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ディジタル信号処理の基礎とフィルタ設計を実務に応用するノウハウ

目次
ディジタル信号処理とは何か
ディジタル信号処理(Digital Signal Processing: DSP)は、アナログ信号をディジタルデータとして処理し、有用な情報を取り出したり、不要なノイズを除去したりする技術です。
工場の自動化や品質管理、検査システムなど、現場のさまざまな場面で利用されています。
アナログ信号をディジタル化し、アルゴリズムによって複雑な処理を短時間で実現することで、従来アナログ回路では困難だった高度な制御や判別、データ解析が可能になります。
特に近年は、高速処理が可能なマイクロプロセッサの進化と、IoTの普及によって、製造業の現場におけるディジタル信号処理の価値はますます高まっています。
ディジタル信号処理の基礎知識
サンプリングと量子化
ディジタル信号処理は、まずアナログ信号をサンプリングし、一定間隔で値を取り出してディジタルデータへ変換します。
このとき、標本化定理(ナイキストの定理)が重要です。
信号に含まれる最大周波数の2倍以上のサンプリング周波数で信号を記録しなければ、信号の情報を正確に再現できません。
また、サンプリングされた信号は、一定ビット数で表現されるため、アナログ値を最も近いディジタル値に割り当てます。
この過程を「量子化」と呼び、量子化ビット数が多いほど元の波形に近いデータとなります。
ディジタルフィルタとは
ディジタルフィルタは、特定の周波数帯域の成分を選択的に透過または除去することによって信号を整形する装置、またはアルゴリズムです。
例えば、生産ライン上のセンサー信号からノイズだけを除去し、異常検知精度を上げることも可能です。
フィルタには、ローパスフィルタ(低域通過)、ハイパスフィルタ(高域通過)、バンドパスフィルタ(帯域通過)などがあり、現場で必要な信号処理に合わせて最適な設計が求められます。
フィルタ設計の実務ノウハウ
現場で求められるフィルタ性能
製造ラインで使うディジタルフィルタには、単にノイズを減らせば良いわけではありません。
応答遅れ(遅延)が大きいと制御系では問題になることがありますし、位相特性が悪いと出力信号が歪み、誤判断につながることもあります。
どこまでノイズを減らし、どこまで信号遅延を許容できるか、現場の目的を明確にすることが最初のステップです。
また、故障予知やトレーサビリティ用途では、できる限り元の信号に忠実で劣化が少ないフィルタが望まれます。
アナログ発想からの脱却
昭和から続くアナログ主流の現場では、RC回路やLC回路のフィルタ設計経験者が多いのも確かです。
しかしディジタルフィルタでは、計算による精緻な設計と、シミュレーションによる事前検証が強みとなります。
アナログに慣れた方ほど「フィルタは作ってみないとわからない」というマインドですが、ディジタルでは設計段階で伝達関数や周波数特性グラフで性能予測が可能です。
組織的にも、設計者と現場担当者が一緒に設計意図や仕様をすり合わせ、フィルタ処理の理屈と実際の効果をロジカルに議論する文化が必要です。
FIRフィルタとIIRフィルタの使い分け
ディジタルフィルタにはFIR(有限インパルス応答)型とIIR(無限インパルス応答)型があります。
FIRフィルタは直線位相が得やすいため、測定信号や検査システムでの波形再現性重視には最適ですが、リソースを多く消費します。
一方でIIRフィルタはアナログ特性に近く、少ない計算量で急峻な特性を実現できますが、位相歪みを伴うことがあるため制御用途では注意が必要です。
現場でよくある失敗は、とにかくIIRフィルタで“尖った特性”だけを狙い、不安定な動作や予測不能な遅延が生じてライン停止や誤検出につながることです。
設計段階でツールやシミュレーションを活用し、用途・許容誤差に応じて最適なフィルタ方式を選定しましょう。
実装時のポイント:数値精度と遅延管理
ディジタルフィルタの性能は、使用するマイコンやDSPチップの数値精度や性能に依存します。
特に多段のフィルタや高次のIIRフィルタでは、演算誤差が問題となる場合があります。
また、工場自動化の現場では、PLCや産業用PC、組み込みCPUなど様々なハードウェアの制約を考慮しなければなりません。
