投稿日:2025年12月2日

現場が“人に合わせた設備”になってしまう歪んだ改善構造

はじめに:なぜ現場は「人に合わせた設備」に寄ってしまうのか

製造業の現場では、設備やシステムが本来の「効率化」や「標準化」を実現できず、逆に“人に合わせた設備”として調整・改善されていくという歪んだ構造に陥るケースが少なくありません。

この流れは、熟練工の高齢化、新人不足、IT・自動化技術の浸透の遅さなど提供側・利用側の両面で課題が複雑化している日本の製造業において、特に色濃く見られる現象です。

本記事では、古くから根付くアナログ文化の正体とその問題点を現場目線で掘り下げ、今後どのようなマインドセット転換・現場改善が求められるのか、深く考察していきます。

昭和的現場主義と設備改善の本質的ねじれ

本来の「改善」が意味するものとは

改善(カイゼン)という言葉は世界でも通用する“日本発イノベーション”のひとつです。
しかし現場に根付く改善は、しばしば「現場で困っている人を助ける工作」「今いる人のやりやすさ優先」となり、本質的な“業務全体の最適化”や“標準化、属人性の排除”に向かいきれない風潮が根強く残っています。

つまり“個人最適”と“現場全体の最適”がねじれる構造が生じやすいのです。

現場でよく起こる「人に合わせた設備」とは

・ベテランAさんの操作手順が独特なので、手元ボタンや表示をAさん用に追加
・新人Bさんがエラーを連発するので、警告ランプを大げさにつける
・夜勤リーダーCさんが省略しがちな点検項目があるため、その内容だけ別紙で掲示
・現場のローテーションに対応して、多様な手書き指示書や工程表を量産
このような「人の都合や習慣に合わせた“個別最適”のつぎはぎ」が繰り返されると、設備は複雑で非効率になり、逆に人による差やミスが生まれやすくなります。

なぜ「設備本位」ではなく「人本位」へゆがむのか

表面的“働きやすさ”と深層的な慣性

日本の製造現場では、特にベテラン中心の環境において、現場リーダーやオペレーターの要望が重視されがちです。
なぜなら過去の成功体験から「現場の知恵こそ最適解」「現場が回ることが最優先」という意識が強いからです。

そして、多くの場合“人に合わせる”ことで部分的な「働きやすさ」は生まれますが、全体最適(効率・品質・再現性の向上、属人化の排除など)は置き去りにされるのです。

これは熱心な現場主義の美徳と、その裏にある変化を恐れる「慣性」が複雑に絡み合って発生するものです。

IT・自動化時代での致命的なデメリット

最新設備・IT化・自動化などを導入しても、“人に合わせる改善”がまかり通っている現場では以下のような弊害が生じます。

・せっかくのシステムが使われず、現場の“自前仕掛け”で運用される
・標準手順が守られず、結局「できる人がやる」状態から抜け出せない
・デジタルデータの蓄積や分析が進まず、属人的な感覚に頼り続ける
特に現代は人手不足・デジタル推進か加速する社会情勢下にあり、“人に合わせた個別最適化”のままでは現場改善は頭打ちとなります。

現場と管理層とサプライヤー、三者が抱える葛藤

現場オペレーター・管理職のジレンマ

現場のオペレーターは「今困っている問題の即時解消」に重きを置きます。
それがたとえ抜け道や“場当たり的対応”であっても、日々目の前の製造を止めないことが最優先だからです。

一方、管理者層は「再発防止の仕組みづくり」や「全体最適な運用」に視野を広げたい。
しかし現場の協力なしでは何も前に進まないため、つい現場主導を許容してしまうジレンマを抱えやすいです。

精度の高い設備を提案したいサプライヤーの苦悩

最新鋭の設備や自動化システムを提供するサプライヤー側からすると、本音は
「標準機能で十分効率UPできます」
「仕様のカスタムや運用アウトローは極力しないでほしい」
という思いがあります。

しかし、発注側(バイヤー)が現場の細かな要望を強く反映した仕様変更を求めたり、
「こっちの現場でしか使わない特殊部品・特殊操作を追加してほしい」
というリクエストを出しやすい。

