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熱可塑性エラストマーへの置換で二次組立を不要化する設計転換

目次
はじめに:熱可塑性エラストマーが切り拓く製造現場の未来
製造業の現場では、コストダウン、生産効率化、品質安定といった永遠の課題に取り組んでいます。
中でも組立工程、特に「二次組立」は人手に依存しがちで、手間やコストの温床でした。
近年、この問題を根本的に解決し得る素材として「熱可塑性エラストマー(TPE)」の採用が注目を浴びています。
従来は不可避とされていた二次組立。
しかし、その必要性を根本から覆す“設計転換”が、TPEの特長を活かすことで具体的に実現可能となっています。
この記事では、TPEへの置換による二次組立不要化の設計転換を現場レベルで解説し、業界に根付くアナログ思考からの脱却、新たなバリューチェーンの発見につなげたいと思います。
熱可塑性エラストマー(TPE)とは?基本特性と従来素材との違い
エラストマーの中核的特長
TPEは、ゴムのような弾力性と、プラスチック同様の成形性を兼ね備えた高分子化合物です。
一般的なエラストマーは加硫を伴う合成ゴムが主体でしたが、TPEは熱をかければ繰り返し軟化・成形できるのが大きな特徴です。
そのため、射出成形機など従来プラスチック製品と同様の生産プロセスへ“ワンショット”で組み込めます。
代表的な種類には、TPU(熱可塑性ポリウレタン)、TPO(熱可塑性オレフィン)、TPS(スチレン系)などがあり、靭性・耐熱性・加工性・耐薬品性など、用途に応じた性能チューニングも可能です。
ゴムや他樹脂との比較メリット
従来の合成ゴム(EPDMなど)は、必ず加硫工程が必要で、形状の制約も大きいです。
また、柔軟性のある部品(たとえばパッキンやグリップなど)は、本体部品と“別体製造→組立”が必要です。
TPEならこれを“成形一体”で生産できるため、後工程の工数削減、品質安定化、部品点数の削減が鮮やかに実現します。
これこそが「二次組立不要化」という現場革命への扉となるのです。
昭和的二次組立工程の実態と、その課題
二次組立はなぜ発生するのか?
昭和時代から現在に至るまで、製造現場では「パーツごとに最適素材を使用し、組立で製品化する」発想が支配的でした。
例えば、家電のボタンや自動車のシール材、工具のハンドルなど、金属や硬質樹脂にゴム部品を組み込むのは常識的な手法でした。
これは“最適材料を個別に調達・加工して組み立てる”発想の延長線上でもあります。
二次組立がビジネスに与える負のインパクト
以下のような課題が生まれます。
– 工数増加:組立工程の追加による人件費・時間消費の上昇
– 品質変動:手組立や接着のばらつきによる不良リスク
– 品番増加:小さな異形部品が増えることで在庫管理の負担増大
– サプライヤー管理:多品種・多工程になることで発注、納期リスクが拡大
IoTや自動化が叫ばれる現代でも、この構造は根深く残っています。
まさに「昭和の合理性」の呪縛です。
TPEへの置換がもたらす二次組立不要化の設計転換
一体成形のインパクト
TPEはプラスチックとゴムの“美味しいとこどり”ができます。
たとえば硬質プラスチックとTPEを「2色成形」することで、グリップ部品やシール性が要求される嵌合部まで一体で成形可能です。
これにより、以下のような設計転換が実現します。
– 従来は別パーツ→TPEで一体成形:組立不要、品質安定
– 接着剤や加硫工程→TPEで射出成形:有害物質・VOC低減、生産リードタイム短縮
現場目線で見れば、ラインレイアウトの簡略化、人員の再配置、工程移動や部品運搬の最小化も大きなメリットです。
具体事例:製品ごとに見る設計の再発明
– 家電のスイッチ部:ボタンと本体筐体をTPEで一体成形。押し心地とデザインの自由度が向上
– 自動車のウェザーストリップ:金属芯材にTPEをコーティングして一体化。組立工程削除
