投稿日:2025年11月25日

OEMパーカーで重視すべき“立体縫製”と“平面縫製”の違い

OEMパーカー製造における“立体縫製”と“平面縫製”の意義とは

パーカーは幅広い層に親しまれる定番アイテムですが、OEM(受託生産)で独自ブランドを展開する際は、その“作り”によって着心地や見た目、販売後の不良発生率が大きく異なります。

なかでもポイントになるのが「立体縫製」と「平面縫製」の違いです。

両者の選択は、バイヤーや調達担当者はもちろん、サプライヤーとしてモノづくりの立場にあるメーカー、アパレルブランドにも大きな影響を与えます。

本記事では、20年以上製造業に関わった現場経験を踏まえて、それぞれの特徴やメリット・デメリット、そして昨今の業界動向や現場での選定基準までを解説します。

立体縫製と平面縫製、その定義と特徴

立体縫製:着用時のボディラインを意識した縫製方法

立体縫製とは、人間の体のカーブや膨らみ、骨格や動きに沿った形状になるよう型紙(パターン)と縫製を工夫する仕立て方です。

具体的には、肩の丸み、背中の膨らみ、袖のカーブなど生地が体に自然にフィットするように生地を曲線的に裁ち、縫い合わせます。

そのため、仕上がったパーカーは着用したときに自然なドレープ(生地の流れ)が生まれ、動きやすさやフィット感、見た目の美しさが向上します。

ユニフォームやスポーツウェア、ハイクラスブランドのパーカーなど機能性やデザイン性が求められる製品で多用されています。

平面縫製:パーツを平面的に縫い合わせる基本構造

平面縫製は、一枚の布をパーツごとに「直線的」「平ら」に裁断し、それらを直線的に縫い合わせる方法です。

大量生産に適し、コストメリットが高く、パターンの設計や縫製現場でのオペレーションもシンプルになります。

主にベーシックな普及品、ノベルティ、ユニフォーム、コストパフォーマンス重視のアパレルで採用される傾向が強いものです。

ただし、直線的な縫い合わせのため、立体感や着心地、フィット感、シルエットには一定の制約が伴います。

なぜ“立体縫製”が近年注目されているのか

近年、アパレル業界におけるODM・OEM生産において「立体縫製」の要望が高まっている背景には、消費者の価値観の変化が挙げられます。

ユニクロやジーユーに代表されるベーシックな商品が溢れ、単なるコスト競争では生き残れない時代、「着心地」「機能性」「デザイン性」を兼ね備えた差別化された製品づくりが求められています。

またコロナ禍によるライフスタイルの変化で、“部屋着をそのまま外着に”“アクティブなシーンにも適用できる”といったマルチユースのパーカー需要が増加。

特にD2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)ブランドや、高価格帯向けには「着たときに自然な立体感があるか」「動きやすいか」が大きな価値として映ります。

