投稿日:2025年8月15日

ダイカストと機械加工の役割分担を見直し総コストで勝つ工法戦略

はじめに:製造業を取り巻く現在地と工法戦略の必要性

日本の製造業、とりわけ自動車部品や電子部品など大量生産分野では、ダイカストと機械加工の組み合わせは長年の定番工法です。

しかし高度経済成長期やバブル崩壊後、現場のプロセスや委託先選定の常識は本当に変化したのでしょうか。

実は「このやり方がベストだ」「図面どおり作ればいい」という昭和的な慣習や“責任転嫁できる余地を残した”分業発想が今も深く根付いていることが多いのです。

競争力強化やサプライチェーンマネジメントが叫ばれる今、本質的に「全体最適」「総コスト低減」を目指す工法戦略の見直しこそ、調達購買・生産技術・現場の共通テーマではないでしょうか。

本記事では、ダイカストと機械加工の役割分担を革新的に再設計する発想法、実際の現場目線でのノウハウ、業界動向を踏まえ、これからの勝てる工法戦略を徹底解説します。

ダイカストと機械加工:それぞれの強みと弱みを再確認する

ダイカストの本質的メリットと現場で見落とされがちなデメリット

ダイカスト(Die Casting)は溶融金属を高圧で金型に流し込む鋳造工法で、寸法精度の高い大量生産に最適です。

特徴としては、
・複雑形状の一体成形が可能
・高い寸法精度(ITグレード8〜11程度)
・表面が滑らかで二次加工が減らせる
・量産効果が強く、単価が大幅に低減

一方で見逃せない弱点もあります。
・寸法精度には金型や射出条件の影響が大きい
・肉厚・リブ設計に制約があり、設計自由度は極端に高くはない
・ガス巻き込みや引け巣など鋳造特有の欠陥発生リスク
・初期投資(金型費)が重い
・小ロットや多品種ではコストデメリット

また、長年同じ金型を使っていると、不良率上昇や精度劣化問題も現れます。

これらは「ダイカストでできるところまでやればよい」という安直な設計思想に対して、リスクをはらんでいるといえます。

機械加工の得意分野と苦手ポイント

機械加工(MC加工やNC旋盤、マシニングセンタなど)は、切削によって高い精度や複雑な加工を柔軟に実現できる工法です。

その強みは、
・工程ごとに細かな調整・精度管理がしやすい
・少量多品種にも柔軟に対応可能
・冶具・治工具設計と並行して立上がりが早い

一方で、
・工数増→単価増となりやすい
・余肉やバリ、歩留まりのロスが出やすい
・加工専用機や自動化の投資が必要なケースも多い

「厳密な精度が要求される部分だけ機械加工を施す」のが王道ですが、“つい”設計や購買が安全側に倒れることで「念のためここもMC工程」となり、気がつけば過剰品質・コスト高に陥りがちです。

分業の落とし穴—本当に「ここまではダイカスト」「ここからは機械加工」でいいのか?

現場では“ダイカストと機械加工の分業”が当たり前のように存在しています。

たとえばギアケースやブラケットのように「外形と一部の基準穴はダイカスト、重要精度や組付穴はMC」という具合です。

一見合理的ですが、実は次のような問題を招きます。

・「設計はいつも通りの分割で…」と無自覚にコスト過大な設計となる
・材料ロスや段取り替え、社内外ロジコストが過剰となる
・ダイカスターと機械加工業者がそれぞれ“部分最適の競争”に走る
・担当者・部署間で「うちの責任範囲はここまで」となり全体最適視点が消える

これらは、まさに昭和から続く“分業の罠”。サプライヤーを変えても、そこで同じ仕様を固持すれば本質的なコスト改善にはなりません。

ラテラルシンキングで切り拓く新・工法分担の発想法

製造現場に根強い「常識」や「慣例」を疑うラテラルシンキング(水平思考)がこれからの工法戦略には不可欠です。

工法分担の再設計ステップ

より高いコスト競争力を目指すために、次のようなプロセスで“役割分担”を見直します。

●1. 部分最適でなく、サプライチェーン全体の「最小コスト化」を見極める
→工程間の内外製コスト、材料費、歩留まり率、段取り工数、物流賃、在庫負担など包括的な「トータルコスト」で算定します。

