投稿日:2025年11月4日

製造業の品質トラブルを防ぐための設計審査と承認プロセス

はじめに~品質トラブルはなぜ起こるのか

製造業において品質トラブルはつきものです。

長年現場にいると、新しい設備や仕組みを取り入れていても、毎年どこかで必ず品質不良やクレームが発生してしまう光景を何度も目にします。

それは、製造業自体が人の手や判断を介す複雑な業務プロセスを持ち、ベテランや新人、設計部門や現場など多様な視点が交差している構造的な要因があります。

また、昭和のアナログ文化を引き継ぎ、経験や勘、口頭伝達に頼る伝統的な慣習が根強く残っていることも、品質リスクの伏線となっています。

しかし、近年のサプライチェーン拡大やグローバル調達の進展、顧客要求の高度化、そして法規対応など、多様な品質リスクは増すばかりです。

こうした中で、品質トラブルを未然に防ぐために最も重要なのが「設計審査」と「承認プロセス」の徹底です。

本記事では、20年以上製造業に携わった現場目線から、実践的かつ最新トレンドを交え、設計審査・承認プロセスの要諦を解説します。

なぜ設計審査が品質トラブル防止の要となるのか

工程での「出来映え」だけでは品質は担保できない

多くの製造現場では、図面や仕様書どおりに製造されたか、検査で合格したかをもって「品質が守られた」と捉えがちです。

しかし、肝心の設計段階・計画段階で想定外のリスクや漏れがあれば、どんなに工程で努力しても後戻りできません。

例えば、設計図の「公差」設定が曖昧だったり、材料選定がコスト優先で最適化されていなかった場合、量産時に機能不良や強度不足、サプライヤーでの加工不能など、さまざまな問題の火種が生まれます。

現場で発生する不良の多くは、こうした「上流段階での不備」に起因することが非常に多いのです。

設計・開発段階でのリスク「見える化」こそ真の品質管理

現代の大手メーカーでは、設計審査(DR=Design Review)を品質管理システムの最重要プロセスに位置づけています。

これは、設計や仕様が確定するタイミングごとに、関係者が集まり「リスク洗い出し」や「第三者視点での妥当性確認」を徹底的に行うものです。

たとえば、
・材料や部品の入手性
・組立て上の不具合リスク
・生産ラインや治具への適合性
・顧客や法規、業界基準への適合
など、多岐にわたる観点からレビューすることで、後戻り不能となる前に「潜在リスク」を炙り出します。

単なる”書類上のハンコ”ではなく、「現場の知見を活かした設計審査」こそが、現代の品質保証の核心と言えます。

設計審査・承認プロセスのベストプラクティスとは

(1)目的・位置づけの明確化

DR(設計審査)や承認は、単なる手順の一部や「やらされ感」で行われると形骸化します。

まずはプロジェクトマネジメントの中で
「このDR会議で何を確認し、どんな品質リスクを潰し込みたいのか」目的を明確にします。

現場リーダーや購買担当、品質保証部門、サプライヤーなど立場の異なる関係者が参加し、それぞれ独自の視点から「設計に潜む危険ポイント」「現場で起こりそうな不具合」「調達の難しさ」といった論点をぶつけ合うことが大切です。

(2)チェックリストやテンプレートの運用

形式的なレビューを脱却するには、具体的な論点を網羅した「チェックリスト」や「質問テンプレート」が有効です。

例えば、
・新規材料の信頼性、サプライヤーの実績調査済みか
・組立工程で”絶対ミスできない”箇所の設計配慮は十分か
・規格変更や部品廃止への対応余地はあるか
・メンテナンスや修理時の作業性は確保されているか
こうした細かな洗い出しを、部門横断でブラッシュアップしてチェックリスト化し、DRごとに必ず活用する仕組みが重要です。

(3)現場目線の意見を吸い上げる「往診型審査」

設計・開発だけが集まって机上で議論しても、現実の製造現場とはギャップが生まれます。

そこで近年は、「現場担当(工場オペレーター、生産技術、メンテ担当)を招いて、彼らの現場視点・実務経験のフィードバックを設計審査に取り入れる」ことが重視されています。

現場の生きた知恵を設計図に活かすことで、
・作業のしやすさ
・不良の発見・未然防止
・省人化・自動化対応
が図れ、品質トラブルの芽を大幅に減らせます。

忘れがちなサプライヤーパートナーとの連携

調達・購買部門の「巻き込み」とその効果

設計の不備や不整合が顕在化するタイミングの多くは、「量産立ち上げ」や「部品サンプル手配」など、サプライヤーとのやり取り段階です。

調達や購買部門が設計初期からDRに参画し、
・市場入手性(納期/価格/サプライチェーン障害)
・サプライヤーの生産技術力や経験
・環境規制や輸出入障壁などグローバルリスク
といった観点で疑問点やリスクを設計段階から提起することで、後々の「量産ロス」「部品調達不能」などの大トラブルを未然に防げます。

現場でDRを「設計者の独壇場」にせず、購買・品質保証も交えた「複眼思考」で進める姿勢が、トラブルゼロのカギとなります。

サプライヤーの品質保証力を見極める審査目線

バイヤーを目指す方、またサプライヤー側の担当者に特に伝えたいのは、「サプライヤー自身の設計審査・変更管理体制」にまで目を光らせることの重要性です。

サプライヤーが自社製品仕様を勝手に条件変更・コストダウンしていた場合、ユーザーであるメーカーの品質トラブルに直結します。

したがって、サプライヤーとの間で
・設計変更時の必須報告ルール
・”なぜ変更したいか”という根拠(経費削減・環境規制・工程改善など)の開示
・部品ごとの「承認手順」や「図面履歴」管理
を徹底し、製品ライフサイクル全体で変更点を追跡できるように仕組み化しましょう。

逆に言えば、こうした管理レベルの高いサプライヤーとは、長期的かつ信頼関係を深めた協業ができるため、購買先選定時には重要な評価軸となります。

アナログ業界でも導入しやすい改善アプローチ

現場主導の「設計審査ワークショップ」の実践

デジタルツールや高機能なPLM(製品ライフサイクル管理システム)を即座に導入できない中小工場やアナログ文化が残る現場でも、工夫次第で設計審査を強化できます。

例えば、設計と現場、購買や品質管理のキーマンを集めて、
・過去の不良事例やベストプラクティスを共有する「事例勉強会」
・新規設計時の「現場合同レビュー」を実施し、自由に意見を出し合う
・設計変更履歴や承認経路を紙ファイルでもよいので必ず残し、誰でも追跡可にする
といった、小さな仕組み作りから始めましょう。

また、年長者・ベテランの持つ暗黙知(ノウハウ)を若手設計者に継承する場としても、設計審査会議は効果的です。

まとめ~常に「現場の目」「他部門の視点」を設計プロセスに

製造業で品質トラブルを未然に防ぐには、「設計段階での徹底したリスク洗い出し」と、「多部門・現場主体のレビュー文化」が不可欠です。

設計審査(DR)や承認プロセスを単なる通過儀礼にせず、現場作業者やバイヤー、サプライヤーも巻き込んだ立体的な議論と、本質的なリスク管理を日常化しましょう。

今日からできる身近な改善から、業界全体での仕組みの高度化まで、少しずつ”昭和のやり方”をブラッシュアップしていけば、品質クレームゼロ、安定供給、工場の生産性向上が達成できるはずです。

今こそ、製造業の未来を支える「設計審査・承認プロセス」を、現場力で一歩進化させていきましょう。

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