投稿日:2025年12月20日

ダイヤモンドワイヤーと多刃工具の使い分け

ダイヤモンドワイヤーと多刃工具の使い分け

製造現場で求められる加工技術の進化

製造業の現場では、昭和時代から続くアナログな加工手法が今も数多く残っています。
一方で、半導体・自動車・精密部品といった分野では、生産性と品質向上を両立させるために新しい技術の導入が進められています。

その最前線で注目されているのが「ダイヤモンドワイヤー」と「多刃工具」です。
今回は、それぞれの特長と、現場でいかに使い分けていくべきかを解説します。
調達購買・生産管理・品質管理など多角的な視点も交えながら、現場目線で掘り下げていきます。

ダイヤモンドワイヤーとは何か

構造と仕組み

ダイヤモンドワイヤーとは、細い鋼線に微細な人工ダイヤモンド砥粒を電着や樹脂で固定した切断用工具です。
主にシリコンウェハーやサファイアなどの硬脆材料のスライスや切断工程に用いられます。

活用が進む分野

半導体、太陽電池、自動車用パワーデバイスなど、切断面の品質が厳しく問われる分野での活用が進んでいます。

ダイヤモンドワイヤーのメリット

– 極めて薄い切断が可能なので、材料ロスを最小限に抑えられます。
– 切断面が滑らかで、後工程の研磨や洗浄コストが抑制できます。
– 摩耗が少なく、長寿命です。
– 切断速度が速く、生産性向上に寄与します。

ダイヤモンドワイヤーの注意点

– 曲線や複雑な形状の加工には不向きです。
– 設備投資が必要で、初期導入コストが高い傾向があります。
– メンテナンスやワイヤーの張力管理、適切な冷却など運用ノウハウも求められます。

多刃工具とは何か

多刃工具の種類と特長

多刃工具とは、1本の工具に複数の切刃(刃先)を備えた工具の総称です。
フライスカッター、エンドミル、リーマーなど、多様な形状があります。

金属・樹脂・セラミックスなど多様な材料に対して、主に切削や穴あけ加工で使われています。

多刃工具のメリット

– 切削抵抗が分散され、振動やビビリが抑制できます。
– 短時間で大きな加工量を実現できます。
– 加工精度・表面粗さが向上します。
– 豊富な工具バリエーションがあり、複雑形状や小ロット生産にも柔軟に対応できます。

多刃工具の注意点

– 素材や加工条件に応じた適切な選定・切削条件設定が不可欠です。
– 刃先摩耗やチッピングが発生しやすく、工具管理・交換のタイミングが重要です。
– 高速切削時には発熱や切りくず排出不良によるトラブルもあります。

ダイヤモンドワイヤーと多刃工具の根本的な違い

ダイヤモンドワイヤーと多刃工具では、「加工原理」と「対象材料」「導入目的」が明確に異なります。

– ダイヤモンドワイヤー:主に硬脆材料(シリコンやガラスなど)の“切断”で活躍。
– 多刃工具:金属や樹脂などの“切削”や“穴あけ”、“輪郭加工”が得意。

どちらも摩耗や管理のノウハウが求められますが、ユーザーの加工目的や、生産現場のライン設計によって最適な使い分けが求められます。

現場での使い分け実例

半導体ウエハー加工ラインの場合

シリコンインゴットやサファイアのスライスには圧倒的にダイヤモンドワイヤーが使われています。
非常に薄い切断ができるため、歩留まりが大きく向上します。

一方、ウェハーのフレーム切り出しや、裏面グラインドの段階では多刃工具(特に多刃グラインダ)が威力を発揮します。

自動車部品工場の例

鋳造品や鍛造品の仕上げ工程、機械加工ラインでは多刃エンドミルやラジアスカッターが圧倒的に導入されています。
材料もアルミ・鉄・ステンレスなど多様なので、最大限の加工精度と生産性が求められます。

一方、EVやパワーデバイスで採用されるセラミックス部品など、硬くてもろい材料の切り出しにはダイヤモンドワイヤーが選ばれるケースが出てきています。

メーカー調達・サプライヤーとの対話ポイント

バイヤー視点では、生産プロセス全体を見渡し「どの加工にどの方法がベストか」「総コスト・納期・品質管理まで視野に入れた選定」が重要です。
たとえば「多刃工具加工だが、バリやカエリの除去工数が増えている」場合、「ダイヤモンドワイヤー切断への転換で後工程の負担軽減」を提案できる場面もあります。

またサプライヤーとしては、「バイヤーが本当に困っている点(加工面的にコスト高・歩留まり低下・加工精度の課題)」を読み解き、「自社技術でどう解決するか」視点が重要です。
顧客訪問・工程見学で”気づき”を与えられる営業力こそ、アナログ業界から頭一つ抜けるポイントです。

現場で失敗しやすい落とし穴

実際には、「他社もそうしているから」と根拠なく一方的に加工方法を選定してしまい、最適化されていない生産ラインが数多く存在します。
また現場の古参技術者から「昔からこのやり方だ」と新技術導入に抵抗される場面も、未だに多いのが実情です。

生産管理・現場リーダー・調達担当は、新旧技術の比較検討を”数値”(歩留まり・コスト・人員負荷など)で見える化し、総合的なメリット・デメリットを共有するプロセスがカギとなります。

これからの工場に求められるラテラルシンキング

昭和時代の加工現場は、技術者の経験と勘に大きく頼っていました。
今後はラインの自動化・DX化とともに、データドリブンで加工方法の最適解を見つける取り組みが必須となります。

たとえば、ダイヤモンドワイヤーと多刃工具の「ハイブリッド工程」も視野に入れるべきです。
「ワイヤーで粗切りし、重要形状は多刃工具で高精度に仕上げる」など、工程間の役割分担見直しが新たな効率化を生みます。

バイヤー・サプライヤー間での「工程提案型の見積依頼」や、製品設計段階からの「加工性フィードバック」が業界全体の競争力向上につながります。

まとめ:加工技術選択で生き残るには

– ダイヤモンドワイヤーは「薄く・高精度な切断」が求められる硬脆材料に最適
– 多刃工具は「多品種・複雑形状」「高い生産性」が求められる金属・樹脂加工に適する
– それぞれの得意分野と落とし穴を理解し、導入プロセスでは“現場数値”と“工程全体”に目を配ることが大切
– サプライヤーからの提案力・バイヤーのプロセス設計力が、アナログ業界から抜け出し競争力を高めるカギとなる

技術進化とともに加工現場も日々進歩しています。
ぜひ自社現場の課題を見つめ直し、最適な道具選び・工程設計で競争力ある現場づくりに挑戦してみてください。

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