投稿日:2025年12月11日

製品原価を意識しない設計が後で大問題になる本音

はじめに:なぜ「製品原価」を意識しない設計が大問題なのか

製造業の現場に身を置く人なら、一度は「この設計…原価を考えたら絶対に無理だろう」という心の声を飲み込んだ経験があるのではないでしょうか。

華麗な設計も、コスト意識がなければ会社の利益どころか現場の負担、サプライチェーン全体へのしわ寄せ、あるいは取引そのものの継続性まで揺るがしかねません。

とくに、昭和時代から続く「設計と現場の分断」は、いまだに多くの企業文化に根付いています。

それが、設計段階での原価無視――すなわち原価設計の欠如――につながり、大きな問題へと発展していくのです。

本記事では、なぜ設計段階で製品原価を意識しないことが大問題に発展するのか、実務経験に裏打ちされた現場目線で深堀りし、改善への具体的アプローチも提案します。

設計と製品原価:切っても切れない関係性

製品原価とは何か?

製品原価とは、文字通り製品が出来上がるまでの直接材料費、直接労務費、製造間接費などの総コストのことです。

設計段階で決まる製品原価の割合は実に80%とも言われています。

設計で仕様・構造・材料を決定した時点で、「あとからちょっと工夫すれば安くなる」は幻想でしかありません。

設計者が陥る3つの「原価無関心」パターン

1. 技術的優先度の思い込み
設計部門の多くは「高性能・高品質・新機能実現」に集中しがちです。

コストや購買性を検討する余裕は後回しになり、結果として「調達不可」「高価すぎる」部品が採用されます。

2. 他責体質
設計者が「コスト管理は購買や生産管理の仕事」と誤解している企業が多く見受けられます。

実際には、設計が大半のコストを決定しています。

3. 市場要件把握の甘さ
営業やマーケティングと連携せず、「売れる価格」を無視した設計をしてしまい、そもそも顧客に選ばれなくなる場合もあります。

原価軽視の設計がもたらす「現場の苦悩」

調達の視点:部品が買えない、納期が守れない

設計で決められた材料や部品が、実はほぼ市場在庫がなく、入手が困難だというケースは珍しくありません。

特注品を指定されたバイヤーは、納期・コスト・品質リスクをすべて背負う羽目になり、購買部門の現場では「設計に無理矢理やらされたが失敗」の繰り返しになるのです。

生産管理・品質管理の視点:想定外の工数増、止まらぬ不良品

組立てや加工が難しい設計や、公差・寸法の設定が現場にそぐわない設計では、品質トラブルや歩留まり悪化を招きます。

本質的には「作り手を知らない」ことが根にあり、これも原価増加、納期遅延、顧客クレームにつながります。

サプライヤーの視点:「こんな仕様、できません」問題

設計から降ってくる図面が理不尽だと、サプライヤー(外注先・下請け)は「この顧客とはもう付き合いたくない」と感じがちです。

良いサプライヤーほど「選別発注」が進むため、将来的な競争力も損なわれます。

日本製造業が直面する「昭和的構造」とラテラルシンキング

なぜいまだに「原価不在設計」が根付くのか

多くの企業文化は「設計部門が一番偉い」「現場は黙って従え」という昭和的序列に縛られています。

設計~生産~購買の壁は厚く、情報共有やフィードバックの機会すら設けていない組織もあります。

この構造は、短期的な「成果」「スピード」「個人の評価」を優先しすぎた結果、全体最適を犠牲にしてきたものです。

ラテラルシンキング:設計と原価を「横断的」に絡める

既存の直線的思考だけでは根本的な解決に至りません。

たとえば初期段階からバイヤー、生産技術、品質、サプライヤーと設計者が一堂に会する「フロントローディング設計」を導入し、設計―生産―調達を横断的(ラテラル)につないだ協業体制を作る必要があります。

バイヤー・サプライヤー視点から見る「設計意識改革」の必要性

バイヤーの声:「設計部門との連携なくして真のコスト低減なし」

購買部門のバイヤーは、納期・価格・品質の最適解を日々目指しています。

近年は価格交渉力だけでなく「設計段階からのコスト改善提案力」が強く求められています。

「購買は後工程」から「設計と対等なパートナー」へと戦略転換する意識が、バイヤーにも必要です。

サプライヤーの本音:「無理難題設計」はもう通用しない時代

グローバルサプライチェーンの中で、サプライヤーは強烈な選択肢を持つようになりました。

日本メーカーの発注を断る外資サプライヤーも増え、設計段階からのサプライヤー参画が生命線となっています。

設計者にこそ、サプライヤーの目線で「作れる設計・コスト競争力の高い設計」を理解する態度が必要です。

現場ベースで進める「原価視点設計」実践ステップ

①設計審査にバイヤーとものづくり現場を必ず巻き込む

従来の設計審査(DR)を、設計・生産技術・購買・品質・サプライヤー全員参加型へシフトします。

・調達可能か
・市販品をもっと利用できないか
・標準工法・標準部材にできないか
・FAやAIを使った省力化可能性は
・現場ヒアリングの実施

これだけでも、現場起点での“ありえない設計”は劇的に減ります。

②コスト情報を設計部門へフィードバック

設計者が自分の決定した仕様や材料が、どれだけ原価に影響するか「肌で感じる」仕組みを作ります。

現場データや購買実績情報を可視化し、「この部品は標準部品の2倍コストがかかっている」といったフィードバックループが不可欠です。

③ バイヤー・サプライヤーとの「ジョイント開発」推進

設計段階から主要サプライヤーのエンジニアとワークショップや共同設計を行うことで、本当の意味での全体最適が実現します。

早期から協業することで、設計変更のコストや納期リスクも大幅に減らせます。

未来に向けた人材育成と文化変革

設計者の「コスト感覚」と「現場感覚」を高める教育

OJT(On the Job Training)だけでなく、ジョブローテーションや現場研修を設け、設計者自身が調達・生産・品質に1度は触れる機会を設けましょう。

「設計はお客様」ではなく、設計もバイヤーも生産も「1つのチーム」として動く文化が必要です。

デジタル時代における原価設計の進化

AIやデジタルツイン技術の進展により、設計段階からリアルタイムで原価シミュレーションができる時代になりました。

最新技術を積極的に現場へ取り入れつつ、本質的な「人と人の横断的連携」も決しておろそかにしないことが大切です。

まとめ:設計×原価意識が未来の製造業を強くする

製品原価を意識しない設計は、製造現場・調達・サプライチェーン全体に大きな負担や損失をもたらします。

伝統的な縦割り構造を打破し、ラテラルシンキングで設計・生産・バイヤー・サプライヤーの現場が“横並び”で知見を交わすことで、真のコスト競争力と付加価値が生まれます。

製造業の未来は、設計者だけでなく購買やサプライヤー、現場全体が一体となって初めて切り拓かれるのです。

自社に最適な体制づくりへ、明日から一歩を踏み出してみてください。

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