投稿日:2025年8月15日

試作回数を最小化する設計検証計画とサンプル合格のコツ

はじめに

製造業の現場では、新製品や新規部品の開発・立上げ時に、試作回数が増えることは避けて通れない課題です。
何度も設計を見直してはサンプルを作り、やっと合格にこぎつける。
このサイクルは決して珍しいものではありません。

ですが、試作回数が多くなることでコストや納期が膨張し、開発スピードが鈍化してしまうリスクがあります。
加えて、取引先や現場担当者のストレスも増大します。

そこで本記事では、試作回数を最小化するための設計検証計画の立て方と、サンプル合格を勝ち取る実践的なコツについて、長年の現場経験をもとに解説します。

これからバイヤーを目指す方、サプライヤー側でバイヤーの思考を知りたい方、そして現場改善に悩むすべての製造業関係者の参考になる内容です。

なぜ試作回数が増えてしまうのか?

形式的な試作はなぜ続くのか

昭和から続く“とりあえず作ってみよう”の空気。
これがいまだに多くの現場に根付き、「図面通りに作って、問題出たら現場で潰す」スタイルが多いのも事実です。

理由はいくつかあります。
設計や仕様が不明瞭なまま進めてしまうケース。
コミュニケーション不足から、期待する品質と現実の認識にズレがあるケース。
また「このくらいは現場でなんとかなるだろう」という場当たり的対応も、トラブルの元になっています。

これでは、何度もサンプルをやり直す→本生産への移行が遅れる→製品化までのリードタイムが長くなる、という悪循環に陥ってしまいます。

デジタル化・IT導入の壁

設計検証や試作データの一元管理にはIT化が有効ですが、製造業では「今までのやり方で十分」と敬遠されがちです。
エクセルでの個人管理、紙図面・試作手配書の擦り合わせ、ファックスでやりとり……こうしたアナログ文化が試作段階でも大きなロスを生んでいます。

現場は多忙で余力がなく、ノウハウの形式知化も遅れがち。
これも試作回数が減らない要因です。

設計検証計画はなぜ重要か

ベースは“逆算発想”

試作を最小化するカギは、徹底した設計検証計画にあります。
ゴール(=サンプル合格、量産承認)から逆算して、「何を」「どのタイミングで」「誰が」「どう評価し決定するか」を明確に設計しておかなければなりません。

途中で設計変更や仕様追加が生じた場合にも、「この変更による影響はどこまで及ぶか」をシステマティックに解析できる仕組みが必要です。
無計画な“行き当たりばったり”を排除することで、ムダな試作を一つひとつ減らせます。

計画作成に必要な3要素

1つ目は「事前リスク分析」です。
失敗すると大きな影響が出る部分(機能・寸法・材料など)を特定します。

2つ目は「評価項目の明確化」。
どの性能・仕様を・どの段階で・どんな基準で合否判定するかを可視化します。

3つ目は「評価方法・責任の分担」です。
検証担当者・判定者を明確にし、必要に応じて関係部門(QA、生産技術、調達など)の参画を計画に組み込みます。

試作回数を減らすための実践的アプローチ

仕様の合意と“何をもって合格とするか”の明確化

試作前の初期段階で、調達側とサプライヤー側、そして設計・生産部門で「何をもってサンプル合格とするか」を明文化することが大切です。

合否基準や寸法範囲、性能評価項目にズレがあると、サンプルをどれだけ繰り返しても根本解決にならないからです。

口頭やメールだけのやり取りでは誤解や齟齬が生じやすくなりますので、評価基準や寸法公差、確認ポイントなどは仕様書やチェックリストとして文書化しましょう。

“非機能要件”も初期段階で共有する

実はトラブルの多くは、機能的な仕様(例えば寸法や耐久性)だけでなく、包装・納入形態・納期などの“非機能要件”の共有不足から発生します。

「何をどこまで細かく決めておくべきか」を、バイヤー(もしくは開発担当)・サプライヤー双方でチェックリスト化しておくことで、後工程や現場での不一致を未然に防げます。

DR(デザインレビュー)の形骸化を防ぐ

昭和型企業や現場では、形式的なDRが多く、実態は“確認したつもり”になりがちです。

本当に必要な関係者を集めて、不明点・不確定要素を徹底討議し、課題を炙り出すこと。
「見落としているリスクはないか」「現場の声は反映されているか」「実現可能な設計なのか」を、忖度なく議論できる環境をつくることが重要です。

