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ばね仕様の見直しで材料費と型費を同時に下げる設計の勘所

目次
ばね仕様の見直しが製造コストに与えるインパクト
ばねは、機械や製品の至るところで用いられている極めて重要な機械要素です。
しかし、ばねの仕様は過去の設計を踏襲しがちで、なかなか抜本的な見直しが図られないケースが多く見られます。
実際、昭和時代から続くアナログな現場では、「昔からこの形状で問題なかったから」と安易な設計流用が散見されます。
ですが、ばねの仕様を見直すことで、材料費・型費といったコストの大幅な削減に繋がる可能性があることは、現場経験者こそ意識すべきポイントです。
ここでは、実際の製造現場目線から、「ばねの仕様見直しでコスト削減を図る設計の勘所」について、深堀りして解説します。
ばねのコスト要因:現場でよくある無駄
1. 材料費の「隠れロス」とは?
ばねは、荷重や耐久性に十分な安全率を見込んだ設計がなされる分、安全率を確保しすぎていることが実は多々あります。
例えば、「念のため板厚を気持ち増やしておこう」「心線径を一段階太くしよう」など、漠然とした安全志向が材料使用量の増加に直結します。
これが長期的に見れば部品一つ一つのコスト高を積み上げる“隠れロス”となります。
しかも今、「材料高騰」という避けられない課題も、これをさらに深刻にしています。
2. 型費・金型費の罠
ばねは一般的に専用金型・冶具によって生産されます。
例えばプレスばねや板ばねの場合、ほんの数ミリの寸法変更や形状変更でも、型の設計や製作費が発生します。
仕様が複雑、かつ頻繁に変更されるほど、型費の負担もアップします。
既存の型流用や標準品の活用を避け、固有仕様に走ると、それだけ費用と納期にも直結します。
3. ばねメーカー視点とバイヤー視点のギャップ
多くのばねメーカーは「顧客から言われた通りに作る」というスタンスですが、バイヤーやエンジニアの側も「仕様通りに依頼するから問題ない」と考えがちです。
しかし、この両者の間に“コストダウン”という観点のコミュニケーションが成立していないことが多々あります。
これが、いわゆる「設計コスト高止まり」の源泉の一つです。
材料費削減の実践ノウハウ
1. 過剰スペックの現状分析
まずやるべきは、現状品の設計強度や耐久寿命を改めて計算・評価することです。
実運用の荷重・変位条件、使用回数(耐久サイクル)を明確化し、本当に今のばね仕様が必要なのか“原点回帰”してみてください。
案外、板厚0.5mmを0.45mmに落としても十分余裕があるなど、過去の惰性的仕様から開放されるヒントが見つかることは多いです。
2. 標準品化の推進
カタログに掲載されている標準巻ばねや板ばねの採用検討が重要です。
標準品であれば、特注品より圧倒的に安価かつ短納期で入手可能になります。
図面指定の細かな寸法(L=25→L=23)など「機能非依存のこだわり」がコスト高の主因になっていないか、検証しましょう。
3. 優先すべき材料の選定
材料の見直しも大きなテコになります。
必要以上の高級鋼材(SUS304などステンレス)や、特殊合金(インコネル、チタン)を指定せず、本当にその材質が不可欠なのかを吟味します。
表面処理やコーティングで性能担保が可能なら、母材を安価な炭素鋼やばね鋼に切り替えることで1個あたり10%~30%のコストダウンになる場合も少なくありません。
金型費を削る設計のコツ
1. 型流用・型共通化の発想
新規のばねを設計する場合、過去に使用した型や、同一ラインで使える型との共通化をまず検討します。
例えば内径・外径は同一で長さやピッチのみ違う仕様であれば、部分的な加工変更だけで対応できる場合も多いです。
月産ロットが少ない部品ならマルチ型適用の相談も有効です。
2. 形状簡素化と段取り削減
ばね設計で複雑な断面形状や微細加工を要求すると、追加型や多工程段取りに繋がります。
あくまで必要機能を満たす最小限の形状&寸法へスリムダウンすることが重要です。
また、設計冗長がないか、現場の作業者や加工メーカーと擦り合わせる「ラフスケッチコミュニケーション」も有効です。
3. モジュール化・シリーズ展開の提案
ばね形状を顧客仕様ではなく、社内で「標準品モジュール」としてシリーズ化できる場合、ロット生産による型費償却・コスト圧縮効果を大きく見込めます。
また、ひとつの金型で複数製品に対応する設計ができれば、型費をシェアリングしてイニシャルコストを大きく下げることが可能です。
バイヤー・サプライヤー目線で「コストに効く仕様見直し」アプローチ
1. バイヤーはどう考えるか
バイヤー(調達担当)はサプライヤーからの見積もりを比較し、できるだけ安定調達・低コストを志向します。
ですが、仕様指定が実は「必要最小限」でないことも多々あります。
バイヤーとしては、単純な見積比較に終始せず、材料や製作条件、型費の根拠を設計と連携しながら“Why(なぜそれが必要なのか)”の視点で繰り返し問い直すことが、コストダウン提案につながります。
2. サプライヤーがバイヤーの心理を読むには
一方、サプライヤー(ばねメーカー)は、バイヤーが「どこまでコストを意識しているのか」「現場の本当の使用条件はどうなっているのか」を深掘ることで、仕様緩和や設計変更提案の余地が見えてきます。
例えば「使用環境が屋内であれば、表面処理だけで耐久性基準は十分では?」など現場事情をヒアリングし、より安価な材料や既存型流用案などを逆提案することも可能です。
このような両者の知恵の融合によって、単なる値引き交渉ではない、本質的なコスト削減が生まれるのです。
現場から学ぶラテラルシンキング:飛躍的なコスト改善のヒント
1. 機能分解して“他方式”も検討
そもそも「このばね、絶対に必要か?」を機能レベルで分解して再検討するのも大切です。
例えば締結に使われている押しばねを、構造変更やボルト化によって“ばねレス”に置き換えられる余地がないかなど、設計思想ごと見直してみることで、ばね自体を廃止=材料費、型費ゼロ化という劇的効果が得られることもあります。
2. 他業種の事例転用
自動車業界や電子部品業界でのばね設計の簡素化事例や、標準品流用事例などの他業種事例を積極的に「自分たちの職場」に適用できないか、常にアンテナを高く張ることが現場力向上に直結します。
3. 昭和の“ガラパゴス仕様”をアップデートする
いまだに手書き図面、現場作業者任せの「経験値設計」に依存しすぎている現場も少なくありません。
こうした慣習こそ、設計の思い込みやムダな安全率の温床。
デジタルツールやCAE(コンピュータ解析)を活用したシミュレーション検証により、“見えないムダ”を可視化・数値化して、論理的なコストダウンを実現しましょう。
まとめ:ばねの設計改善で切り開く「新たなものづくり地平」
ばね仕様の見直しは「小さな改善」に見えますが、現場の積み重ねが材料費・型費・作業コストに跳ね返り、全社的な利益を底上げする大きな原動力です。
調達の立場、設計開発の立場、サプライヤーの立場で、今一度現状仕様をゼロベースで問い直す「現場目線の体質改善」が今ほど求められている時代はありません。
昭和から続くアナログな価値観を打ち破り、現場の知恵とデジタル技術を掛け合わせた「新しい製造業の地平」を、一緒に切り開いていきましょう。
特にバイヤーやサプライヤーの皆さんは、設計・現場と協力し、より本質的な仕様見直し提案を積極的に実践してみてください。
それが、これからの日本のものづくりをまた一段引き上げる架け橋になるはずです。
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