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破壊力学と有限要素法で材料強度を評価する設計ポイント

目次
はじめに ― 製造業における材料強度評価の重要性
日本の製造業は、世界的にも高い品質と精度を誇ります。
しかし、その裏側には、部品や製品の設計段階でいかに正しく材料強度を評価できるかという「見えない努力」が不可欠です。
新素材の登場や、顧客からのさらなるコストダウン要求、突発不具合への厳しい視線。
こうした業界動向の中で、現場目線で“本当に使える”材料評価の知見が求められるようになっています。
特に注目されているのが、「破壊力学」と「有限要素法(FEM)」という2つのアプローチです。
本記事では、現役のバイヤーや製造業に携わる皆様はもちろん、サプライヤー側からバイヤー視点を知りたい方にも役立つよう、破壊力学と有限要素法を活用した実践的な材料強度設計のポイントを現場の視点で掘り下げて解説します。
破壊力学とは何か? 現場の“不良品対策”から生まれた理論
従来の強度評価からのパラダイムシフト
かつての製造現場では、設計図通りに作れば壊れない、を前提に「許容応力設計」が基本でした。
しかし想定外のクラックや欠陥、極値荷重による突発破壊など、実際の製造で「計算通りにいかない」現実に直面することが多かったはずです。
このとき重要になってくるのが、「局所的な応力集中」に起因する材料破壊のメカニズム。
従来の設計指針では見落としがちなこうした微細な現象に迫ったのが、破壊力学という学問分野です。
破壊力学の基礎:K値、J積分、亀裂進展
現場ではよく「K1cやJICって何?」という声も聞きます。
破壊力学では、材料に生じた微細な亀裂(クラック)が“どの時点で致命的破壊につながるか”を定量的に評価します。
– K値(応力拡大係数):亀裂先端の応力集中度を表し、材料が「さらに割れるか否か」を予知する指標です。
– J積分:非線形な材料応答や大きな塑性変形がある場合の評価に使われます。
– 破壊靭性値:材料ごとに定まった「安全限界」のようなものです。
特にバイヤーや設計者にとって、図面上「同じ材質」でも、加工時の微細な傷や母材ロット差でK値は大きく変化することを意識したいポイントです。
有限要素法(FEM)の役割 ― 設計現場の時短・高度化ツール
FEM導入前の現場風景 ― 綿密な実験と経験則頼み
昭和から平成にかけての現場には、FEMシミュレーションツールなどありませんでした。
設計段階では綿密な試作検討や、熟練技術者の経験則に頼るしかなかったのが実情です。
しかし、顧客要求の多様化やコストダウン、人手不足など現代の製造業を取り巻く環境では、「計算で壊れ方を予測できる」FEMの導入は必然的流れとなっています。
実務に活かすFEMの基本と注意点
有限要素法(FEM)は、部品全体を微小なメッシュ(有限要素)に分割し、それぞれの応力・ひずみを計算する手法です。
– 応力集中部の可視化
– 形状最適化(軽量化やコスト低減)
– 試験工程省略やサイクル短縮
など設計・開発業務での革新的な効率化を実現します。
ただし、モデルの作り方や境界条件・荷重設定が不適切だと、現実とはかけ離れた「机上の空論モデル」に陥る危険性があることも現場目線で強調したい点です。
破壊力学とFEMを「つなげる」現場設計ポイント
1. 欠陥顕在化リスクを見抜く
素材には必ず加工傷、ミクロな欠陥が付き物です。
一見「スペック通りの材料」でも、現場では「初期亀裂長さa」が偶発的に大きくなっていたり、溶接部・曲げ部での応力集中が無視できません。
FEMで部品全体の応力場を解析し、高応力発生箇所をピックアップ。
その部位ごとに、破壊力学パラメータ(K値やJ値)が材料限界を上回るかどうかを検証することがトラブル未然防止につながります。
2. シンプルな形状にも潜む「罠」
バイヤーや設計者にありがちなのが、「丸棒や板など単純素材なら過剰設計で十分」と考えてしまうことです。
しかし、抜き加工時の微小なクラック・錆・溶接跡など、想定外の初期欠陥が原因で局所破壊が起きることも。
FEMで「過渡応力」ポイントを洗い出し、最悪初期欠陥(既知の材料データから妥当な範囲で推定)でK値/J値チェックすることで、本当に安全側設計かどうかを判定するプロセスが重要になります。
3. マルチマテリアル化時代の新リスクとFEM連携
近年は製品軽量化を目的に異種材接合・複合材(CFRPや樹脂・金属複合)などマルチマテリアル化が加速しています。
その場合、「異種界面」で生じるクラック伝播パターンや、材料本来の“強さ”ではなく“弱い界面”が主因となる破壊がしばしば発生します。
FEM解析時、材料ごとの特性値(ヤング率・亀裂靭性など)はもちろん、界面モデルの設定や混合則をどう適用するかが極めて実践的なポイントとなります。
現場を変える思考法 ― ラテラルシンキングによる設計革新
現場事例:強度評価の「枠」を壊す
ある工場では従来「厚み確保=安全」「溶接は太く長く」といった経験則が強固に根付いていましたが、FEMでの応力解析/破壊力学的な評価を用いることで、「形状最適化+局所補強」の新アプローチを導入。
結果、コストダウン&重量低減とともに、クレームゼロの用命期間を達成することができました。
「なぜ壊れるか」→「どう壊れるか」へ
従来の日本の製造現場では、「不具合は再発防止書で根本原因を探る」ことは重視されてきましたが、「そもそもどんな形で材料が壊れるのか」を事前に予測し、設計にフィードバックする仕組みは弱かったと言わざるを得ません。
破壊力学+FEMという2つの武器を使い、「どう壊れるかを可視化」し、潜在的なリスクをゼロに“設計品質”で先取り管理する視点を持つことが今後の強い現場力となります。
バイヤー/サプライヤー視点での実践アドバイス
QCDだけでなく「設計品質」の伝達力を磨く
バイヤーはコストダウンを狙う一方で、安易な部品切り替えや仕様変更によって“亀裂リスク”を増やしていないかのチェックが不可欠です。
調達先サプライヤーに「K値やJ値評価」「FEM解析データ」の提出を求めることで、QCD(品質・コスト・納期)に加えた「設計品質」の透明化が進みます。
現場実証とのギャップを埋めるチェックリスト
– FEM解析モデルは実物・現場条件を十分に反映しているか
– 初期欠陥・加工傷の想定を妥当なレベルで入れているか
– 破壊靭性値など材料物性値は最新ロット分も含めて確認しているか
こうした観点から、図面・仕様審査時に具体的な材料強度確認項目を明確化しておくことが、バイヤーには好まれる“賢い調達管理”に直結します。
まとめ ― 製造業の未来を切り開く「現場目線の材料強度設計」
破壊力学と有限要素法という2つの技術は、決して専門家だけのものではなく、すべての製造業従事者にとって“現場の真実”に光を当てるものです。
高度な解析や数値だけに頼らず、実際の製造現場のギャップや、見落とされがちな微小欠陥リスクに敏感であること。
そしてラテラルシンキング=「常識や過去の経験則の外側」で考える力が、QCDのみならず“設計品質”を高め、激変する製造業界でのサバイバルに不可欠な武器となります。
バイヤーを目指す方、サプライヤーとしてバイヤーと価値ある関係を築きたい方も、「破壊力学+FEM=設計品質を制する力」を現場に根付かせていくことが、未来のものづくりに強さとしなやかさをもたらすでしょう。
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