投稿日:2025年11月6日

生産技術者が設計段階から意識すべきDFM(Design for Manufacturing)の考え方

はじめに:製造業の現場改革、DFMが切り拓く新時代

日本の製造業は、世界に誇る高品質・高精度なモノづくりを支えてきました。
しかし近年は、人手不足やグローバル化、コストプレッシャー、デジタル化の波に直面し、従来型のやり方では限界を感じている企業も多いのが実情です。

このような環境下で、製品設計と生産現場が一体となってものづくりを進化させる「DFM(Design for Manufacturing/製造を考慮した設計)」の重要性が一段と高まっています。
昭和的な現場主導の「後工程は神様方式」から脱却し、生産技術者が設計段階から積極的に関与するDFMこそ、製造現場の生産性や品質、コスト競争力のカギになるのです。

本記事では、20年以上の現場経験とマネジメント経験を基に、バイヤーやサプライヤーとの関係構築も視野に入れながら、現場目線で「生産技術者が設計段階から意識すべきDFMの考え方」について徹底的に掘り下げて解説していきます。

DFM(製造性設計)とは何か?その本質を現場目線で解説

DFMの定義と目的

DFMは「Design for Manufacturing」の略で、設計者が製造工程や設備、品質、生産コストなどを考慮しながら製品を設計する手法を指します。

従来、設計部門は「理想の機能やデザイン」を重視しがちです。
一方、生産技術や製造現場は「安全・生産性・歩留まり・コスト・保守のしやすさ」など現実的な制約に悩まされてきました。

DFMの本質は、設計と製造をつなぐ架け橋です。
製品企画段階から生産現場の知見を取り込み、形状・材料・公差・組立性などを最適化することで、トータルコスト削減やリードタイム短縮、品質向上を実現することを目的としています。

なぜ今、DFMがこれほど重要視されるのか

ビジネス環境の変化と顧客ニーズの多様化により、
– QCD(品質・コスト・納期)の全てを高水準で満たすこと
– 一度の試作でしっかり立ち上がり、不良や手戻りが最小化されること
– サプライヤーも協業相手として設計に知見を出せること
が求められる時代になりました。

加えて、3D CAD・シミュレーション技術の進化や、デジタルエンジニアリング推進など、物理的バラつきや不具合要因を設計段階で“先読み”する仕組みが後押ししています。

現場に根強い「昭和の設計と製造分業」からの脱却

かつては「図面さえあればモノは作れる」「組立現場で何とかカバー」という考え方が当たり前でした。
しかし、現代の複雑化・多品種少量化するものづくりでは、
– 量産段階で初めて見つかる加工や組立の難しさ
– 設計者と現場のコミュニケーション不足によるトラブル
– サプライヤー任せで自社の競争力を損なう
……など多くのリスクにつながります。

設計・生産技術・バイヤー・調達部門・サプライヤーが「最初からチームとして連携」するDFMのアプローチは、グローバル市場で勝ち続けるための必須条件になりつつあります。

生産技術者が設計段階で押さえるべきDFMの5大ポイント

1. 加工性の最適化:現場加工の難易度・設備対応力を先読みせよ

設計図面に描かれた美しい造形も、生産現場の加工設備や熟練度、使用する治工具、ロボット対応可否によって実現性が大きく異なります。

生産技術者は、
– 設備の標準仕様内で実現できる加工か
– 複雑曲面、狭小部位など“段取り替え”や“特殊治具”が不要か
– NCプログラムの簡素化、複数品種共通化の余地
– ムリ・ムダ・ムラの発生要因(加工時間・歩留まり)
などを鋭くチェックし、設計初期段階でフィードバックすることが重要です。

この現場フィードバックこそが、後工程の困難や潜在的なコストを最小化します。

2. 組立性の向上:ヒューマンエラーと自動化の両面から考える

組立工程は、人手作業なら「手順ミス・パーツ紛失・ケガ」が、自動化なら「部品供給のしやすさ・姿勢・ピッキング精度」などが問題になります。

生産技術が設計時から関与すべきポイントは、
– ネジ、ピンは標準化パーツかつ本数を極小に
– リバーシブルな部品形状で間違った方向で組めない
– 部品点数削減・多工程一体化で物流コスト圧縮
– 自動組立ロボットのハンド搬送しやすい形状
など、理想の設計形状と生産現場の実現性を両立させる視点です。

