するか」が、バイヤーや生産管理、生産技術、品質管理、はたまた材料メーカーなどすべてのサプライチェーン関係者にとって避けては通れないテーマとなっています。
本記事では、プロの目線で「はがれにくい接着」がどのように実現されるか、特に接着剤の選定と加硫条件の設計という2大要素に絞って、昭和から続く現場の知見も交えながら、実践的なアプローチを詳しく解説します。
靴底接着の現状と、アナログ業界の課題
靴底接着の一般的な工程
靴底の接着工程は、アッパー・ソールの下処理(洗浄やプライマー塗布)、接着剤の塗布、一定時間のオープンタイム(乾燥)、加圧や加熱による圧着など、多段階のプロセスで構成されています。
この一連の工程は、ライン作業の効率化と並行しつつ、「適切な接着剤」×「正しい工程管理」が守られてはじめて、高品質な接着が実現します。
アナログから抜け出せない実際の現場
製造業、とりわけ靴やゴム製品の工場は、今なお「職人技」「経験則」に頼る部分が多く残っています。
例えば”今日は気温が高いから乾燥時間を長くする”あるいは”この材料はいつも通りでいけるだろう”といった判断が現場レベルでなされており、工程ごとの定量的な管理指標が十分に根付いていないケースが散見されます。
また、OEMやODM生産が主流の日本靴産業は、材料サプライヤー、製造工場、ブランドバイヤーが物理的・心理的に離れているのも特徴です。
そのため「仕様書通りにやったのに剥がれた」といった責任のなすり合いや、「元々材料の選定に無理があったのでは?」という場当たり的な問題解決も発生しがちです。
靴底がはがれやすくなる主な要因
靴底がはがれやすくなる原因として以下のようなものが挙げられます。
1. 材料の選定ミス
アッパーやソール材料(PU、PVC、EVA、ゴム、合成皮革など)ごとに最適な接着剤は異なります。
材料サイドの可塑剤や離型剤の残存が物理的なはがれの原因となることもあります。
2. 接着剤の選定ミス・管理不良
アッパー、ソールそれぞれに合わせた専用接着剤(ポリウレタン系、クロロプレン系など)の選択を怠ると、そもそも十分な接着力が得られません。
さらに接着剤の保管状態(湿気・温度)、製造ロットごとの品質安定性も見落とされがちです。
3. プロセス管理の甘さ
前処理・塗布・オープンタイム・加圧・加熱といった各工程の管理指標が曖昧だと、十分な強度が得られません。
特に加硫条件が不適切だと、せっかくの良い材料や接着剤の性能が発揮できません。
現場発想で考える靴底接着強度アップのポイント
1. 接着剤選定の科学的・現場的アプローチ
・基材同士の相性を徹底調査
接着剤メーカーから提供される”適用表”は参考になりますが、量産現場に即した実験データの蓄積が圧倒的に効果的です。
現場で材料ロットや生産条件が変わるたびに、「小ロット」で強度テストを繰り返すこと。
これはデータドリブンな品質管理がまだ浸透しきっていない現場にこそ推奨したい方法です。
・各材料の化学的特性を把握
例えばPUソールは柔らかく反発性が強い分、接着剤の柔軟性が不足すると、ついてもすぐ剥がれることが多いです。
逆に硬質PVCやEVAはプラスチック特有の表面エネルギーの問題で、密着しにくい場合があります。
現場でのトライ&エラーも重要ですが、最新の材料技術や接着剤開発動向も踏まえ、サプライヤーと技術サポートを連携させることがポイントです。
2. 加硫条件の最適設計
・温度、時間、圧力の管理体制を強化
加硫(加熱圧着)は分子レベルでの化学反応(架橋)に直結します。
(例:120℃ × 10分 × 0.5MPa など最適設定あり)
しかし現場では「せっかちだから」と短縮したり、「効率重視」で一部の靴のみ過剰加熱されるなどのバラつきを生みがちです。
「責任者が管理指標を分かりやすく可視化すること」、および「設備の点検・メンテナンス(ヒーター異常、圧力バルブのズレなど)」が真剣に求められます。
・現場トライアルによるフィードバック体制
理論値だけでなく「実際に歩いてみてどうなるか」「1日着用してみて熱劣化はないか」などの現場目線が重要です。
従業員サンプリングや現場スーパーバイザーのチェック体制が、カイゼン活動の出発点になります。
3. 前処理~塗布の一貫管理
・アッパー/ソールの汚れ・離型剤除去
洗浄作業・下地処理(例:サンドペーパー、プライマー塗布など)のルールを、工程管理表などで可視化しましょう。
・接着剤塗布の薄膜化・均一化
過剰な接着剤は乾燥・加硫不良や強度低下の原因です。
薄く・均一に、ロボットアプリケータなど自動化ツール導入も検討されていますが、小規模現場では「定期的な技術指導会」も十分有効です。
昭和型文化はどう変わる?デジタル×現場力の最前線
アナログ現場知見のデータ化・マニュアル化
接着強度のベストプラクティスも、個人技・属人化されたノウハウとして埋もれがちです。
これを「デジタル一元管理」することで、現場の品質ばらつき削減・教育コスト削減が狙えます。
たとえば「この材料×この接着剤×この作業者×この加硫条件」でどんな品質差が出たか――こうしたデータを蓄積し、次工程や次世代にしっかり伝えていくために、IoTセンサーやAI画像判定などの導入も進行中です。
工場長・管理職が果たすべき役割は?
現場改善は「机上論+現実論」のハイブリッドが重要です。
生産管理や品質管理部門が「ルールを守らせるだけ」でなく、「現場の声=なぜトラブルが起きたか、どの段階で勘や経験が必要だったか」まで深掘りし、技術部門・バイヤー・サプライヤーを巻き込んだPDCAサイクルを徹底しましょう。
さらにはコストダウン要求だけでなく、「長期的なリスク低減」「多能工化の教育」「スキルマップ化」こそ管理職の価値です。
サプライヤー/バイヤー目線で見る、はがれない靴底接着のこれから
バイヤーが最重視すること
・スペック通りの強度保証
・外観不良やロットばらつきの最小化
・コストだけでなく、安全・品質・生産性アップのトリプルバランス
これらの観点から「仕様変更時の連絡手順」「試験サンプル提出のスピード」「トラブル対応の透明性」も重視されます。
サプライヤーはどうバイヤー視点に寄り添うか?
現場経験者としてのアドバイスは「単なる言い訳」「コスト理由だけの安易なスペックダウン」は正直NGです。
より望ましいのは
・現場データを数値化して正直に開示
・「現場でテストして○○%の歩留まり改善を達成」といったストーリーを持参
・困ったときは自社だけでなく他工場や同業他社のベンチマーク事例も紹介
こうした姿勢が、結局バイヤーから選ばれ続けるサプライヤーの成功要素となります。
まとめ:未来の「はがれない」靴底接着へ向けて
靴底がはがれにくい接着の実現は、単なる「いい材料・いい接着剤」というレベルの話ではありません。
加硫条件、現場管理、プロセス設計、サプライチェーンの連携、そして時代遅れな現場文化の改善――すべての要素が有機的に結びついてこそ、真の品質が達成されます。
昭和時代の「職人芸」と、令和時代の「デジタル活用・現場データの最大化」とが融合することで、靴づくりの現場はまだまだ進化していく余地があります。
生産現場で働く人も、バイヤーを目指す人も、サプライヤーも、“靴底はがれ”という現象の裏にある現実を深く理解し、世界市場で戦える競争力作りに取り組んでいきましょう。
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