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設計と現場の認識ズレが不良を生む瞬間

目次
はじめに:なぜ設計と現場はすれ違うのか?
ものづくりの現場では、「設計通りに作ったのに、なぜか不良品が発生する」あるいは「設計では問題なかったのに、現場で大きなトラブルになった」という経験をした方が多いのではないでしょうか。
このような設計と現場の“認識ズレ”は、単なる伝達ミスから、製造方法・手順への理解不足、会社文化や人間関係にまで根付いた複雑な要因に起因することが少なくありません。
この記事では、私自身の20年以上の製造業現場経験から見えてきた現場ならではのリアルな実態と、なぜアナログ業界で認識のズレが根強く発生し続けるのかという業界的な背景を、実践的な視点で解き明かします。
設計と現場の“ズレ”が生まれる場面
設計書は理解できているはず…が現場では?
設計者が慎重に作成した図面や工程指示書。
一見、誰でも理解できるように感じられるかもしれません。
ですが、現場に配布された瞬間から、暗黙の“解釈”が生まれ始めます。
例えば、設計図面には「面取りC0.3」と明記されていても、現場では「C面は大体0.5mmでやっている」などの現場慣習が優先される場合も多々あります。
また、「±0.1mmの寸法公差」があっても、「これくらいなら現場でなんとかなるだろう」という過去の経験値が無意識に反映されるのです。
情報の“温度差”が不良を招くカラクリ
図面や仕様書で伝えたいことと、現場作業者が実際に認識する内容には微妙な隔たりがあります。
なぜなら、現場には経験則に依存した“暗黙知”が多く存在し、設計からの情報だけでは現場の「本当の悩み」や「実際の困りごと」が十分に伝わりきっていない場合があるためです。
例えば新しい設備導入時、「設備図面上は問題なく配置できる」はずが、実際にはクレーンの可動範囲が干渉し、手作業が必要になってしまう。
こうした“情報の温度差”が、意図しない仕上がりや手順違反、不良品発生につながるのです。
アナログ慣習とデジタル設計、その壁
昭和的な現場力のメリット・デメリット
日本の製造業界には、“現場でなんとかする”という強烈な現場力・経験値主義が今も強く根づいています。
この“昭和的な現場力”は、臨機応変な対応力や匠の技を生み出す原動力となってきました。
一方で、この慣習は「あいまいさ」や「現場判断」に頼るリスクも孕んでいます。
設計意図と異なる現場独自の“省略”や“改変”が、不良やトラブルの温床となり得るのです。
デジタル化と現場伝承の壁
設計現場では3D CADやPLM(プロダクト・ライフサイクル・マネジメント)、AIシミュレーションなどのデジタル技術が主流になってきています。
しかし、現場の加工・組立の多くは、マニュアル作業やベテランの「勘と経験」に頼っており、システムからのデータをそのまま生かしきれないというギャップが生じます。
設計現場と現場作業の間に「デジタルとアナログ」という見えない壁が立ちはだかっているのです。
これが、図面や指示だけでは伝えきれない“現場のリアル”を置き去りにし、不良や再発事故の遠因となります。
現場主義で読み解く「不良発生の瞬間」
コミュニケーションの断絶が危機を拡大する
多くの不良品は、単一のミスによってではなく、設計と現場の間にある複数の“小さなズレ”が累積し、ある決定的な瞬間に顕在化します。
例えば、設計変更時に十分な内容説明がなされないまま図面だけが配布され、「いつも通りで大丈夫だろう」と現場が判断し、結果として重大な寸法不良や安全トラブルが発生する…。
これは、現場視点に立つと「なぜ現場の意見や懸念が事前にフィードバックされなかったのか?」という素朴な疑問に行きつきます。
現場には設計意図が伝わらない、設計には現場の声が届かない…このコミュニケーション断絶こそ、不良発生の最も典型的な温床です。
現場QCD(品質・コスト・納期)視点の「気づき」
製造現場の本質はQCD(品質・コスト・納期)のバランスです。
しかし、設計段階では“理想設計”が先行し、現場のプロセスでしか見えない工程間差異や、作業者ごとのバラツキ、原材料や副資材のリアルな状態など、多様な変動要因への配慮が後回しにされがちです。
これが、不良品ゼロを目指す一方、過剰品質・過剰コストや、納期逼迫のジレンマを招きます。
現場目線では「この設計は現場作業者にとって合理的か?」「この公差や仕様が本当に必要なのか?」の視点を常に持つべきです。
どうすれば「ズレ」を減らせるのか
設計と現場“共創”のプロセスがカギ
昭和型の“現場まかせ”と、デジタル化による“設計先行”の限界を超えるためには、プロセス全体を貫く「設計・現場の共創」が不可欠です。
実践例として、現場での工程設計レビューに製造技能者を早期段階から参画させ、設計意図と現場課題のすり合わせを徹底的に行う手法があります。
試作段階で現場の作業者に実地作業してもらい、フィードバックを設計に迅速に反映させる“ループ型プロセス”が有効です。
「現場の言語化」こそ最大の武器
現場アンケートやヒヤリハット活動、作業ビデオ記録・作業手順書のリバイスなど、「現場知」の言語化・形式知化こそが設計現場との溝を埋める最大の武器です。
さらに、設計者にも一定期間の現場実習・現場作業を経験させるローテーション制度を導入したり、現場作業者への設計意図説明会を定期開催するなど、双方向のコミュニケーション機会を意識的につくることも効果的です。
バイヤーやサプライヤー視点で考える“ズレと不良”
バイヤーに求められる「現場を見る目」
バイヤーを目指す方にとっても、“机上のスペック”だけでなく、現場実態や人的要素を読み取る力が何よりも重要です。
「なぜこの会社では不良が多いのか?」「このサプライヤーの現場文化や慣習はどうか?」といった、現場目線でサプライチェーン全体のリスクを見抜く力が、調達購買職には必須のスキルとなります。
現場での“真の管理力”を知り、インシデントや潜在的な改善余地を嗅ぎ取る洞察が、SCM全体のクオリティを左右します。
サプライヤー視点:設計意図の“翻訳”力
サプライヤーとしても、「設計が本当に求める品質・性能は何か?」を徹底してヒアリングし、現場と共に考え抜く姿勢が信頼につながります。
単なる指示受けではなく、「自社の現場ならどう作業するか?」を設計段階から積極的に提案・発信し、“設計/現場間の認識ズレ”を減じていくことが競争力強化への近道といえます。
まとめ:設計×現場が未来を切り拓く
設計と現場の認識ズレが不良や事故を生むのは、いつの時代でも避けて通れないテーマです。
しかし、現場のリアルな知恵や暗黙知を見える化し、設計・現場の壁を越えて共創することで、そのリスクは大幅に軽減できます。
バイヤーやサプライヤーの立場でも「現場の“なぜ”に気づく力」が、製造業の競争力や信頼獲得の大きなカギを握ります。
今後はAIやIoT、技能伝承のデジタル化が進む一方で、「現場の声に耳を傾ける」「設計・現場・調達の三位一体」を実践していくことが、ものづくり日本の未来を明るく切り拓く鍵となるでしょう。