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人が足りない中で新しい仕組みを入れる判断の難しさ

目次
はじめに:人手不足が製造現場に及ぼす影響
昨今、製造業の現場では深刻な人手不足が課題となっています。
熟練工の高齢化や若手人材の不足、さらにはコロナ禍を契機とした働き方の変化によって、従来のやり方では対応が難しくなってきています。
その中で「新しい仕組みの導入」という選択肢がしばしば議論されますが、手放しで導入できるほど容易なものではありません。
現場では現実的な運用や予算、既存の従業員の能力・士気といった様々な観点から、判断が揺れ動くことが日常となっています。
この記事では、昭和から続くアナログな仕組みが根強く残る中で「新しい仕組みを入れる判断」の難しさについて、工場現場の生々しい実態を交えながら解説します。
また、実際に私たちがどんな視点で課題に向き合っているのかも紹介し、業界の発展へのヒントを提示したいと思います。
現場が疲弊している「3つの人手不足」
1. 量的な人手不足:そもそも手が足りない
工場内で常に頭を悩ませるのが、純粋な人の数が足りないという現実です。
定年退職や高齢化によって、あらゆる職種で補充が追い付いていません。
特に地方の製造現場では若者の流出も目立ち、現場は常に「火の車」です。
朝礼では「今日もお願いだから残業頼むよ」というやりとりが当たり前になっており、恒常的な疲労感が蔓延しています。
2. 質的な人手不足:熟練工と若手のギャップ
たとえば、古くから生き残ってきた特殊工程では、数十年の経験がすぐに埋められません。
若手を採用しても、ノウハウの伝承が難航します。
結果として、オペレーションのミスや品質不良が増加し、現場のストレスがさらに増大します。
「誰も分からない仕事」が増えてしまうことで、職場の雰囲気も悪化します。
3. コミュニケーション不足:多様化と分断
外国人技能実習生や派遣社員の増加により、言語や文化の違いもコミュニケーション障壁となっています。
生産現場の多様性は歓迎すべきですが「意思疎通の難しさ」から生産性が落ちてしまう例も多いのです。
現場がバラバラで一体感が生まれず、チームとしての機能不全に陥るケースも見受けられます。
新しい仕組みを入れる「現場ならではの葛藤」
昭和から抜けられない安定志向
多くの製造現場では、長らく使い続けてきたアナログな手法、手書きの帳票、伝票まわし、口頭指示などがいまだに幅を利かせています。
なぜ変えられないのか?
それは「現場が持つ大きな安心感」があるからです。
今まで問題が起きてこなかったプロセスに、わざわざ新しいリスクを持ち込む発想が生まれにくい土壌が存在します。
また、変化に抵抗する勢力も根強く、「前例がない」「昔からこうしてきた」「余計な混乱を招くな」といった声が必ず上がります。
これが新しい仕組み導入の最大のハードルとなっています。
人手不足=自動化? 単純な発想では進まない理由
人が足りないなら機械を入れよう――理屈は簡単そうですが、現場での実態はそう単純ではありません。
自動化設備の導入には莫大な投資が必要です。
しかも現場は「今すぐ」の解決を求めており、設備導入には数カ月~数年単位の時間がかかることも。
さらに「メンテナンスやトラブル時に誰が責任を持つのか」「今いる社員の仕事がなくならないか」という新たな不安もつきまといます。
少しでも操作や調整が難しい設備だと、逆に扱える人材が減ってしまい、現場が混乱する場合も珍しくありません。
導入判断を迫られる管理職のリアルな声
生産と現場力のバランス
管理職、特に工場長や現場責任者の頭を悩ませるのは「理想と現実」のギャップです。
経営層や本部からは「自動化せよ」「IT活用せよ」といったプレッシャーがかかる一方、現場では「そんなの無理」「今のままの方が確実」という声の板挟みになります。
たとえばMES(製造実行システム)などの導入では
・品質のトラッキング強化
・作業工程の可視化
と大きなメリットがある一方、「複雑すぎてパート社員がミスする」「データ入力が二度手間になる」といった不安の声も多数上がります。
実際、現場力を維持しつつイノベーションを進めるには、想像以上の綿密な調整が求められるのです。
現場の「心理的バリア」をどうするか?
