投稿日:2025年12月5日

同じ形状でも製造工程によって強度が変わるため設計が揺らぐ課題

はじめに:設計・製造現場で今も揺らぎ続ける「強度」の課題

製造業に携わる全ての方へ、日々求められる「高品質な製品を、安定したコストと納期で提供する」という使命感は年々重くなっています。
生産設備が進化した令和の現場でも、特に「部品の強度が設計通りにならない」現象は根深い課題です。
設計図面上では同一形状の部品であっても、製造工程やメーカー、はたまた工場ごとで強度に差が出てしまう事例は後を絶ちません。
なぜこのような「揺らぎ」が発生するのでしょうか。
そして、それぞれの立場でどのように対策すべきなのでしょうか。

昭和から続く業界常識と、これからの製造現場のラテラルな思考で、それぞれの視点から課題を分解し、新たな地平を開拓していきます。

同じ形状なのに強度が変わる理由

材料スペックだけでは測れない「隠れた要因」

設計段階で部品強度を考える場合、まず材料スペックを参照します。
しかし、材料証明書に記載された数値は「ロット全体での平均値」であり、実際の材料ごとにばらつきがあります。
さらに、微量元素や残留応力、金属組織の差など、目に見えない「隠れパラメータ」が存在します。

例えば鋼材一つを取っても、同じS45Cの表示でも、メーカーやロットによって微妙に硬さや靭性が異なります。
この情報はサプライヤーも、バイヤーも完璧に把握できません。
設計側としては「スペック通り」と信じたいところですが、現場の感覚では「同じ図面でもなぜか割れる」「意外に変形しやすい」といった肌感覚が根付いているのです。

製造プロセスの違いが構造を左右する

さらに決定的なのが「製造工程」の違いです。
切削加工、鋳造、鍛造、プレス、3Dプリンティングなど、同じ形状を作るにも工程ごとに材料内部の組織や応力状態が大きく異なります。

例えば、切削で仕上げた部品と、粉末冶金で焼結した部品では、同じ形状でも内部欠陥の分布や金属結晶の配向が違います。
これらの差は、見た目には完全一致していても強度試験で明確に現れる場合が多いです。
また、熱処理条件や冷却速度も、強度の「揺らぎ」を生む代表的な原因です。

現場でよく聞く
「A工場のは割れたが、B工場のは大丈夫」
「試作は問題なかったのに、量産でNGが出た」
こういった現象の背景には、まさに製造プロセスの潜在的な違いが存在するのです。

見えざる変数が設計者と現場を翻弄する

設計部門ではどうしてもCAD上での「理想モデル」が全ての議論の前提となります。
しかし現場目線では、現実には「目に見えない変数」が無数に存在することを知っています。
加工応力、熱伝導、徐冷・急冷の工程差、熟練工の感覚的な微調整。
それらのノウハウが現場の判断を支えてきました。
ここに、昭和的な「匠の世界」がいまも強く残っています。

バイヤー・調達担当者としての着眼点

図面の一歩先に踏み込む「工程指定」の重要性

バイヤーの役割は、ただ図面通りのものを発注するだけに留まりません。
製造工程による差異を理解せず、単に「同じ形状だから他社でも同品質」と考えてしまうと、クレームやトラブルに発展しやすくなります。

先手を打つには、原材料の由来や各社の独自工程(標準熱処理の違い、前処理の有無など)をサプライヤー面談時に確認することが大切です。
また、重要保安部品や製品の主要受力部の場合は、工程指定図や製造指示書も用意したいところです。
コストダウンに目が行きがちですが、「工程の見える化」こそが調達の真の付加価値になり得ます。

認定サプライヤー制度と工場監査の有効性

最近の品質管理体制では「認定サプライヤー制度」を取り入れる企業が増えています。
単なる価格競争だけでなく、重要部品を安定製造できる実力、製法継承、管理文書・検査記録の提出能力などを含めて、サプライヤー評価を行う方式です。
工場監査(オンサイト監査)は、工程内での管理点・抜き取り検査・熟練者作業標準など、現場に根差した品質保証力を見る絶好の機会です。

FMEA(故障モード影響解析)の観点からも、工程ごとのリスク洗い出し、強度不足の原因究明に⽀援体制を整えるべきでしょう。
こうした一歩先のリスクマネジメントが、設計変更やリコールによる致命的損失を未然に防ぎます。

サプライヤー(部品加工業者)の現場感覚

「設計意図」の共有が強度トラブルを防ぐ

サプライヤー側として一番困るのは、「図面には記載されていない」要件で後からクレームが来ることです。
形状・寸法・公差だけでなく、「どんな使われ方か」「どれくらいの荷重がかかるのか」などの背景を事前に共有してもらうことで、最適な工程や工程内特性管理項目を柔軟に選択できます。

