投稿日:2025年10月23日

工場発ブランドを立ち上げるためのデザイン思考と顧客共創プロセス

はじめに ~なぜ今「工場発ブランド」なのか~

近年、製造業の現場から新たな価値を生み出す「工場発ブランド」が注目を集めています。
国内外へのOEM供給のみならず、自社の技術やアイデアを直接顧客に届けたい――そんな思いを持つ工場や中小製造業が増えているのです。

かつての日本の製造業は「高品質=受託生産」の時代でした。しかし、情報化の進展とともに、B2Bの垣根を超えてB2CやD2Cとして自社ブランドを展開する機運が高まっています。その一方、現場はどうしても「昭和型」の手法や思考から抜け出せていないことも多く、思うように進まないのが現状です。

今回は、長年、工場長や生産管理、品質保証や調達の現場を経験してきた立場から、「工場発ブランド」立ち上げに必要なデザイン思考と、顧客共創プロセスの実践的方法論を、現場目線で解説します。

工場発ブランドを阻む“昭和型マインド”の壁

意思決定の属人化と縦割り体質

製造業の多くは、工程やセクションごとの役割が厳格に分かれています。
また、意思決定がベテランや役職者、あるいは「部門間調整」で遅れがちです。

この伝統的なマネジメント方式は品質管理や安全面で大きな力を発揮してきましたが、「素早い仮説検証」や「部門横断でのアイデア出し」が求められるブランドづくりの現場では、足かせとなることも少なくありません。

製造現場視点だけでは“解”が出ない時代

これまでの「良いモノを作れば売れる」「QCD(品質・コスト・納期)最優先」のスタンスは確かに業界を発展させてきました。しかしSNSやD2C(Direct to Consumer)の広がりにより、「顧客に届く体験」や「買いたくなる理由」が商品価値の核になっています。

現場発ブランドが飛躍するためには、これまでの“延長線”にない視点の導入が不可欠なのです。

デザイン思考で現場の知恵を「ブランド価値」に転化する

デザイン思考とは何か?製造現場との相性

デザイン思考とは、新規事業や商品開発の現場で用いられる「共感→定義→発想→プロトタイプ→テスト」といったプロセスを重視する思考法です。
ユーザーや市場の声に耳を傾け、「本当に解くべき課題は何か」を現場で共に掘り下げること特徴としています。

工場の現場で培った「現実感覚」や「制約条件に基づく改善力」は、本来デザイン思考と相性が良い部分も多くあります。問題は“答えのない問い”にどう向き合うか。そして現場の知見を、単なる効率化や改善の枠を越えて「価値づくり」に活かす仕組みが必要です。

現場巻き込み型・デザインワークショップのすすめ

デザイン思考を製造現場に定着させるには、「現場参加型ワークショップ」が効果的です。

– 製造現場の作業者・管理者だけでなく、営業、調達、設計、品質保証といった他部門や、場合によっては顧客やエンドユーザーも巻き込む
– 「業務改善」とは異なり、「どんな体験価値を作れるか」をテーマにアイデアを出し合う
– 仮説をその場ですぐに模型や試作品にしてみる「プロトタイピング」で、失敗も許容する

こうしたアプローチにより、現場で眠っていた知恵やちょっとした工夫、暗黙知から新たな発見が生まれます。

顧客と共創する工場ブランド構築ステップ

ステップ1:「顧客像」の深堀りとリアルな現場観察

現場スタッフの多くが、「自分たちの商品を買う人」との距離感を感じています。

デザイン思考で大切なのは、「机上のマーケティング分析」ではなく、実際に市場や顧客の現場を観察し、会話から持つ“なぜ”の連鎖です。
たとえば、「なぜそのツールを選ぶのか」「現場でどう使われ、困っていることは何か」。
直接ユーザーの現場に出向いたり、使い方や困りごとをヒアリングする機会を設けます。

