- お役立ち記事
- 支給材損傷時の補償責任を明確にしなかった契約による紛争例
支給材損傷時の補償責任を明確にしなかった契約による紛争例

目次
はじめに
製造業界では、バイヤーとサプライヤー間で支給材(顧客から提供される原材料や部品)の受け渡しが日常的に行われています。
この支給材に万一損傷があった場合、誰がどこまで補償責任を持つのか明確に取り決めないまま契約すると、思わぬトラブルや紛争を招くことがあります。
特に昭和スタイルのまま慣習で動いている現場や、中堅・中小サプライヤーでは、暗黙の了解に依存する場面も少なくありません。
ここでは、実際に発生した「支給材損傷時の補償責任が曖昧な契約による紛争例」と、その背景・教訓を現場視点で紹介し、今後同様の問題を未然に防ぐための実践的なヒントを考察していきます。
支給材損傷時の補償責任が発生する背景
支給材の流れと従来の慣習
製造業では、バイヤー(発注側)が必要な原材料や部品をサプライヤー(受注側)に無償で提供し、サプライヤーはこれを加工して納品する、という形がよく見られます。
この「支給材」はコスト管理や品質保証の都合上、バイヤー側が規格や調達先を管理したい場合に採用されやすい方法です。
しかし下請法や契約書に明記されていない限り、「材料の所有権」「リスクの所在」「加工後の評価責任」などが曖昧なまま取引が進むケースも多々あります。
昭和から続く「お互い様」的な慣例が色濃く残る現場では、いざ損傷が発生した段階で「なぜウチが全額負担なのか?」「いやいや、それは君たちの過失だろう」と双方に主張のズレが生じやすいのです。
具体的な紛争発生例
実際にあった事例として、次のような問題が発生しました。
バイヤーが高価な特殊鋼材をサプライヤーに支給し、それを用いて部品の切削加工を依頼。
サプライヤー側は従来どおり受領確認書のみで受け取り、特に損傷時の責任や補償方法は契約書に明示していませんでした。
加工中、サプライヤーの設備トラブル(旋盤のチャック不良)により、支給材の一部が大きく損傷。
部品1個あたりの単価は数千円ですが、原材料としての特殊鋼は1本数十万円と高額でした。
バイヤーは「納品できない分の加工費は払わない」と主張した一方で、原材料代までサプライヤーの全額負担を求めてきました。
サプライヤー側は「設備トラブルは不可抗力であり、原材料費の全額負担は過大」と応戦。
両者の主張が平行線をたどり、最終的には納期遅延・追加コスト・信頼関係の悪化に発展したのです。
なぜこのような紛争が起きやすいのか?
リスク分担意識の希薄さ
昭和的な慣習では、明文化しない事項は「暗黙の了解」で済まそうとする傾向があります。
口頭で「よろしく頼む」と言われ、危機管理のトレーニングをあまり受けていない現場ほど、いつ・誰が・何を責任負うのか明確にしません。
経営層や営業担当は「取引を円滑に進めたい」という思いが強すぎて、契約交渉の場でリスク分担をきちんと詰めきらないのです。
契約書の雛形依存と更新遅れ
少し大きなサプライヤーでは、契約書の雛形を流用することが一般的です。
ところが、現場の実態や直近の情勢にはそぐわない古い雛形を使い続けている場合も多々あります。
「損傷時の補償責任」を具体的に規定していない文言がそのまま使われ、いざトラブル時には「どちらにも取れる」書きぶりが紛争の火種になります。
製造現場目線で考えるべきポイント
受領時点での状態記録と合意
支給材受領時の記録(外観写真、数量チェック、梱包状態メモなど)は、必須です。
「どこからが持ち込み者の責任で、どこからが加工作業者の責任か」を、現場リーダー・管理者レベルで揉んでおくことで、のちの論点のズレを最小化します。
受領書へのサインだけでなく、状態異常時に即座に連絡するルールを決めておくと安心です。
加工中のリスクと事前対策
たとえば「支給材は一度でも加工作業に着手した場合、加工途中の損傷リスクはサプライヤー側が持つ」とする場合もあれば、「バイヤーが特段の加工難度や設備状態を説明していれば、共通リスクとする」と柔軟に分担することも可能です。