その上で、不安要素が残るのであれば「部分試作」や「部品単位の確認」を行い、全体試作前にリスクを徹底排除します。

社内ノウハウや標準パターンの活用

新規開発や一品対応の試作では、業界共通の過去トラブルや対策ノウハウを参照することで、ムダな試作を避けることができます。

自社が持つ「過去の成功・失敗例」「繰り返し登場する不良や改善策」。
こうした情報を部門ごとや個人の頭の中に眠らせず、DR資料やチェックリストに反映させましょう。

部品選定やサプライヤー選定の際にも「標準化された評価パターン」を持つことで、“毎回一から評価”というムダをなくすことができます。

設計と製造現場の徹底連携

設計担当と現場(製造・工程設計・設備保全)が密に連携することも、試作回数の削減に有効です。

例えば設計図上で問題がなくても「この設備で本当に加工できるのか」「冶具が間に合うのか」「人員負荷が高すぎないか」など、現場の目線で見れば事前に解消できるリスクがあります。

設計者が現場に足を運び、現物を前に直接コミュニケーションを取る“現地現物主義”を意識することで、図面や仕様書上の見落としによる試作の手戻りを減らせます。

ITとデジタル技術で試作・検証プロセスを効率化

シミュレーション活用による仮想試作

最新の3D CADやCAE(構造・流体・熱などのシミュレーション)技術を活用することで、紙図面レベルでは想定できなかった問題点も事前に抽出できるようになりました。

現物試作前に“仮想試作”のイメージで機構検証や動作解析を行えば、手戻りや不要試作を大幅に削減できます。

試作依頼・合否判定フローの電子化

エクセルやメール、紙での試作依頼・評価報告は、情報の伝達ミスやデータのブラックボックス化を招きがちです。

製造業向けのPLM(製品ライフサイクル管理)ツールやローカルでのクラウド管理を使えば、「誰が」「いつ」「何を」評価し合否判定を下したか履歴を一元管理でき、情報伝達の迅速化・可視化が可能となります。

サプライヤー目線の“合格を勝ち取る”コツ

提案型試作と“バイヤーの本音”の探求

受注産業にいると「言われた通りに作る」が基本と思われがちですが、サプライヤー側がコストや工法、素材選定の代替案を“積極提案”することでバイヤーからの信頼度が格段に上がります。

また、バイヤーの設計意図や量産性をヒアリングし、“どこまでカバーすれば合格なのか”の本音(=落としどころ)を事前につかんでおくことも重要です。

試作前に「これは仕様として必須なのか?」「現場から見て、どこが一番リスクなのか?」などの踏み込んだ質問を投げかけることで、期待以上のパフォーマンスが生まれます。

品質ドキュメントとエビデンスの重視

初回サンプルの場合、図面精度とともに“トレーサビリティ”や“実測・検証データ”の添付が合格のカギになります。

最低限、「サンプル図面」「測定成績書」「量産見込みの工程フローチャート」などの書類をセットで提出しましょう。

バイヤーは「本当に再現性があるのか」「量産しても安定するのか」を最も懸念するため、エビデンスの提出で信頼を集められます。

納期と段取り力=サンプル競争力

いかに短納期で高品質なサンプルを納入できるかは、サプライヤーの実力の見せ所です。

「小回りの利く工程設計」「段取り替えの短縮」「外注・内作の最適バランス」など、どれだけ社内外のリソースを状況に合わせて動かせるかが、サンプル合格の確率を左右します。

定型サンプルであれば即日出荷できる体制や、緊急時は“現場討議”で合格判断まで持ち込める動きの早さが、他社との差別化に直結します。

まとめ~試作回数を減らす本質的な意義とは~

試作回数を最小化することは、単なるコストや納期短縮にとどまりません。

開発・調達・生産・品質、そしてサプライヤーのすべてが“同じゴール”に向かってつながることが試作最小化の本質です。

1つ1つの手戻りやロスを減らす過程で「なぜ失敗したか」を組織的に分析し、ノウハウ化する。
アナログな現場風土にもITの利便性を持ち込み、“現場の知見”をみんなで共有する。
昭和型からDX(デジタルトランスフォーメーション)型の現場思考へと一歩進める好機と捉えていただければ幸いです。

バイヤーを志す方やサプライヤーの方は、ぜひ本記事の実践的なコツを自社の試作・検証業務に取り入れてください。
そして製造業全体で、さらなる品質向上と効率化を目指しましょう。

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