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災害による工場停止を理由とした納期遅延で揉めたケースと解決の糸口

目次
はじめに
製造業に従事している方なら、一度は納期遅延のトラブルに直面したことがあるのではないでしょうか。
近年、地震や台風・大雨といった自然災害が頻発し、工場の操業が突如として止まることも珍しくなくなっています。
特に災害による工場停止が発生した場合、その遅延理由の「正当性」をめぐってバイヤー(買い手、調達担当)とサプライヤー(供給側、メーカーや部品業者)間で意見が食い違い、時には信頼関係自体が損なわれることもあります。
この記事では、実際に災害による工場停止と納期遅延で揉めた実例や現場の苦労、大手がとっている対策、さらに解決のための実践的な糸口について、現場目線のリアリティを交えて解説します。
工場停止による納期遅延の現状と業界動向
激甚化する災害とグローバルサプライチェーンの脆弱性
日本はもともと自然災害のリスクが高い国です。
加えて、グローバル化が進み、部品や原材料の調達・供給が国内外に広く分散された結果、「どこかの工場が止まる=世界中でモノが動かなくなる」時代になりました。
昨今の実例を挙げると、2011年の東日本大震災や2018年の西日本豪雨、そして各地で発生した台風や地震被害が記憶に新しいでしょう。
これら災害で工場が操業停止し、部品供給が途絶した結果、自動車・家電をはじめ様々な製品群で納期遅延が多発しました。
昭和から続く”アナログ”な業界慣行の弊害
一方、製造業の発注・納品・連絡業務にはいまだにFAXや電話、紙の帳票管理といったアナログな部分が根強く残っています。
万一の災害発生時、詳細な被災状況や復旧見込みが迅速・正確に伝わらず、バイヤー側も「本当にそれだけの遅延が不可避なのか?」「どこまで開示情報を信頼すべきか?」と疑念を抱きやすい土壌になりがちです。
また、強いトップダウン文化や「絶対に遅延は許さない」という相互無理難題の押し付け、責任のなすり合いなど、昭和的な商習慣が双方の不信感を高めてしまいます。
納期遅延で揉めた現場のケース
ケース1:大型地震による部品調達遅延とバイヤーの対応
A社は自動車用の電装部品メーカーです。
ある年、大型地震で関連工場が一斉に操業停止となりました。
サプライヤーとしてB社に部品を納入していましたが、納期1週間前になって連絡が入り「地震被害で復旧に見通しが立たない」と報告。
B社担当バイヤーは社内説明や調整に奔走しましたが、「他のサプライヤーは一部復旧できている。なぜA社だけ遅いのか」と経営層から強い追及を受けました。
A社自身も被災状況や復旧工程を正直に説明していたものの、進捗報告が曖昧だったり、被害写真の提示がないことから「本当にそんなに酷かったのか?」と不審の目を向けられ、関係悪化につながってしまったのです。
ケース2:台風によるライン停止と契約条項の盲点
C社(化学メーカー)は、D社(大手セットメーカー)に原料を供給していました。
台風により受託製造していた工場が停電・浸水、1週間でライン復旧するまで操業停止となりました。
納期遅延は不可避となりましたが、契約書には「不可抗力による納期遅延は免責」とだけ記載されていました。
D社は契約上責任を問えないと分かってはいたものの、顧客向け生産に直接影響が出るためC社へ「どうしても部分出荷できないか」や「別工場の手配は無理か」など無理難題の要望を出しました。
C社も「被災現場が手一杯で後手後手」「他の工場での切り替えも指定規格の違いから難しい」と説明したものの、温度感の違いで繰り返し衝突。
最終的には、両社経営層の会談で「今後のリスク管理体制見直し」を双方合意し、円満解決には至りましたが、現場の担当者は精神的に大きな負担を抱えました。
揉める背景:双方の”本音”と”ジレンマ”
バイヤー側の本音
バイヤーも「災害は誰の責任でもない」と理解しているつもりです。
ですが、自社工場のライン停止や顧客先への供給遅延を防ぐため、被災サプライヤーにギリギリまで対応策・代替案を求めます。
「社内上層部を納得させるための資料が欲しい」
「可能な限り情報をオープンにしてほしい」