●2. 「ダイカストの限界性能」「機械加工の最小簡素化」を両サイドがテーブルでオープンに提案する
→例えば「この溝はダイカストの金型工夫であと0.05mm追い込める」や「この面取り処理はMCなくても現場治具で可」など、ギリギリまで標準工法の能力を最大化。

●3. 新たな工法・材料の活用を柔軟に検討する
→積層造形(3Dプリンタ)や高剛性ダイカスト材料、最薄肉設計、専用治具・搬送自動化、タクト短縮省人化など「まだやっていない」選択肢を徹底的に探索します。

●4. 設計・調達・現場技術・サプライヤー各層が“妥協の産物”を超えるレベルで徹底的に詰める
→日本型モノづくりの弱点は「前工程がやりやすいように負担を残す」配慮とも自己防衛ともいえる文化。デジタルツインやVE分析を用いて、徹底して全体最適な工法スタディを実施します。

発想のポイント:「イテレーション」に妥協なく時間をかける

工法分担の再設計は「急いでカタをつける」のではなく、下記サイクルを数回繰り返すことが重要です。

(設計要件)→(工法選定案)→(現場とサプライヤー提案)→(コストまとめ直し)→(リスクとトラブル要素の検証)

この往復運動こそが、他社よりも一歩前に出た原価低減の源泉となります。

総コスト比較の“現場あるある落とし穴”とその回避法

検討段階でありがちな落とし穴をいくつか紹介し、それをどう回避するかを見ていきます。

1. 「単品原価」への過信

単価だけでなく、段取りコスト、頻繁な再発注の手間、発生する物流中間在庫費用、洗浄・バリ取りなど付帯工数なども必ず洗い出してください。

2. サプライヤーへの丸投げ

「この仕様でいくら?」だけでなく、「こうしたら安くなる案がないか?」という一段メタな視点や、図面をOneNoteなどで赤入れしてもらうデジタル連携も有効です。

3. 過剰品質・過剰なリスク回避

「これまで事故がなかったから…」「標準書でこのやり方となっているから…」とマニュアルに縛られていないか。

「この箇所、本当にそこまでの精度が要るのか?」をたびたび現場で議論し直すのがカギとなります。

最新の業界動向:デジタル化・自動化と工法戦略の変化

製造業では急速にDX(デジタルトランスフォーメーション)や自動化技術が導入されています。

IoTやAI搭載設備、MES(製造実行システム)によって、ダイカストやMCの稼働実績・不良情報・保守データがリアルタイムで取得できます。

これによって
・工程間ロスの精緻な見える化
・金型や治工具の最適更新タイミングの把握
・自動化可能な領域の拡大
・トレーサビリティ強化による“狙って”攻める思い切った工法チャレンジ

が現実のものになっています。

さらに、サプライチェーン全体を3Dシミュレーションし、VE(Value Engineering)やDFM(Design for Manufacturability)を高度化している最先端メーカーも登場しています。

今後は「現場の勘と経験」に加えて、「データに基づく科学的工法選択」「サプライヤー連携の透明化と高速PDCA」が価値創出の標準となっていきます。

まとめ:購買・サプライヤー担当者がいま持つべき視点

・「これまでのやり方」や「担当分業」の垣根を超え、サプライチェーン全体の最小コスト最適化を目指すこと
・ダイカストと機械加工それぞれの“本来の限界性能”を最新技術・デジタル化まで含めて見極め直すこと
・従来バラバラだった設計・調達・現場・サプライヤーが一つのテーブルで「妥協なきイテレーション」を繰り返すこと
・単品原価や発注単位だけでなく、物流・在庫・段取りなど累積的な総コスト比較を徹底すること
・“標準化”や“リスク回避”の名のもとに、過剰品質・工数増大の泥沼に踏み込んでいないか、定期的にゼロベースで再点検すること

これらを愚直に実行すれば、アナログな製造業の世界でも劇的なコスト低減と競争力強化が可能です。

変化の速い時代、人間の固定観念こそが最大のコスト増要因です。

現場・調達それぞれのプロが「自分の領域を超える勇気」を持つことが、これからの日本の製造業をより高い地平へと引き上げる“突破口”になるのです。

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