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数字だけで調達を語られることへの強い違和感

目次
はじめに ― 数字だけで調達を語る落とし穴
製造業の現場で長年勤めてきた方であれば、一度は「調達を数値で語る」現場の空気に違和感を持ったことがあるのではないでしょうか。
年次計画の数値目標、コストダウン率、発注単価のグラフ――これら業績指標は確かに重要です。
しかし、それだけで調達業務の本質が語られ、意思決定されている場面を見聞きすると、何とも言えぬ不安や危機感を覚えます。
なぜ「数字だけの調達」ではいけないのか。
そこには現場目線で仕事をしてきた者だからこそ見える多角的な課題と、昭和型アナログ思考に根強く残る古い業界体質があります。
この記事ではバイヤーを目指す方、サプライヤーとしてバイヤーの考えを知りたい方へ、調達現場に根付いた「数字偏重主義」の落とし穴と、その先に拓ける新しい地平線を現場目線で語ります。
現場が感じる「違和感」とは何か?
調達購買部門で働いていると、経営会議から突如降りてくる「この品目は○%コストダウンせよ」という指令。
現場で部品や資材を選定するにも「一番安いものから評価するんだ」と一蹴される意思決定。
数字管理の重要性は十分に理解しています。
しかし現場で肌感覚で感じる違和感は、“数字が本質を捉えていないことへの危機感”です。
数字だけ見て、
・サプライヤーの抱える技術・品質リスク
・急成長する取引先のキャパシティ
・サプライチェーン全体の安定性
・現場担当者同士の信頼関係
といった“数値化できない現実”をまったく考慮しない意思決定が、調達現場を蝕んできました。
なぜ「数字だけの調達」が温存されるのか?
多くの現場で数字偏重が温存される理由は、今なお強く残る「昭和型管理主義」に起因します。
全社目標さえ達成すれば良しとするKPI体質や、「説明責任」と称した会議資料作り。
こうした文化では、数値で表しやすい成果を前面に掲げた方が評価されやすい空気があります。
さらに、グローバル競争の激化とコストダウン圧力にさらされ、調達が“値切り役”に矮小化されてしまう構造的な問題も横たわります。
数字で見えない「現場の知恵」と「信頼」
機械メーカーの生産現場で工場長を経験した者として強調したいのが、「現場の知恵」や「サプライヤーとの信頼」は数値化しにくいという事実です。
例えば、自社の工程にぴったり合致する特注部品の調達では、サプライヤーの持つ技術ノウハウや融通力の有無が、最終的な品質や生産効率、ひいては納期遵守に大きく影響します。
数字で語れるのは契約単価や納期遅延の回数だけかもしれませんが、「このサプライヤーさんならトラブル時もすぐに対応してくれる」という“信頼と経験”に裏打ちされた判断は、現場ならではの財産です。
サプライチェーン全体が変化する時代背景
ここ数年、サプライチェーンマネジメントは大きな転換期を迎えています。
新型コロナウイルスによる部品供給の混乱、世界的な半導体不足、地政学リスクの高まりなど、従来の「コスト最優先」調達では通用しない現実が突き付けられました。
徹底したコストダウンの副作用
安さだけを求めた結果、脆弱なサプライチェーンとなり、設備トラブルや震災一つで納期遅延が多発。
調達先をむやみに切り替えていった結果、昔から付き合いのあったサプライヤーが廃業した事例にも数多く出くわしました。
目先の数字を追求した“調達コスト最適化”が、結局は企業存続のリスクになった現場も少なくありません。
品質・納期・BCP(事業継続計画)の重要視
2020年代以降、工場の自動化やDX(デジタルトランスフォーメーション)は加速しましたが、それに伴い調達現場のプロ意識も大きく変化しています。
コストのみならず「品質・納期厳守・BCP」を重視し、サプライヤーと共創する姿勢がますます重要となってきました。
「数字+現場感覚」のハイブリッドバイヤーへの転換
これからバイヤーを目指す方、あるいはサプライヤー側からバイヤーの本音を理解したい方のために、現場目線で「これからの調達担当者」に求められる3つの力を整理します。
1. 数字力 ― データ分析はベースのスキル
当然ながら、価格分析や原材料市況、コスト構造の可視化は必須スキルです。
最適化計算やサプライヤー評価指標も、グローバルで共通言語となりつつあります。
“数字”をおろそかにしていては担当者自身が評価されません。
しかし、単純な単価比較や出来合いのグラフだけでは、決して競争力のある調達はできません。
2. 現場コミュニケーション力 ― サプライヤーと“対話する”
実務の調達現場では、「なぜこの価格なのか」「なぜこの納期が現実的なのか」という一歩踏み込んだ対話力が不可欠です。
製造現場を歩き、工程を見て、サプライヤーの開発担当者とじっくり話し込む。
そこで初めて、“数字の裏側”にある事情や可能性、リスクを見抜くことができます。
「数字」ではなく「実態」を手に入れるために、現場を知り、現場の言葉を使って会話することが、真のバイヤーの大きな差別化ポイントです。
3. サプライチェーンリスクを見据えた全体最適思考
安ければどことでも取引すればいい、という単一指標で意思決定する時代は終わりました。
・サプライヤーの供給安定性
・サブサプライヤーの地政学リスク
・災害、パンデミック下での供給体制
こうしたリスク要因を「数値化+現場感覚」で可視化する力が、これからは求められます。
組織として個人として、現場の“勘どころ”と分析的思考を掛け合わせることが、調達現場の未来を切り拓くことにつながります。
サプライヤー視点で「バイヤーの本音」を理解する
数多くのサプライヤーと交渉してきた経験から、「なぜバイヤーは値下げばかり言うのか」とため息をついたサプライヤーの声をよく聞いてきました。
しかし、これからの時代、バイヤーも「数字偏重」から「サプライヤーと共に課題を解決する」パートナーシップ志向に変わりつつあります。
価格交渉だけでなく
・工程改善や自働化提案を一緒に進める
・部品の設計変更で合理化する
・納期や在庫の最適化を共に模索する
こうした取り組みに前向きなバイヤーと巡り会うことが、中長期的な“共存共栄”に直結します。
交渉の現場でも「このバイヤーなら本音を言ってみよう」と思ってもらえる“誠実な現場目線”が、最終的な成果に大きな差を生むのです。
数字ありき、ではない調達現場のこれから
昭和の時代から引き継がれてきた調達の「数字偏重主義」は、今世界規模のサプライチェーン危機によって大きく揺らぎ始めました。
これからのバイヤーに必要なのは、数字力は当然のこと、その奥にある現場の知恵や信頼を“実感値”として組み合わせる力です。
時代は「合理的判断」と「現場主義」のハイブリッドバイヤーを求めています。
あなたの現場やサプライヤー現場で、「数字の裏側にあるリアル」に踏み込む勇気を、一緒に持ち続けていきませんか。
現場の知見や感覚をないがしろにしない、新しい調達現場をともに育てていきたい―そんな思いを込めて締めくくります。
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