「最悪の事態を想定した上での、追加の供給ルート(セカンダリーソース)確保を支援してほしい」
本音では、被災現場の苦労やリソース不足をよく分かっていても、納期遅延が引き起こす損失や顧客トラブルを想像すると、どうしても“強め”の交渉にならざるを得ません。
サプライヤー側の実情
一方でサプライヤー側は、予期せぬ災害による工場機材の損壊、従業員の安全確保、資材入手難、行政対応など、業務どころではないほど深刻な混乱が発生します。
また、現実には実情をすべて包み隠さずオープンにする文化・余裕も十分整っていないケースが多いのです。
「ライン再開の目途が見えてから回答を返したい」
「できる限り誠意を持って説明したいが、詳細な資料や画像までは準備できない」
「顧客の要望が高度・多岐にわたりすぎて、全方位的な対応は手が回らない」
といった、現場としての精一杯の“本音”があります。
解決の糸口:揉めないために今からできること
1.「情報の鮮度」「客観性」「タイムリーさ」の三原則を徹底する
災害発生時の混乱下では、連絡が遅れたり主観的な説明になりがちですが、バイヤーに伝えるべきは
「被害・影響範囲」「復旧の工程表」「具体的な計画」「今あるリスク」
などの”客観情報”です。
写真や図表、第三者のコメントなど、できる限り「証拠」を添えることで信憑性が担保されます。
これにより、バイヤーも社内説明やリスク評価がしやすくなるため、双方の相互信頼の礎となります。
2. 事前のBCP(事業継続計画)を共有する
製造業ではBCP策定が必須となりつつあります。
自社工場の危機対応策だけでなく、各サプライヤー・取引先と「どんな被害時に」「どんな判断・対応をするか」まで明文化し、共有しておくことが非常に効果的です。
「万が一の○○被害時は△日以内に復旧目途を連絡」
「代替ルートへ切り替えるトリガー条件を共有」
こうした合意が普段からあるだけで、災害発生時にも「想定外」の事態が減り、無用な揉め事が起きにくくなります。
3. 契約条項やリスク分担を”生きた内容”にしておく
契約書上の「不可抗力による免責」など定型フレーズに頼るのではなく、
「どの範囲・どの期間で免責が適用となるか」
「部分納品や特例的な納品形態の具体例」
「最終判断のエスカレーション(経営層会談など)の準備」
といった、実際のリスクと現場運営に即した生きた条項を設定します。
また、リスク分担の考え方についても、形式的な押し付け合いではなく
「普段は本業に注力しつつ、有事の際はお互いに最大限歩み寄る」
「普段の価格・納期交渉の中で、予備費や緊急対応枠などを明記しておく」
など、トラブル発生ありきの協業姿勢を持つことが望ましいです。
4. “顔が見える”コミュニケーションを積極的に
昨今はデジタルツールの活用が進んだ一方で、災害時こそ「直接話す」「実際の現場を見に行く」ことの重要性を再認識しています。
特にバイヤーの担当者は、サプライヤーの現場を定期的に訪問し、「いざ」という時に誰とどんな連絡を取ればよいかを普段から確認しておくと、心理的不安も減少します。
逆に、サプライヤー側も「今日は現場の状況を直接ご説明したい」など、イレギュラー時こそ直接会う・WEB会議を駆使するなどして信頼構築を意識すると良いでしょう。
まとめ:今こそ「助け合い」と「見える化」を根付かせる業界へ
災害による工場停止から生じる納期遅延は、決して一方的な責任問題では片付けられません。
予測不能な事態に備え、平時からバイヤーとサプライヤーが情報・リスク・責任を”共有”し合い、いざという時にはお互いに事情を理解した上で「どうしたら最悪の事態を回避できるか」を建設的に考える文化が求められています。
昭和から続く「全てを現場だけに押し付ける」慣習や、「事後報告だけで誠意が伝わらない」といった誤解を乗り越え、互いの立場に立って“見える化”された連携を進めれば、災害という激変の時代においても、揺るがぬパートナーシップが築かれるはずです。
製造業の仲間たちよ、困難な時こそ助け合い、未来志向の協調を積極的に実践していきましょう。
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