投稿日:2025年10月27日

地元の強みを活かしながらも都市部の消費者に刺さる商品開発の視点

はじめに:地元発・全国区ヒット。その両立は可能か?

地方発のものづくりは、日本の製造業を根底から支えてきました。
長年にわたり、地元密着型の技術やノウハウで地域経済を活性化し、独自の価値ある製品を生んできた工場やメーカーが多数あります。
一方で、人口減少や高齢化、さらには市場の縮小が進み、地元特化型のものづくりだけでは将来展望が描きにくい時代になってきました。

経営者や現場リーダー、調達・品質管理担当者にとって、「地元らしさ」を強みにしつつ、都市部――特に感度の高い消費者が集まる首都圏や大都市市場でも選ばれる商品をどうやって生み出すかは大きなテーマです。

この記事では、昭和の成功体験や“地元ファースト”の思想に縛られ過ぎない、しかしローカルの誇りや強みを失わない新たな商品開発の視点を、実践目線で解説します。

現場目線で考える「地元の強み」再定義

なぜ、地元×都市部を両立する商品が必要なのか

現場で働く方々には、「地元の伝統・歴史・技術・人脈」が何よりの武器となっています。
しかしデジタル化の進展や消費者ニーズの多様化の中で、「地元向け」だけの商品開発は、市場成長の壁に直面しがちです。

逆に、都市部のトレンドや消費行動にばかりとらわれ、地元特有の技術や人材ネットワークを軽視すると、どこにでもある凡庸な商品になり埋没してしまいます。

大切なのは、地元だからこそ生み出せる「リアル」で「人間味ある」ものづくりのDNAを保ちつつ、都市部の洗練された感性や新しい生活スタイルにもシンクロする、“掛け算”の発想です。

地元=素材、都市部=ストーリーで繋ぐ

例えば、地元の素材や加工技術、働く人の情熱、長年の取引で培った調達網や現場力。
これらは、都市部の消費者にこそ伝わるエモーショナルなストーリーの源泉です。

都市部の消費者は、大量生産品では味わえない「背景」「物語」に惹かれます。
そのニーズに合わせて、地元の強みに“都会的なデザイン”や“価値訴求”を組み合わせることで、新たな付加価値を創出できます。

「刺さる」商品開発のための視点と戦略

(1)現場主導のインサイト抽出

商品のベースとなる価値は、現場の肌感覚が最も的確です。

・地元の職人が普段使っている道具にしかない“使い勝手”
・地域限定の材料や部品でなければ実現できない“独自仕様”
・長年積み上げてきたサプライヤとの取引ノウハウ
こうした現場の生リアリティに、どのような都市部ニーズが重ねられるかラテラル(横断的)に考えます。

調達担当や現場リーダーは、「一番苦労した改良ポイント」「失敗談」「お客様あるある」なども社内で積極的に共有し、それをマーケティング部門と一緒に新たな商品コンセプトに昇華します。
現場起点の“小さな違い”が、都市で刺さる独自価値になります。

(2)データとエモーションの融合

DX化が進む現代、データ分析は商品企画の出発点です。
SNSやECサイトのクチコミ、IoTセンサーから取得できる利用データ…。
都市部に住む想定顧客の情報を見える化し、自社の強みとどう掛け合わせるかを考えます。

しかし、データだけでは「買いたい」「使いたい」と心が動く商品は生まれません。
“手触り”のよいクラフト感、「顔が見える」地元の職人のコメント、動画による作業風景の発信など、人間的な情緒価値を同時に設計するのが成功のカギです。

(3)強固なサプライチェーンが作る「品質物語」

きめ細やかな生産管理・品質管理は、日本の地場メーカーの奥深い強みです。
この「安心・安全・美しさ」を、都市部の消費者目線で伝え直しましょう。

“いつ誰がどうやって作ったかを追跡管理できる”“工場見学の予約がネットですぐできる”“一つひとつ違う仕上がりが楽しめる”など、透明性やパーソナライズ性へのこだわりを全面に出すことで、都市生活者の共感を生み出します。