新しい仕組みを導入する際、現場では「できることなら変わりたくない」という心理が強く働きます。
これは人手不足で疲弊している現場ほど顕著です。
「これ以上仕事を増やさないで欲しい」「今のやり方に慣れているからミスが怖い」と感じるのは自然な反応です。
管理職としては「新しい武器を持たせて、現場を楽にしたい」という期待がある反面、「変革を進めることで現場が混乱しないか」という恐れも常に抱えながら判断しています。
ラテラルシンキングではじめる 本質的な課題解決の道筋
システム導入=万能ではない、多様な解決策を組み合わせる
ともすれば「省人化」「自動化」という言葉ばかりに目が行きがちですが、本質的な課題解決には「多面的な視点」が欠かせません。
たとえば
・一部業務だけ部分的に自動化する(全体の最適化ではなく、現場の限界値までの導入)
・レイアウトや段取り替えの見直しで余計な移動や無駄作業を減らす
・現場目線でのボトムアップ施策(5S、カイゼン活動、標準化マニュアルの刷新)
実際、海外の自動車工場のような「全自動・ロボットまみれ」の世界観を日本の中規模工場に持ち込んでもうまくいかないことが多いのです。
社内調整力 × 現場牽引力がカギ
新しい仕組みを定着させていくには、「トップダウン」でも「ボトムアップ」でもなく、その中間=現場の合意形成を絶対に外してはいけないと痛感しています。
具体策としては
・現場のキーパーソンを早い段階で巻き込み「テスト導入」「シミュレーション」を実施
・導入初期から現場担当者に小さい成功体験を積んでもらう(例:月次の不良率が○%削減できた、等)
・経営者層⇔現場の双方向コミュニケーションの場をつくる
「みんなが納得するまでゆっくり進める」のも、時には重要な戦略となります。
バイヤー/サプライヤーの視点から見る現場改革
バイヤーが気にする視点:「安定供給」と「品質保証」そして「DX対応」
大手メーカーのバイヤー(調達担当者)は、納入先の工場で何が起きているかを常に見抜こうとしています。
人が足りない現場では
・納期遅延
・突発的な不良流出
・ライン停止
などのリスクを非常に警戒しています。
DX(デジタルトランスフォーメーション)推進の観点からも
「製品トレーサビリティを即時で出して」「サプライチェーン全体のリアルタイム化」に頭を悩ませているのが実情です。
サプライヤーはどう動くべきか?
サプライヤー側で「新しい仕組み(設備やシステム)」を導入する際、バイヤーに対して
・どんな課題解決を目指しているか
・現場への負荷軽減や安定生産への道筋がどう描かれているか
・投資が品質や納期遵守の向上とどうひも付くか
をしっかり説明できることが信頼構築につながります。
また、現場と経営層の“間”で生じるギャップを、社内外含めて埋めていくファシリテーター的な担当者の存在も、これからの調達購買・生産管理では欠かせない役割となります。
これからの工場現場に必要な「判断基準」とは
「今変わらなくては」…それでも判断の軸をぶらさない
人が足りない中で新しい仕組みを入れるのは、決して簡単な判断ではありません。
しかし「いま変わらなくては本当に10年後がない」という危機感と、「現場がついてこなければ全ての施策は失敗する」というリアルの矛盾を、現場主導で乗り越えていくしかありません。
そのためには
・「なぜやるのか?」を現場が納得できる言葉で伝え続ける
・小さい成功を重ね、負担とリターンを見極める
・現場の声を集め、PDCAを高速回転させる
…というかなり地味で愚直な取り組みこそが、変革の「本丸」であると、長年業界で働く中で学んできました。
最後に:過去の延長では未来は拓けない
製造業の現場がこれからも「ものづくり大国・日本」の真価を発揮していくためには、固定観念を捨て、時に勇気を持って新たな判断をしていく必要があります。
見えない未来を恐れて立ち止まらず、小さな一歩を積み上げることが、いずれ大きな成果へとつながります。
この記事が、みなさん自身の現場改革のヒントになれば幸いです。