目的に応じて浮動小数点演算か固定小数点演算か、遅延許容度やCPU負荷などをきちんと評価する必要があります。
現場で管理職として導入をリードする場合、IT部門やシステムベンダー、機械メンテ担当を巻き込み「誰がどの工程で何を保障するのか」を明確に決めておくことが、運用トラブルの未然防止につながります。
失敗談から学ぶディジタル信号処理導入ノウハウ
アナログ回路の「置き換え」だけではダメ
現場から「今までのアナログ回路をそのままディジタルに置き換えてほしい」と要望されることはよくあります。
しかし、設計思想が異なるため単なる置き換えでは期待通りの結果が得られないことが多いです。
たとえば、アナログ回路特有の自然な減衰や微妙なフィードバックのニュアンスは、ディジタル処理に置き換える際の設計やパラメータチューニングが必要です。
設計段階でアナログの「感覚」「勘」に頼ると、ディジタルの恩恵を十分に活かせないばかりか、かえって不具合の温床となるリスクが増します。
「思い込み」設計が失敗を招く
品質保証や異常検知のためのフィルタ設計では、「これまでこうやってうまくいったから」と過去のやり方に固執しがちです。
ですが、生産設備やセンサーのアップデート、原材料の変更、作業環境の微妙な違いでフィルタの設計要件は大きく変わります。
特に、量産立ち上げ直前や製造現場の現物試験で「想定外のノイズが多い」「応答が遅れて制御不能」などの問題が発覚し、部門間で責任の押し付け合いが起きるケースも少なくありません。
「現場の暗黙知」だけでなく「理詰めの実証主義」を徹底し、設計・開発・製造の壁を超えた事前レビューを行いましょう。
バイヤー・サプライヤー観点で見る信号処理の重要性
設備導入側(バイヤー)の目線
これからバイヤー(調達購買職)を目指す方に伝えたいのは、ディジタル信号処理の理解が調達活動の「付加価値」になる時代になったということです。
現場で必要とされるフィルタや信号処理アルゴリズムの知見があれば、サプライヤーへの仕様提示や性能評価時に具体的な交渉力を持つことができます。
「何となく汎用製品から調達」ではなく、「なぜこのフィルタ仕様でなければいけないか」「どんな信号特性が品質確保に不可欠か」といった論理的な根拠をもって仕入先とやり取りができるのです。
サプライヤーからの提案も、ブラックボックス化せず、現場目線で精査できるスキルは今後ますます重要になります。
サプライヤー側の視点
一方で、サプライヤー(供給側)としても、「バイヤーがどんな意図でフィルタ設計や信号処理仕様を要求しているのか」を理解する姿勢が求められます。
たとえば、「応答速度を重視したい」「ノイズ性能を絶対に譲れない」「トラブル時のトレーサビリティを強化したい」など、潜在的なニーズを汲み取るコミュニケーションが商談成立に直結します。
製造業全体がますますディジタル化、高度化していく中で、自社の技術提案能力や現場理解力が競争力の源泉となります。
業界動向と今後の展望
ディジタル信号処理技術は、AIやIoT、スマート工場といったキーワードとともに今後ますます存在感を増します。
一方で、昭和時代の「アナログ信仰」文化や、勘と経験に頼り切った現場慣習もいまだ根強く残っています。
両者のギャップを埋め、理論と現場実践を融合し「現場の本質価値」に直結する設計・運用ノウハウが、今後の製造業発展のカギとなるでしょう。
日本の製造業が世界をリードしていくためには、現場の知恵や経験を活かしつつ、新しい技術体系にも積極的に挑戦し続ける組織風土が不可欠です。
ディジタル信号処理を単なるツールや専門家任せの領域と捉えず、現場の全員が共通言語で語り合える職場づくりをしていきましょう。
まとめ
ディジタル信号処理は、工場の自動化・品質管理・設備監視・異常検知など多くの現場で高度な役割を果たします。
基礎理論を正しく理解し、現場の目的と課題に応じたフィルタ設計・実装ができれば、製造現場の生産性と品質を大きく向上させることができます。
バイヤー、サプライヤー、製造現場のすべてが信号処理の意味を深く理解し、論理的に議論を重ねることが、業界全体の競争力と発展につながります。
いつまでも昭和流にしがみつくのではなく、新しい価値を積極的に現場で試し、人と技術の新たな融合を目指していきましょう。
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