使いやすいユーザーインターフェースの開発と製品開発への応用

はじめに：製造業におけるユーザーインターフェースの重要性

製造業の現場は長い間、機械や装置の操作パネルに代表されるアナログなインターフェースが主流でした。
しかし、デジタル化や自動化の流れを受けて、操作性や効率を大きく左右する「使いやすいユーザーインターフェース（UI）」の重要性が急速に高まっています。

私自身、工場の現場で日々設備と向き合い、多くの現場改善プロジェクトや新規製品開発に携わる中で、UI設計が製品の運命を左右する場面を何度も見てきました。
この記事では、製造業ユーザーならではの現場視点から「使いやすいユーザーインターフェース開発」の要点と、その製品開発への応用について詳しく解説します。

なぜ今、「使いやすさ」が問われているのか？

現場の世代交代と多様化

かつてはベテラン作業員の経験や勘に頼っていた製造現場ですが、近年は人材の流動性が高まり、AIやIoT化に対応できる若手人材の比率が増えつつあります。
しかし、その一方で、未経験者も多く、操作ミスや学習コストの高さがしばしば問題となっています。

使いやすいUIは、経験やスキルに関係なく誰もが同じ品質で作業できる現場を実現します。
そのため「人手不足」や「多様な人材の活用」といった日本製造業の喫緊の課題解決とも直結しているのです。

アナログ設備に根付いた問題点

昭和から続く製造現場では、今なお「ダイヤル」「ボタン」「アナログ計器」といった装置が主流です。
こうしたインターフェースには「直感的でない」「誤操作が多い」「現場で教え合いながら覚えるしかない」といった課題が根強く残っています。

ユーザーインターフェースを刷新することで、古いやり方から脱却し、生産効率の向上や品質トラブルの防止など、さまざまなメリットが生まれます。

ユーザーインターフェース開発の現場課題

現場でよくあるUIの問題点

具体的な課題例として、以下のようなものが挙げられます。

• 装置ごとに違う操作体系で混乱する
• マニュアルが複雑、または現場に存在しない
• 多機能化により、かえって使いづらくなった
• ミス入力や誤設定のリスクが高い
• 現場の「慣れ」に頼りすぎて属人化する

どれも一見些細なことですが、生産ロスや不良品発生、ヒューマンエラーによる重大事故のリスクなど、経営面の損失にも直結します。

ユーザーインターフェース改善の難しさ

見直しの必要性が叫ばれても、従来の仕組みや習慣が根深く、現場では「使いづらいが仕方ない」「操作を変更すると混乱が生じる」という消極的な空気が蔓延しがちです。
現場のリアルな課題、制約、長年のノウハウの蓄積…。
この“昭和的価値観”と、革新的なUIの両立が難しい理由の一つです。

実用的な「使いやすいユーザーインターフェース」とは

高品質なUIに共通する要素

ユーザーインターフェースの「使いやすさ」にはいくつかの共通要素があります。

• 直感的：初めて触れる人でも迷わない簡潔さ
• 視認性：必要な情報が一目で分かる画面構成
• 一貫性：どの画面、どの装置でも操作方法が統一
• フィードバック：操作が成功・失敗した理由がすぐ分かる
• エラー防止：間違っても大事故に至らない安全設計

ゼロから“超豪華”なUIを作り込む必要はありません。
現場で本当に使われるのは、「かゆい所に手が届く」小さな工夫の積み重ねです。

現場目線で考えるUIデザインのポイント

私が現場で数多くのシステム導入を主導してきた経験上、以下のポイントが特に有益でした。

• “想定外のユーザー”を意識：ベテランだけでなく異動者、派遣スタッフ、外国人労働者なども考慮する
• 紙マニュアル無しでも操作できるシステムづくり
• 現場の声を吸い上げ初期のUI設計にフィードバックする
• 小さな改善の繰り返しを前提とする（“一発で完璧”を目指さない）
• 色・文字・アイコンなど「視覚的な分かりやすさ」を最優先
• 現行設備とのスムーズな連携（完全入れ替えが難しければ既存パネル＋タブレットを併用する等）