また、材料メーカーとも密に情報交換し、「この鋼材は焼入れ性がバラつきやすい」といった現場情報を事前キャッチすることも重要です。
自社だけでなく、バイヤー・設計者との協議が密を期すほど、強度の揺らぎを小さくできます。
最適な強度確保は、「製品仕様」よりも「設計・現場の意図共有」にこそヒントがあります。

プロセス能力と熟練技能の可視化を進める

これは令和のデジタル化時代を迎えた今も重要なテーマです。
現場による強度保証の大部分は、「熟練技能」に頼る部分が多く存在しています。
炉温コントロール、冷却タイミング、手応えによるヤスリ調整…。
暗黙知に依存していた現場技能を、プロセス能力(Cp、Cpk等)や工程内試験のデータ化と紐付ける動きが始まっています。

これにより属人技能から管理型技能へと転換でき、特に自動車・航空機など高い信頼性を求められる業界では非常に力を発揮しています。
地道ですが、「いつ・誰が・どう操作したら・どんな状態になったか」まで細かく記録を取ること。
これこそ強度揺らぎ対策における最新トレンドであり、他社との差別化ポイントです。

品質管理・生産管理が強度課題にできること

工程FMEAと統計的工程管理(SPC)の活用

強度のバラツキは、多くの場合「工程内の潜在リスク」から発生します。
そこで有効なのがFMEAによる工程ごとのリスク分析です。
各工程で発生しうる不良モード(焼きムラ、寸法バラツキ、鍛流線の乱れなど)を徹底的につぶしこみ、重要管理点を特定します。

統計的工程管理(SPC)も導入しましょう。
代表的なのは硬さ試験・引張試験値のX-bar/R管理です。
異常値が出た際は即ラインストップ。
都度原因調査までセットにして現場リーダーまで巻き込むことが、強度安定化の近道です。

併せて「サンプリング試験」の母集団設定を工夫し、工程開始時・ロット切り替え時・メンテ後など多様なタイミングで試験実施を心がけるとよいでしょう。

デジタルツイン・AI活用による新たなラテラルアプローチ

近年ではデジタルツインを活用した工程シミュレーションや、AIによる工程データ解析も進んでいます。
「表面温度」「振動」「画像による組織評価」といった多様なデータをセンサで自動取得し、AIが学習することで「強度低下予兆」を検知する事例が続々登場しています。

ここでもラテラルシンキングが重要です。
単一工程・単一データだけではなく、前後工程の因果関係や、多部門とのデータクロス解析で新たな気づきを得る。
ヒューマンエラーや突発要因まで含め多角的な解析を実践することで、昭和的な「経験頼り」から抜け出しましょう。

設計段階でできる「揺らぎ」対策

標準保証仕様の拡充と「条件付き設計」

設計者としては、「設計値に対し、どれだけ揺らぎが許容できるか」を一度真剣に考える必要があります。
標準的な強度保証値、材料許容差、加工誤差などを定義した上で、「複数工程で同じ性能が得られるか」「最悪ケースでも壊れない設計ができるか」をチェックしましょう。

例えば「この部品は切削でも鋳造でも可」の一文を入れるかどうか。
あるいは「必ず鍛造工程」「処理条件はA、B、C以外不可」といった工程指定を設けるかどうか。
同時に「部品形状の丸め半径を広げる」「応力集中を避けるリブ追加」など、小さな工夫の積み重ねも、現場に根付いたノウハウの賜物です。

早期段階での「設計-現場フィードバックループ」形成

設計部門・調達部門・現場部門が「壁」を作らず、設計レビュー段階から現場・バイヤーの生の声を取り入れることが大切です。
「この形状は加工しづらい」「この厚みは揺らぎが大きい」といった現場からのフィードバックに、設計者が真摯に応じる姿勢も求められます。

部門間の連携強化とスピード化が、強度の揺らぎを最小限に抑える鍵です。

おわりに:現場の知恵と最新技術の融合で課題を乗り越える

設計図面上は同じ形状でも、実際の製造現場では「強度」は決して一様になりません。
材料・加工・熱処理・管理データ・現場判断…。
数多くの変数が存在し、そのすべてに「昭和から続く現場の知恵」も「最新のデータサイエンス」も駆使する必要があります。

業界を挙げて、ベテランと若手、設計と調達、バイヤーとサプライヤー、現場とIT技術の境界を越えて知恵を出し合う。
揺らぎを前提としつつも「最良の揺らぎ最小化」を粘り強く追及する姿勢こそ、これからの製造業の新しい地平を切り拓く道筋です。

仲間とともに協力し合い、常に知識をアップデートし、実践し続けること。
これが、部品強度の揺らぎを乗り越える、製造現場の真の成長につながるはずです。

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