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開発者が評価基準を理解しておらず品質の基準が揺らぐ問題

目次
はじめに:製造業の品質基準が揺らぐ現場の現実
長年、製造業の現場に身を置いてきた私の経験からすると、「品質基準」が現場でしっかりと守られている会社は実はそれほど多くありません。
特に開発者――製品・サービスの設計や改善を担う技術者と、実際の製造ラインや調達・購買部門で求められる品質基準との間に“見えない壁”が存在していることが多いです。
このギャップは、昭和の時代から根深く業界に残る“現場系ベテランの勘と経験”思考や、アナログな工程管理、さらには業務の分業化によってますます深刻化しています。
この記事では、開発者と製造現場の間で生じる品質基準に対する認識違いの背景や、何が問題となっているのかを紐解きつつ、実際の現場で今からできる対策・解決策を提案します。
バイヤー志望の方や、サプライヤーとしてバイヤーの考え方を知りたい方にも役立つ「現場目線」「経営目線」双方からの具体的な工夫も紹介します。
なぜ「品質基準」のギャップが発生するのか
1. 開発者と現場担当者の認識のズレ
開発部門の技術者は、仕様書や図面に記載された数値や要求事項が企業内で一貫して伝わり、守られている前提で物事を考えがちです。
一方で、製造現場や調達購買部門では、その基準を「どこまで守ればいいのか」「どこを妥協できるのか」の肌感覚が業務習慣によって異なります。
このような場合、「一応基準に沿っているから大丈夫」「設計者が厳しすぎるだけ」「今まで問題なかったからいいだろう」といった“ブラックボックス化した暗黙の了解”によって、品質の揺らぎが生まれやすくなります。
2. 昭和的な現場文化とデジタル化の遅れ
多くの日本の工場では、熟練工による勘や経験に頼った運用が今なお色濃く残っています。
この現場文化が品質基準の個人判断を招き、設計側と現場側で品質へのこだわりや基準の解釈が異なる原因となります。
加えて、データ管理のアナログ体質(紙の帳票やExcel表)が根強いことで、情報の伝達ミスや継承漏れが発生。
“書いてあるけど実際は守っていない”“誰がその基準を決めて、アップデートしているのかが曖昧”という事態を引き起こします。
3. サプライヤーやバイヤーとの温度差
サプライヤー立場では、「どうせコストダウンが最優先」「クレームになったらその時に考えればいい」と品質基準の扱いが軽視される場合があります。
一方で、バイヤー(調達購買)の立場では、サプライヤーの製品品質を担保しつつ、納期やコスト、調達先の多様化まで同時並行で追求しなければなりません。
ここでも「最低限守るべき品質の線引き」が曖昧になりやすいです。
現場で起こる「品質基準」の揺らぎ事例
品質基準が徹底されていないと、どのようなトラブルが起きるのか。
いくつかの典型的な事例を紹介します。
設計図違いによる部品クレーム
たとえば設計部門が材料強度や寸法公差を明確に指定していても、現場は「この程度なら許容範囲だろう」と勝手に解釈し、結果として製品の不良やクレームが発生することがあります。
原因を遡ると、「設計意図」が現場に伝わっていないこと、または「どこまで厳しく管理する必要があるか」の判断基準がバラバラであることが多いです。
検査工程での過剰・過小品質確保
検査部門が「全品検査しないと不安」「抜き取り検査で十分だろう」といった属人的な判断で運用し、コストや工数の無駄、あるいは事故・リスクの増大につながることも珍しくありません。
ここでも「基準の解釈」が個人レベルで曖昧になっています。
調達先変更時の品質基準のすり合わせ不十分
バイヤーが新規サプライヤーに切り替えた際、仕様書で伝えたつもりでも現場レベルで伝わっておらず、基準不適合品の納入が続く――こうした問題はとても多いです。
バイヤーとサプライヤーとの「共通言語」としての基準が明確になっていなければ、仕事の成果にも大きな差が出ます。