– 工具の持ち手:芯材と滑り止め素材をTPEで共成形。後貼りや挿入不要、剥がれリスク皆無
これらは「組立てる」から「成形する」という設計マインドのパラダイムシフトでもあります。
設計転換に必要な、調達・バイヤー・現場エンジニアの新しい連携
バイヤーからの視点:積極的なコスト・サプライチェーン設計
TPE導入時には、従来の分業(パーツ発注・組立外注)から「成形一体サプライヤー」への乗り換えが求められる場面も多いです。
バイヤーは「単価の比較」だけでなく、総合的なコストダウン(部品原価+工数+在庫負担+品質不良費など)を可視化して、調達戦略の刷新が重要です。
また、TPE原料サプライヤー、成形メーカー(モールドサプライヤー)、設計者と一体化した“共創型バリューチェーン”の組成も必要です。
設計者・エンジニアの視点:仕様と現場実装の“壁”を越える
現場エンジニアは「これまでの常識」に囚われず、TPEの物性データ、成形法、二色金型の活用ノウハウを学ぶ必要があります。
また、開発段階から生産現場、サプライヤーと並走し、“設計-調達-製造”を三位一体で考える視点が求められます。
ここで重要なのは「一体化のための製品構造再設計」や、「量産型金型の早期レビュー」など、従来の二段階フローを乗り越える設計プロセスです。
サプライヤー側の視点:「提案型」パートナーへ脱皮する
単なる受託成形から、提案型サプライヤーへの変革が不可欠です。
– 一体成形の設計支援(DFM:Design For Manufacturability)提案
– TPE材料チューニングや成形技術の違いを活かした差別化
– 量産立上げテスト、品質安定化のための共創(現場立会・共同実験)
これによりバイヤーからの信頼獲得、共に新たなバリューチェーンを創造する土壌が生まれます。
昭和的アナログ業界でも根付くTPE化のジレンマと突破するラテラルシンキング
「現場は変わらない」の声とどう向き合うか
保存性優先、品質のばらつきが許容される、“人手・経験値頼み”の現場は今も多いです。
しかし、人口減少・熟練者退職・サステナビリティ要求の高まりによって“工程ごとの最適化”は時代遅れとなりつつあります。
熱可塑性エラストマー導入は単なる材料置換ではありません。
製品設計、生産技術、調達戦略の垣根を超えた真のラテラルシンキング(水平思考)が不可欠です。
TPE化の導入障壁を乗り越えるロジック
– 新素材の社内承認のハードル:用途別に評価基準を明確化し、試作・フィールドテストを先手で実施
– 金型・設備投資コストへのアレルギー:ROI(投資効果)を定量化し、工程削減分とセットで分かりやすく提示
– 樹脂ベンダー側に知見がない:共創型サプライヤーの選定と、開発初期からの巻き込み
– 現場作業員の抵抗感:「手作業工程の再配置」「多能工スキル転換」「設備操作研修」まで一気通貫でサポート
まとめ:今こそ設計・調達・製造の地平を切り開くとき
熱可塑性エラストマーへの置換による二次組立不要化は、単なる「効率化」ではありません。
製品デザイン、生産体制、組織カルチャーまで刷新するパワーを持っています。
今、日本の製造現場に求められるのは、目の前のコスト削減策を超えた、設計転換によるバリューチェーンの再構築です。
TPEの導入は、その象徴的な一歩となるでしょう。
バイヤーは「調達」の枠を超え、新たな価値創出者として業界の未来をリードする存在に。
サプライヤーは「受注生産」から「提案型パートナー」へと自己変革を。
そして現場エンジニアや設計者は、自らの“現場目線”を武器に、ラテラルシンキングで次世代製造のあり方を切り開いてください。
時代は変わります。
昭和の常識を疑い、熱可塑性エラストマーの可能性を最大限に引き出し、より強く、より柔軟なものづくりの新時代をともに創っていきましょう。
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