こうした“現場迎合型カスタマイズ”が繰り返し積もると、設備自体が複雑になり保守コストも上がり、結果的にお互いが不利益を被るという悪循環につながるのです。

バイヤー・サプライヤー双方が本音で向き合う新たな「改善」

標準化を基軸にした現場改善マインドセット

現場改善の「新しい地平線」に進むには、現場・バイヤー・サプライヤー全体で
「現場のやりやすさ」と「全体の効率化・標準化」は相反しうることをまず理解し、「全体最適」を主眼に置くマインドセットシフトが必要です。

たとえば
・設備仕様や運用フローにイレギュラーを持ち込むのは最小限に抑える
・現場の知恵や要望は“標準へ昇華”する形で設備にフィードバック
・「属人化」「ごまかし」「裏技運用」は現場美学ではなく“リスク”と再定義
・導入側(バイヤー)とサプライヤーが対等なパートナーとして課題抽出・仕様策定
このような姿勢で改善に取り組むことが、結果的に現場もサプライヤーも幸せになる持続可能な構造への第一歩となります。

「両者の歩み寄り」「現場の自己否定」から始める具体的アクション

・現場のベテランやキーパーソンが「自分の楽なやり方」より「誰もができるやり方」を作る意識転換
・バイヤーは「現場に丸投げ」「前例踏襲」ではなく、サプライヤーや他現場との対話を重視
・サプライヤーはユーザーの“真の困りごと”を分析し、現場要望の背景・本質を抽出したうえで標準仕様へ取り込む知見を持つ
・お互いの立場や課題を疑似体験する「相互職場体験」や「現場/設計/保守の合同改善会議」の導入
どれも一朝一夕には変わりませんが、“考え方”や“人の行動様式”が変わることこそが、長期的な工場改革の成功に直結すると考えます。

昭和的改善文化からの「脱皮」に向けて:未来の工場の在り方

個人依存から組織基盤へ。これから求められる現場像

今後さらに持続的な成長が求められる日本の製造業では、“人に合わせた設備”から脱却し
「誰がやっても安定品質・高効率」
「現場の知見は個人技ではなく標準プロセスへ」
「業務改善アイデアは現場発であっても、全体標準へと昇華させる」
といった意識変革と実践が不可欠です。

この転換は
・現場で働く方自身
・現場の設備を買うバイヤー
・そしてサプライヤー
が共通して自分の立場だけでなく
「隣の立場にもなってみる(ラテラルシンキングの実践)」ことから生まれます。

令和時代の「強い現場」は何を備えるべきか

・現場目線の「改善力」だけでなく、データ・標準・自動化を活かす“柔軟性”
・旧来の「勘と経験」に加え、デジタル・システムの素養を持つ人材育成
・設備・システムの導入評価を、目先の好みや慣れより「長期的な全体最適・組織ナレッジ増強」で判断できる判断軸
・サプライヤー、バイヤー、現場が言いたいことを「本音と論理」でぶつけ合える企業風土
こうした新しい基盤をつくることが、今こそ求められています。

まとめ:歪んだ改善を超え、製造業の未来に貢献しよう

製造業の現場でありがちな「人に合わせた設備」という歪んだ改善構造は、一見すると現場の“働きやすさ”“生産性向上”に役立つようですが、実は根本的な属人化・非効率・ムダ増大・イノベーション停滞など多くのリスクを内包しています。

昭和から続く現場主義の良さを活かしつつも、令和の課題…働き方改革・人手不足・グローバル競争・DX化…に柔軟に対応できる“全体最適化”のマインドセットと取り組みが今まさに欠かせません。

現場で経験を積んできたからこそ
「これまでのやり方」への固執をやめ、
「今こそ変わる意志」を持つことが、すべての製造業に携わる人、そしてその取引を支えるバイヤーやサプライヤーにとっての最大の成長エンジンになると信じています。

一人ひとりが“自分の仕事の枠”を超えて考える。
これが、製造業の未来を切り拓く最も力強い改善の一歩です。

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