ステップ2:「現場技術×ユーザー課題」着想ブレスト

製品の独自性は、現場のコア技術や磨き抜かれたノウハウにあります。

– 普段は「当たり前」になっている技術や生産方法
– 特注品対応、微妙な手作業、工程改善などの暗黙知

これらが“ユーザー目線の課題”とどのように結びつくか、付箋やホワイトボードを使ってアイデアを可視化します。

ステップ3:試作/プロトタイピングの高速化

おおげさな図面や資料ではなくても、簡易モデルや手作り試作品でテストを繰り返します。
失敗から学びを得て改良する「ラピッドプロトタイピング」は、現場の「できない理由」よりも「まずやってみる」を後押しします。

このステップでは、サプライヤーや部品メーカーとも連携しやすい体制づくりが成否を分けます。
調達や購買担当者が同席しておくと、コスト面や資材調達リードタイムと並行検討が進みやすくなります。

ステップ4:顧客とのリアルな検証&共創サイクル

作った試作品やサンプルは、できるだけ早い段階でターゲットとなる顧客層に触れてもらい、フィードバックを受けます。

ここで大切なのは、ブランド側が「作ったものを判定してもらう」のではなく、「どんな使い方の可能性があるか」「隠れた不満や要望はどうか」を一緒に深掘る姿勢です。

顧客やエンドユーザーも「自分の声が商品に反映される」共創実感が高まると、ファン化しやすくなり、ブランド拡大の大きな推進力になります。

工場発ブランドの未来を切り開く人材・組織

部門横断の「ダイバーシティ・チーム」づくり

工場ブランドの立ち上げには、生産・品質・調達・営業・設計など社内の多様な知見が必要になります。

すべてを一人の「スーパー社員」が担うのではなく、若手・ベテラン・現場・管理職・女性や外国人など、さまざまな視点を持ったメンバーで「小さな多機能チーム」を構築することが成功の鍵となります。

加えて、外部からデザインやマーケティングの専門家などを伴走パートナーとして迎えることも有効です。

現場に「失敗を許容する文化」を根付かせる

失敗やムダを排除し続けてきた現場文化に、「試してみて学ぶ」「次につなげる」思考をどう根付かせるかが、新しい価値創造への大きな課題です。

管理職や工場長クラスが率先して「挑戦を称える」雰囲気を醸成すること。
現場メンバーが互いの工夫をオープンに共有する勉強会も効果的です。

調達・購買担当者の「バイヤー思考」的役割拡大

従来の調達や購買部門は「仕様を守って発注する」ことが主な役割でした。
今後のブランドづくりでは、「どんな技術シーズ・サプライヤーパートナーとオープンで連携し、イノベーションに繋げるか」が求められます。

バイヤーは単なる価格交渉者ではなく、企画段階から開発や設計、品質部門とともに市場視点を持って共創型の立場で動くことが重要です。
また、サプライヤー側も、「バイヤーが何を考えているか」を理解することで、より前向きな連携に発展しやすくなります。

現場目線で見据える「工場発ブランド」の真の価値

工場発ブランドは、単なるD2Cモデルでも、OEM脱却の手段でもありません。
生産現場に根付いた知恵や誇りを、「自ら発信し、顧客と共に価値づくりを進めていく」――この姿勢が新時代の競争力となります。

現場が持つ丁寧なものづくり、工程改善の小さな工夫、現場目線の“こうすれば使いやすい”という発想。これを最大限に磨き、徹底的にユーザーと向き合い、共創サイクルを回すことで、独自ブランドの芯が生まれます。

まとめ~昭和を超えて、新たな地平を共創する~

デザイン思考と顧客共創プロセスは、旧来型製造業が「ブランドを持ちたい」と願う際の大きな道しるべとなります。
分厚い壁を打ち破るのは、現場力と多様な知見の掛け算、そして顧客とのオープンな対話です。

今この時代、工場発ブランドを成功させるためには、「作り手」も「バイヤー」も「サプライヤー」も、互いの立場を理解し、共通のゴールや価値観を持って新たなものづくりに挑むことが必要不可欠です。

これから製造業を目指す方、バイヤー志望・営業に挑みたい方、サプライヤーの立場でバイヤーとの連携を強めたい方――
ぜひ現場目線と未来志向を両立させることで、「工場発ブランド」の新たな価値をともに作り上げていきましょう。

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