スマートファクトリーが叫ばれる今、「組立しやすさ=自動化の容易性」も同時に意識しましょう。

3. 検査・品質管理の省力化:検証容易な設計を狙う

設計と製造品質のギャップは、初期不良・苦情・歩留まり悪化を招きます。

生産技術の観点では、
– シンプルな測定ジグでOK判定可能な設計か
– 特別な検査工程や設備導入が不要か
– 見ただけ、触っただけで合否判断できるフィーチャー設計
– トレーサビリティ対応の工夫(識別マーク、ロット記載部位)
など、“検査のしやすさ”を設計初期から要件に加えることが今後ますます重要です。

また、次世代ではAI画像認識の活用も進むため、「見やすい位置・形状」にも配慮しましょう。

4. サプライヤー連携:外部調達の設計ノウハウを最大化する

現代のものづくりは「自社だけ」で完結しません。
部品の多くはサプライヤーからの調達であり、調達先の設備特色や技術得意分野を設計に取込み、バイヤー視点も養うべきです。

ポイントは、
– サプライヤーと初期段階から工法・コストの擦合わせを行う
– 設図に明確な材質・公差・仕上げ条件を盛り込む
– サプライヤーの標準工程・既存品流用を積極活用
– 複数サプライヤーへの水平展開を念頭に置く
です。

これにより、「図面は引き渡せばそれで終わり」の昭和型調達から、「生産性や最適コスト・安定共有を設計に織り込む」先進的DFMへ移行できます。

5. コスト意識・ライフサイクルコストの全体最適

単純な“材料費削減”だけでなく、保守・アフターサービス・現場改善コストまで考えた設計こそがDFMのゴールです。

例として、
– 標準部品化で購入コスト・保守コストのダブル削減
– 再利用容易なパッケージ化やモジュラー化設計
– エネルギー消費・廃棄コストへの配慮
– “1品専用”設備投資が不要なユニバーサル設計
など、多角的な視点で全体最適を追求しましょう。

この発想は、設計者・生産技術者がコスト責任をシェアする“新しい経営感覚”の源泉です。

現場のDFM推進を阻む壁と、その突破方法

現場・設計・経営の壁:なぜDFMは定着しづらいのか

多くの製造業現場を見てきた経験から、DFM推進の主な障壁は以下の3つです。

– 「設計は設計、現場は現場」のセクショナリズム
– DFMノウハウの個人依存・属人化(暗黙知)
– 初期コスト・時間増大への経営懸念

この壁を突破するためには、個々のスキルだけではなく組織的・戦略的な推進体制が不可欠となります。

DFM定着のための5つのアクションプラン

1. 設計と生産技術・調達・サプライヤーをつなぐ「横断プロジェクト」の立ち上げ
2. DFMレビューの仕組み化(開発ゲートや試作前レビュー導入)
3. サプライヤー・現場参加型の勉強会・ワークショップの開催
4. 経営トップのコミットメントと目標設定・評価指標化
5. DFM成果を「QCD指標」や「現場KPI」と連動させるデータ活用

現場発の意見を重視し、早期段階で「リレーション・巻き込み力」を確立することが成功のカギです。

まとめ:DFMは日本の製造業復権への羅針盤

製造業が抱える「設計と現場の断絶」「生産性ジリ貧」などは、アナログ時代の遺産でもあります。
しかしDFMを正しく実践することで、設計から現場・調達・サプライヤーまでが「全体最適」を志向し、圧倒的なQCD能力と競争力を手に入れられるのです。

本記事が、生産技術者や設計担当者、バイヤー、サプライヤーの皆様が、明日からDFMを実践し“モノづくりの新地平”を切り拓くための一助となれば幸いです。

今こそ、昭和から続く「現場力」と、DFMという「全体最適の知恵」を結び付け、グローバル時代の勝者となりましょう。

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