品質基準の「見える化」と一貫運用がカギ
現場の品質基準の揺らぎは、実は“属人化”と“情報のサイロ化(縦割り)”が根本原因です。
ではどうすれば良いのでしょうか。
設計部門と現場部門の双方向コミュニケーション
設計段階での「品質基準」「狙い」の意図を現場と共有することが第一歩です。
その際、単なる文書のやり取りではなく、設計担当者と現場リーダーが直接対話し、「なぜこの基準が必要か」「何を重視してほしいか」を言葉で伝える仕組みが求められます。
また定期的な現場巡回や、フィードバック会議を取り入れ、図面以上に現物を触って共通認識を深めましょう。
現場で起きている「実態」と「設計意図」の橋渡し役を持つ人材(たとえば生産技術や品質保証の専門職)が重要となります。
紙と口伝えから脱却せよ:デジタルツール活用
品質基準や手順書、検査成績の記録は、Excelや紙ベースで管理されがちですが、属人化や伝達ミスを生みやすいです。
これを是正するには、基準・手順の“見える化”=デジタル化が必要です。
たとえば現場の手元でタブレット上に、いつでも最新版の基準や注意点にアクセスできる仕組みを導入します。
チェックリストや作業動画、3D図面を活用し「標準作業」を徹底することで、不明確な点や勘と経験による“解釈の余地”を排除します。
中小企業ではデジタル化コストが気になるかもしれませんが、無料のクラウドツールやスマホアプリなど低コストからの一歩でも十分に効果があります。
バイヤーとサプライヤーの「品質共創」活動
バイヤーの立場では、「調達品の品質基準を満たすか」に注目しがちですが、サプライヤーとは“パートナーシップ”のもとに品質共創活動を進めることが重要です。
たとえば「なぜこの基準が求められるか」「過去にどのようなトラブルがあったか」を共有し、サプライヤー現場を巻き込んで改善策を討議します。
製造現場で使えるワークショップ形式の「品質基準勉強会」や、「QCサークル活動」を共同開催するなど、サプライヤーも自社の品質向上に主体的に関わっていく体制を作りましょう。
こうした活動はサプライヤー側の満足度やモチベーション向上にも繋がります。
「現場目線」で推進する品質基準強化の実践アイデア
基準文書は「現場のことば」で書き直す
設計者が作る基準書や手順書は、技術用語や曖昧表現が多く現場に伝わりにくいことがあります。
これを現場スタッフ主体の「現場のことば」に翻訳し直すプロジェクトを実施しましょう。
イラストや写真、動画を多用することで理解度が大きく向上します。
新入社員・若手教育に「品質の意味」を組み込む
社員教育では「なぜその基準が成立しているのか」「これを守らないとどんな問題が生じるか」を体験型で学ぶプログラムを取り入れましょう。
単なる教科書的な知識ではなく、実際の不良品事例やクレーム事例を共有することで、「自分ごと」として品質基準の重要性を腹落ちさせます。
「改善提案制度」で品質基準の見直しを日常化
現場で実際に作業するスタッフが、「この基準は現実的ではない」「もっと良い方法がある」など気付いた点を積極的に提案できる仕組みを整えることも大切です。
改善提案は月ごとに集計し、「改善率」「現場実装率」として経営層にも定量的にフィードバックします。
まとめ:「徹底した基準化」が製造業の競争力を決める
品質基準の揺らぎは、属人化した業務習慣やアナログな情報管理、現場と設計・バイヤー・サプライヤー間のコミュニケーション不足から生まれます。
しかし、基準の見える化とその一貫運用、現場と設計の対話、デジタルの活用、サプライチェーン全体での品質共創が進むことで、こうした課題は着実に解決できます。
製造業に関わる皆さん一人ひとりが、「品質基準を守る」ことの意味を深く理解し、実践へ落とし込む主体者となる―。
それこそが、昭和から令和へ、さらに次の時代へと製造業をアップデートし、未来への持続的な成長につなげていく最大のカギです。
ぜひ、明日から自分の現場でできる小さな一歩を踏み出してみてください。