加工難度や設備状態、熟練度のばらつきを鑑み、現場事情を契約書策定者に的確にフィードバックすることも大切です。
訴訟・紛争時のコストと教訓
一時の責任回避のために訴訟やADR(裁判外紛争解決手段)に発展する例では、双方とも弁護士費用や証拠提出コストがかさみ、ビジネス自体が赤字になる恐れすらあります。
教訓として「細部は契約でよく揉んで明文化」「現場の肌感覚と経営層・法務が協働」を徹底し、未然の論点潰しが期待利益を最大化するのです。
ISO管理や下請法からの示唆
ISO9001等の品質マネジメントシステム要求事項では、「顧客支給品の管理」が重要な項目として掲げられています。
受領→識別→保管→使用→返却or廃棄 まで一貫して、手順や記録を義務付けることで、人的ミスや曖昧な責任分担を減らせます。
また、下請法(下請代金支払遅延等防止法)においても、親事業者が支給した物品について、下請事業者に過度な責任を負わせることを是正しようとする動きがあります。
サプライヤー側が正当に主張できる体制を作り、書面のやり取りと証拠保全を心がけることが、長期的な信頼醸成につながります。
どのように補償責任を明確にするべきか
契約書のベストプラクティス
– 支給材受領時の検査義務(数量・目視・外観など)を明示
– 加工前・加工中・加工後に分けて、各フェーズのリスクを定義
– 天災や不可抗力、設備不良など不可避リスクの負担分担
– 損傷時の補償上限(損傷の程度による免責や上限額設定)の具体例
– 損傷が発生した際の連絡・処置方法、合意解決フロー
これらを契約書の個別条項として、明快かつ現場でも読める文章で書くことが極めて重要です。
現場リーダー・管理職が果たすべき役割
現場の管理職やリーダーが、製造工程・材料受領の現実的リスクを把握し、経営層・法務と情報共有しておくことが、最も実効性の高いリスク管理になります。
自動化が進む昨今でも、現場の目線からは想定外アクシデントが起き続けます。
事例集やヒヤリハット情報を現場で共有し、契約反映まで落とし込むことが「守り」だけでなく「攻めのリスクマネジメント」に変わります。
まとめ:昭和からの脱却と新たな地平へ
支給材損傷時の補償責任を曖昧なままにした契約は、古き良き「勘と度胸」経営の副産物です。
現代のサプライチェーンはグローバル化・多様化し、DX推進や法令順守の重要性も高まっています。
「契約は手間」「書類は堅苦しい」という昭和的感覚から脱却し、現場・経営・法務が一枚岩になって紛争リスクを最小化することが、取引コストの最適化・信頼強化へのカギとなります。
サプライヤーや現場リーダーの皆さまは、日々の業務改善の一環として「今ある契約書や慣習が現場実態に合っているか?」を定期的に見直し、問題意識を持ち寄ることから始めてみましょう。
すべての製造現場に、より安全でフェアな契約文化が根付き、強い産業競争力を育めることを願っています。
資料ダウンロード
QCD管理受発注クラウド「newji」は、受発注部門で必要なQCD管理全てを備えた、現場特化型兼クラウド型の今世紀最高の受発注管理システムとなります。
NEWJI DX
製造業に特化したデジタルトランスフォーメーション(DX)の実現を目指す請負開発型のコンサルティングサービスです。AI、iPaaS、および先端の技術を駆使して、製造プロセスの効率化、業務効率化、チームワーク強化、コスト削減、品質向上を実現します。このサービスは、製造業の課題を深く理解し、それに対する最適なデジタルソリューションを提供することで、企業が持続的な成長とイノベーションを達成できるようサポートします。
製造業ニュース解説
製造業、主に購買・調達部門にお勤めの方々に向けた情報を配信しております。
新任の方やベテランの方、管理職を対象とした幅広いコンテンツをご用意しております。
お問い合わせ
コストダウンが利益に直結する術だと理解していても、なかなか前に進めることができない状況。そんな時は、newjiのコストダウン自動化機能で大きく利益貢献しよう!
(β版非公開)