投稿日:2025年12月3日

新規材料を使いたくても調達リードタイムの壁で諦める設計の本音

はじめに:新規材料導入を阻む見えない壁

製造業の現場は変化の真っ只中にあります。

グローバル化や環境規制、コストダウン要求の激化、デジタル活用へのシフトなど、設計部門と調達部門は従来の発想だけでは生き残れない時代に突入しています。

しかし、現場で「新しい材料を使いたい」と声を上げても、現実にはそう簡単には進みません。

その理由として、調達にかかるリードタイムの壁が存在します。

この記事では、設計担当者やバイヤー、サプライヤーの立場から、その壁の構造と対処のヒントを、現場経験に基づいて実践的かつ新しい視点で解説します。

昭和から根付くアナログな調達プロセス

変わらないサプライヤー開拓の実態

2024年の今でも、「材料選定=既存サプライヤーからカタログ品を選ぶ」という光景は日本の製造業の現場で珍しくありません。

多くの企業では、昔から取り引きのある材料メーカーや代理店に新規材料の相談を持ちかけ、それに対して「量産に入れるには半年以上必要」と言われてしまうことが常です。

新しいサプライヤー開拓は、与信調査や品質監査、試作評価など多くの手続きが伴い、結果的に数ヶ月単位のリードタイム増大を招きます。

伝統的な発注プロセスが足を引っ張る

いまだに紙の見積書やFAX依頼書が標準的に使われる現場も多く、見積依頼から正式発注、納期確認まで「一つ変えるのに最低1週間」という足かせが存在します。

これが積み重なると、「来月までに設計完了」「試作品を2ヶ月後に立ち上げ」といった現実のスケジュールでは到底間に合わず、新規材料は早々に候補から外されるのです。

設計の本音:使いたくても使えない葛藤

カタログスペックにはない新材料の魅力

現場設計者としては、「この新材料なら性能を大幅に改善できる」「軽量化やコストダウンに直結できる」という期待を抱く場面が多いです。

とくに最近は、SDGsやカーボンニュートラル対応のため新素材へのアンテナを高くせざるを得ません。

しかし、調達部門に相談すると、「納期が合わない」「コストが読めない」「量産実績がないからリスク」といった現実的な壁に直面します。

設計変更と調達リードタイムの綱引き

設計現場はとにかくスピード勝負です。

プロジェクトマイルストーンに合わせて試作・評価をクリアしなければ次工程に進めません。

社内会議で「この材料、もっと納期短縮できないの?」と何度も食い下がっても、調達・サプライヤーからは「物理的に無理です」という答えが返ってきます。

歯がゆさから最終的には「今ある在庫で」「昔使った実績のあるあの材料で」という妥協に行き着き、設計開発が本来有する価値が損なわれてしまいます。

調達リードタイムが長くなる本質的な理由

購買部門の「安定志向」と「事故回避」

調達・購買部門としては、現場の気持ちを理解しつつも、過去の品質トラブルや納期遅れの経験から「変化=リスク」と捉える傾向が根強く残ります。

とくにリーマンショックやコロナ禍など、危機を経験してきた組織では、「保守的であること」「既知のルールに従うこと」が評価されがちです。

新規材料やサプライヤー導入は、手続きの複雑化(与信審査・監査・検査工程の追加)を招き、これがリードタイムを引き延ばす大きな要因となっています。

グローバルサプライチェーンの複雑化

世界情勢の不安定化により、サプライチェーン自体が混乱しています。

新しい材料やサプライヤーを手配しても「海外からの輸送は不安定」「通関で止まる可能性が高い」といった予測しづらいリスクが現実のものとなっています。

結果として、「すぐ手に入る・実績のある材料」に回帰しがちになる構造的な問題があるのです。

本当に打つべき現場目線の対策

調達部門と設計部門の“壁越し会話”をやめる

自社内のサイロ化(縦割り組織)は、調達リードタイムの根本的な原因の一つです。

設計と調達が「隣の部屋の壁越し」に要望と否定を繰り返していると、新規材料導入は進みません。

現場で見てきた成功事例では、初期のコンセプト設計段階から購買・品質・生産管理とオープンに情報共有し、開発着手の前段階でサプライヤー探索やリスク評価、現場見学を“合同”で進めています。

サプライヤーとの関係性を進化させる

従来型の「納期と価格だけの関係」ではなく、サプライヤーを技術パートナーとして巻き込むアプローチが効果的です。

「なぜこの新材料が必要なのか」「どこまでリードタイムが削れそうか」「試作特急対応はできないか」など、一段踏み込んだ協議を初期から実施することで、柔軟な調整が可能になります。

また、リードタイム短縮のための事前在庫確保や分納・先行手配といった方法も、サプライヤーと良好な信頼関係があれば現実味を帯びます。

デジタル活用とアナログ手法の融合

調達業務のデジタル化(見積自動化、AIによる最適サプライヤー推薦、リードタイム予測)は加速しつつあります。

ですが、現時点ではどの工場現場も一気に完全デジタルにはなりません。

紙やFAXの文化が根づくアナログな環境では、「現場での直接交渉」「突き合わせ会議」「試作現物の手配」といったリアルなやり取りが、短納期対応の抜け道になることも事実です。

デジタルとアナログ、両方の利点を最大限に活かす“現場対応力”を磨くことも重要です。

サプライヤー側がバイヤーの悩みを知る重要性

新材料を提供するサプライヤーにとっても、バイヤーが抱えるリードタイムの悩みや材料変更の難しさを理解することは極めて大切です。

単なる「ウチの新製品、世界最速納期です」ではなく、「御社の開発スケジュールに合わせた一括試作供給体制を用意できます」「既存材料からの切替サポートにノウハウがあります」といった提案に価値があります。

また、調達・購買が重視するのは「サンプル納入後の品質保証体制」「トレーサビリティ」「万一不具合時の緊急対応力」など、納期以外のパートナーシップにも目を向ける必要があります。

設計・調達・サプライヤー三位一体の未来へ

日本の製造業がグローバル競争で勝ち抜くには、設計・調達・サプライヤーの三位一体の連携が必須条件です。

特に新材料の活用は“待っていれば自動的に実現する”ものではありません。

サイロの壁とリードタイムの壁は、現場主導の対話と知恵で乗り越えるしか方法がありません。

設計から調達、サプライヤーまで現場目線を持ったトータルな変革が、今まさに求められています。

まとめ:壁は絶対ではない、“動けば変わる”

新規材料の導入には、調達リードタイムという高い壁が長年立ちはだかっています。

しかし、その壁の本質を理解し「調達主導だったプロセスを、現場発信で変える」「サプライヤーを本当のパートナーとする」「アナログとデジタルの融和による実践的改善を進める」といった取り組みを加速させることで、“壁”は乗り越えられるものへと変わります。

昭和のやり方が残るアナログ現場でも、小さな突破口を広げることは現場の力次第です。

この記事が、製造業に携わるすべての方々の現場での新しい一歩につながることを願っています。

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