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試作品の測定データが安定せず判断ができない設計レビューの苦悩

目次
はじめに―現場の「測定データの不安定さ」という壁
製造業の現場では、新しい製品や部品の開発において、試作品の評価は欠かせません。
その過程で必ずといって良いほど直面するのが、「測定データが安定しない」という問題です。
この不安定なデータを前にした時の設計者やレビュー担当者の苦悩は、現場経験のある方なら一度は味わったはずです。
しかも、その背景には、データのばらつきだけでなく、検査機器の信頼性、検査手順、そして人の作業スキルの違いといった、昭和時代から続くアナログな課題が根深く残されています。
本記事では、こうした現場目線で「なぜ測定データが安定しないのか」「レビューでどう判断すべきか」「どこに突破口があるのか」を、最新の製造現場動向とともに、実践的・具体的に掘り下げていきます。
測定データが安定しない本質原因とは
1. 測定機器・方法のバラつき
製造業の現場では、意外と「同じ測定機器」「同じ測定方法」だと思い込んでいるケースが多く見受けられます。
新型機の導入が見送られたり、アナログなダイヤルゲージやノギスでの測定を続けていたりすると、メンテナンスの度合いや校正精度によって大きなバラつきが生じます。
また、同じ図面指示でも温度条件や測定冶具の違い、測定回数、さらには作業者の癖によっても結果が変わります。
昭和的な「ベテラン作業者の感覚」で判断されていることが少なくないのです。
2. 試作品そのものの状態変動
設計から製造初期段階の試作品は、材料ロットの違いや加工条件の微妙な変化、治具の安定性不足により、寸法などの測定値が都度異なってしまうことがあります。
多品種少量生産であればなおさら、安定したサンプルを得ること自体が至難の業となります。
3. データ解釈のバイアスと現場文化
「多少のばらつきは現場で吸収できるはずだ」
「過去もこのレベルでOKしてきた」
というあいまいな判断が、測定データのばらつきを容認しがちです。
一方で、品質保証や設計が厳しく突き詰めて「全データ合格でなければ承認不可」とやってしまうと、製造現場との齟齬が深まります。
この「アナログな現場文化」と「数値での絶対評価志向」のギャップも、測定データの取り扱いを難しくし、設計レビューでの判断を複雑にしています。
なぜ設計レビューで判断が止まるのか
1. 判断基準があいまいで合意ができない
設計、品質、製造それぞれの立場で「このデータで良い・悪い」の基準がバラバラです。
「現場的にはこれで量産できる」「設計的には数値的保証が取れない」という対立が生まれ、レビューが進まない典型パターンです。
2. ドキュメント重視と現場感覚の隔たり
設計レビューでは、規格やスペック、測定データの統計処理結果が重視されがちです。
一方で、現場では
「今までの経験上、この程度のばらつきなら加工で対策可能」
「冶具補正すれば十分クリアできる範囲」
といった“現場勘”が根強く、両者が歩み寄れず判断が先送りになりやすいのです。
3. 「前例主義」から抜け出せない業界の壁
製造業の長い歴史の中で、失敗を避けリスクを減らすためには「前回問題なかった=今回も同様」という判断が蔓延しがちです。
しかし、新しい材質や工法など、技術革新が速まる現代では、その前提が必ずしも通用しなくなっています。
古い価値観を引きずったまま意思決定ができず、設計レビューのたびに、現場と管理層で意見が割れてしまうのです。
“測定データが不安定”でも設計レビューを前進させるための実践策
1. 測定条件・機器の統一徹底&見える化
まず、“不安定なデータ”の正体を明確にする必要があります。
同じ品物、同じ箇所でも、いつ、誰が、どの測定器で測ったかを定量化し、条件・手順・治具の違いが起因していないかを徹底的に洗い直します。
さらに、測定方法自体を作業標準書や動画などで共有し、現場のナレッジを体系化することが重要です。
デジタル化が進む昨今では、IoTセンサーや自動測定装置への投資も現実的になっています。
現場主導で測定のDX化を推進することが、根本的な解決につながります。
2. 少量でも目的別にデータサンプルを区分する
「精度保証に必要なクリティカル寸法」「現場判別に有効な参考値」など、意味づけした上でサンプル分けを行い、データ解析の“目的”を明確にします。
また、量産前の試作品であってもミニマムで統計的処理(ばらつき・工程能力分析、ヒストグラムなど)を実現し、現状の変動幅を可視化します。
これは、「絶対基準で合否判定」ではなく、「分散・ばらつき傾向を設計と製造でどう見極めるか」という議論への土台となります。
3. 裁量を持った“現場代表によるレビュー”の導入
設計部門や品質部門だけでなく、現場で実際に作業を行うプロフェッショナルを巻き込んだマルチファンクションチームでのレビューを推進します。
ここで大切なことは、単なる「出席者リスト」にするのではなく、“誰がどの部分の品質に日々責任を持っているか”を明確にしてレビュー体制を組むことです。
人・もの・方法の連携強化により、とくにアナログな現場が根強く残る領域で、よりリアルな合意形成が可能となります。
4. “フィードフォワード型”設計・レビューの推進
従来の「出来上がったものを測って評価する・合否を決める」スタイルから、「予測・要因分析・事前対策」を重視した設計フローへの転換が急務です。
製造現場からの初期異常フィードバック、及び、AIを使った不良予測やパターン解析の活用によって、「なぜ不安定なのか・どこまで許容するか」について早期に議論が可能となります。
これにより設計レビュー自体も、結果の“単純判定会”から、“改善のスタートライン”へシフトできます。
試作品評価時の苦悩を、前向きな技術革新やナレッジ共有のきっかけに変えるのです。
製造業における“測定・判断”の未来と求められるマインド
時代はDX、スマートファクトリーへの転換期にあります。
とはいえ、現場の泥臭い「測定」「判断」「勘どころ」といったアナログ力も、依然として製造業の競争力の源泉です。
安定しない測定データとどう向き合うか――
それは機器の近代化やデジタルツールの導入だけでなく、組織の文化変革と人の意識改革も求められているのです。
「数値だけ」「経験だけ」でもなく、両者をつなぐラテラルな発想で、設計・現場・品質・調達、それぞれの立場から本質的なディスカッションを重ねていく必要があります。
また、調達・バイヤー・サプライヤーの立場も意識し、「この不安定さはサプライチェーン全体でどうリスクを最小化するか」と常に視野を広げること。
結果として“信頼できるものづくり”が、これからの価値となるでしょう。
まとめ
ものづくり現場で避けては通れない「測定データの不安定さ」。
それは昭和世代の現場感覚の残る日本的製造業の素顔でもあります。
現場力とデジタルの融合、組織横断のコミュニケーション、そして本音でぶつかれるレビュー体制――その実現こそが苦悩を突破する鍵です。
現場で磨かれた目線と、ラテラルな発想を持つ皆さんなら、必ずや新しい判断の地平線を切り拓けるはずです。
これからの日本の製造現場が、さらにグローバルで輝いていくことを願っています。
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