バイヤー/サプライヤー目線で考える業界動向

ユーザーインターフェースが「購買基準」へ

従来の装置選定は、価格とスペックが最優先でした。
しかし今や、「現場力を高めるUI設計」が購買側の重要な評価ポイントになっています。

バイヤーとしては、UIが分かりにくい設備は、研修コストや初期トラブル対応に余計な負担がかかります。
また、保守・メンテナンス性でも操作性の良さは重視されるようになりました。

このためサプライヤーとしても、UIの使いやすさ・導入後のサポート体制の強化が求められるようになってきました。

アナログ業界も「UI革新」で新規顧客獲得

昭和的なアナログ色の強い市場でも、タブレット連携やWebベースUI導入といった新しい提案が成果をあげています。
たとえば、MRO部品のEC購入サイトや設備保全アプリの直感的UIが、中小メーカーやベテラン現場長にも浸透し始めています。

この流れは大手だけでなく、部品メーカーやシステム会社でも追随が進んでいます。
今後ますます「UIの質」が販路拡大や差別化のカギとなっていくでしょう。

製品開発プロセスへの「使いやすさ」の組み込み方

開発初期から現場の「ペルソナ」を設定

新しい装置やアプリを開発する際は、まず「誰が使うのか」を具体的にイメージします。
オペレーター、保全担当、管理職…。
それぞれの「役割ごとの行動パターン（ペルソナ）」を想定し、現場ヒアリングを重ねることで、現実的な課題・ニーズを洗い出します。

この段階から「現場の声」をしっかりと設計に反映することが、実用的なUI開発の第一歩です。

UI設計→プロトタイプ→現場検証→改善のサイクル

ペーパーモックアップや簡易プロトタイプを用意し、実際の現場で操作トライアルを行うことで、「思い込み設計」を排除します。
現場作業者のフィードバックを即反映できる開発体制が重要です。

たとえば工場現場なら、手袋を装着したままでも操作できるタッチパネル、夜間の作業でも視認性が高い配色設計、ボタン連打による誤操作防止ロジックなど、現場視点の工夫が不可欠です。

標準化とカスタマイズ性のバランス

複数拠点・多様なユーザーに対応するため、基本部分は標準化しつつ、現場単位の微調整（表記変更、ダッシュボードのカスタマイズ等）も行える柔軟設計が望ましいです。
クラウド型UIやWebベースのUIを活用すれば、遠隔地からの一括管理やバージョンアップも容易になります。

ラテラルシンキングで未来を切り拓くUI開発

アナログとデジタルの“いいとこ取り”

ユーザーインターフェース改善は、何も最新デジタルだけを追い求める必要はありません。
現場で受け継がれてきた「物理的な分かりやすさ」や「身体感覚」を活かしながら、デジタル技術の「データ可視化」や「遠隔操作性」といった新しい価値を融合できます。

たとえば、物理ボタン＋タッチパネル併用型や、アナログ計器を写真で記録・共有できるアプリなど、現場の慣れ親しんだ文化と最先端技術の架け橋になるUI提案が、昭和型業界でも急速に広がっています。

「現場主導」の開発文化を育てる

最も大切なのは、現場の課題を自分ごととして捉え、現場主導で改善を回していく文化醸成です。
現場スタッフ自身がUI改善アイデアを出し合い、試作・改善にチャレンジできる風土が、長い目で見て最大の競争力を育てます。

そのためには、IT部門やメーカー・サプライヤー・現場担当者が密に連携し、「使いにくい」「もっと便利にできる」といった声を速やかに開発へフィードバックできる体制づくりが必要です。

まとめ：使いやすいユーザーインターフェースは製造業の未来をつくる

使いやすいユーザーインターフェースは、単なる「見た目」「操作性」の問題ではなく、現場の働きやすさ・生産性・安全性・ひいては企業の成長力そのものに直結しています。

昭和からのアナログ文化が色濃く残る日本の製造業にこそ、現場目線、ユーザー目線に立ったUI改革が強く求められています。

ユーザーインターフェース改善の取り組みは、単なる一時的な設備導入・システム開発にとどまりません。
バイヤー・サプライヤー双方の価値観や業界競争の構造自体を大きく変える可能性を秘めています。

皆さんもぜひ「現場のリアル」と「未来視点」を両輪で捉え、新しい価値を生み出すユーザーインターフェース開発にチャレンジしてみてください。
製造業の現場から、新しい進化の波をともに起こしていきましょう。