昭和の常識を今に活かす“アナログ”価値の発掘

なぜ今アナログが刺さるのか

デジタル時代だからこそ、「人が手をかけた痕跡」や「本物志向の商品」は逆に価値を増しています。
昭和型のアナログ現場では、たとえば
・手作業ならではの丁寧な作業工程
・ベテランが自ら目視・手触りで行う品質チェック
・世代を超えた作り手の“こだわり”
こうした点を“わざと残す”ことで、都市部の感度高い消費者に新しさとして受け止められる可能性があります。

アナログ現場の強みをデジタルで「見せる」

今まではメーカー内で囲い込まれてきた
・現場写真や作業風景
・作り手のこだわりコメント
・原料仕入先の顔がみえるストーリー
こういった“舞台裏”を、SNSやブランドサイト、YouTubeなどのデジタルメディアでどんどん見せていきましょう。

手書きの作業日誌や熟練工の匠の手つきを動画で発信することで、都市部ユーザーの“共感”や“憧れ”を喚起できます。

都市部の消費者に「刺さる」視点とは

都市部ユーザーの購買行動の特徴

都市部の消費者は、
・「何に共感できるか」
・「どんな体験ができるか」
・「環境やサステナビリティに配慮しているか」
という点で商品を選ぶ傾向が強いです。

モノの価値基準が「スペック」「安さ」から「意味」「ストーリー」へと大きくシフトしています。
「自分だけが知っている」「応援できる」といった感情的な結びつきが購買の決め手になります。

地元の技術やリアルな現場を「体験価値」に昇華させる

例えば、
・工場と消費者が直接つながる「ファクトリーツアー」
・産地直送の原材料を使った期間限定コラボ商品
・お客様の声を反映したカスタマイズオーダー
など、「体験」や「参加型施策」を仕込むことで、都市部の消費者にとって魅力的なブランド体験を提供できます。

調達・購買部門の新たな立ち位置

調達視点での商品開発参画

調達・購買部門は、従来「必要な部品や資材を安く・早く仕入れる」役割でした。
しかしこれからは、「どのようなサプライヤのどんな魅力的な資源を、都市部に届く商品価値に活かせるか」を自ら提案し、商品開発に深く関与する時代です。

サプライヤサイドに立つ企業の方も、「俺たちの本当の強みは何か」「どんなユーザー像に価値を認められるか」を顧客企業と対話しながら、アライアンス型の価値共創を狙いましょう。

バイヤーに求められる“目利き力”と“プロデュース力”

メーカーバイヤーには、価格や納期だけでなく、
「新しい素材、部品、サービスを都市部ニーズに活かすには?」
「地元の“アナログ資源”をどう差別化の源泉にするか?」
といったビジネスプロデューサー的な視点が強く求められます。

サプライヤの立場でも、「この加工ノウハウはどんな商品やブランドに相性がいいか」と常に顧客メリットを逆算し、積極的な提案営業が期待されています。

まとめ:地元×都市部、ラテラルな発想で新しい市場を拓く

地元の技術や人材ネットワークという“ハード”な強み、アナログ現場ならではの“リアルなストーリー”、それらを都市部の「体験重視」「共感重視」のトレンドに掛け合わせる――。
これがこれからの製造業のヒット商品開発の黄金ルールです。

内向きな地元目線だけ、都市部トレンドの追従だけでは生き残れない時代。
工場現場・バイヤー・サプライヤーがラテラル思考で発想を広げ、互いの強みを認め合うことで、昭和の“常識”を令和で輝かせることができます。

今こそ地元と都市、それぞれの良さを生かした商品開発で、日本のものづくりに新しい地平線を。そして現場で働く皆様が、よりワクワクできる仕事現場を一緒につくっていきましょう。

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