そこで、OEMパーカーにおいて立体縫製を導入する動きが広まっているのです。

“平面縫製”にもいまだ根強いニーズがある理由

一方で、いまだに多くの現場では“平面縫製”が主流となっています。

日本の縫製業界では昭和から続く生産設備・型紙・工数設計のノウハウが広く根付いています。

標準化・効率化を最優先する大量生産・ローコスト生産の現場では、「平面縫製」が圧倒的な強みを発揮します。

加えて、一定品質が担保でき「誰でも着こなせる」「大量に供給できる」「納期遵守がしやすい」といった業界的な事情も大きな要因となっています。

とりわけ学校や企業の指定ジャージ、ノベルティパーカーなどは大量・短納期・生産コスト重視から、今なお平面縫製のニーズが根強く残っています。

現場目線で見る “立体縫製”と“平面縫製”の具体的な違い

1. パターン設計・型紙工程の違い

立体縫製ではCAD(Computer Aided Design)の3Dモデリング機能、アパレル専用ソフトの活用などが必須となります。

平面パーツを組み合わせるだけでなく、立体トルソー(マネキン)を用いたドレーピング作業も重視されます。

一方、平面縫製は昔ながらの2Dパターンがメインであり、最小パーツ数・工程の標準化を重視します。

製造現場の視点では、立体縫製は高度な設計スキルと経験を必要とし、パターン修正も手間がかかりますが、平面縫製はパターン師の難易度が比較的低く抑えられます。

2. 縫製・組み立て工程の違い

立体縫製は、曲線縫製・山折り・しぼり・ギャザー寄せ・腕の付け根といった精密かつ複雑な縫製ラインが求められます。

ミシンオペレーターの高度な技術が生産品質の安定に直結します。

一方、平面縫製では直線縫いが中心であり、作業の自動化率が高く、ある程度の人員交代・規模拡大が容易です。

また自動化設備との親和性も平面縫製の方が高いです。

3. “仕上がり”の見た目と着心地の違い

立体縫製は着ている姿が格段に美しく、ラインがきれいに出ます。

また、着心地も体に自然にフィットし、特に動きの多い場面や日常的な着用でもストレスが少なく快適です。

一方、平面縫製は「やや四角く、だぼっとしたシルエット」になりやすい反面、厚手のインナーやユニセックス展開など幅広いサイズ対応がしやすいというメリットもあります。

OEMで失敗しないパーカー発注―「どちらを選ぶべきか」の判断基準

製品価格帯・ブランドイメージから選ぶ

– 高価格帯・デザイン重視:立体縫製
ブランドイメージやアウター向き・差別化を意識するなら立体縫製が適しています。

– 中~低価格帯・ベーシック重視:平面縫製
コストや供給の安定性が最優先の場合は平面縫製が現実的です。

ターゲット顧客像・用途から選ぶ

– ファッション性、スポーツ、アクティブ系:立体縫製
着心地やシルエットが重視されるためです。

– ノベルティ、業務用、スクールユース:平面縫製
幅広い体型に合い、コスト制約が強いシーンで役立つためです。

サプライヤー実力・現場体制で見極める

立体縫製は「高度パターン設計」「熟練ミシン技術」「少量多品種生産力」が不可欠です。

一方、平面縫製は「大量生産管理」「自動化・標準化への対応力」「短納期対応」の体制が物を言います。

OEM供給先の現場をよく観察し、どちらの縫製方法に強みを持つかを見極めることが成功のカギです。

業界のアナログ慣習と新たなトレンドの狭間で

日本の縫製業界は、長らく“平面縫製”を主流としながら高度な品質基準を築き上げてきました。

しかし最近では、デジタル化(3D CAD等)やグローバルな高付加価値生産、個々の顧客要望にきめ細かく応えるD2Cブランドの躍進など、新しいトレンドが生まれています。

現場では、「平面縫製のロボット化」や「立体縫製の職人技・DX連携」など、アナログとデジタルの融合が始まっています。

サプライヤー視点でも、自社強みを活かし選択と集中で差別化することが生存戦略となります。

バイヤーや調達担当者も、従来の流れにとらわれず、唯一無二の製品価値訴求にチャレンジする時代が到来しています。

まとめ:「縫製」という視点でパーカーOEMの未来を考える

パーカーOEMで重視すべき“立体縫製”と“平面縫製”。

その違いを単なる「見た目」「コスト」だけで判断せず、実際の用途やマーケット、ブランドイメージ、流通や現場オペレーション・納期要求などを多面的に照らし合わせることが重要です。

昭和から続く縫製現場の知見と、先進的なデジタル工作・設計技術をいかに融合させるか――それがこれからのOEMパーカー開発・バイイングのカギとなります。

現場で働く皆様、ものづくりにかかわるバイヤー、サプライヤーの皆様には、目の前の選択肢を「伝統」と「革新」両面から深堀りする“ラテラルシンキング”の重要性をぜひ意識していただきたいものです。

パーカーというシンプルなアイテムにも、製造業ならではの奥深い世界が広がっています。

それを理解し、選び、磨くことが、次の時代のものづくりリーダーになる第一歩となるのです。

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