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切断順序を誤ると歪みが残る理由

目次
はじめに:切断順序の重要性と現場の課題
製造業の現場では「鉄は切る順番を間違えると歪むぞ」といった先輩社員の声をよく耳にします。
これは単なる経験則ではなく、材料工学や応力分散といった理論にも裏付けられています。
しかし、実際の職場では未だ「なぜ歪むのか」「どうしたら防げるのか」まで深く理解されていないことが多く、切断順序のミスによるトラブルがあとを絶ちません。
この記事では、製造業の現場経験から培った知識と最新の業界動向を踏まえ、切断順序を誤ることでなぜ歪みが発生してしまうのか、その背景と対策について深掘りしていきます。
これからバイヤーを目指す方や、サプライヤーの立場でバイヤー視点を学びたい方にも必見の内容になっています。
切断作業と材料歪みの基本メカニズム
材料に残る「残留応力」とは
板金や部材は、製造過程ですでに様々な力を受けて、目に見えない「残留応力」を内部に持っています。
たとえば、熱間圧延や冷間加工、曲げ加工などで材料を「成形」するとき、材料内には引っ張りや圧縮、せん断といった力が不均等に加わり、それが抜けきらず材料内部に蓄積されます。
この「残留応力」は、外見はまっすぐな板や部品でも、実はその内部が静かなる対立状態にあることを意味します。
切断による応力の解放
切断作業を行うと、今までバランスしていた材料内部の力関係が一気に崩れます。
特に板金や長尺材などは、切断面を生じることで応力の逃げ道ができ、それまで押さえ込まれていた力が外へ向けて解放されるのです。
これが、「まっすぐだった部材を切ったら曲がった」「寸法通りに切断したはずなのに精度が合わなくなった」といった現象の正体です。
切断順序を工夫せずに進めると、残留応力の連鎖的な解放によって、大きな歪みやねじれが生じ、製品不良や追加工の原因となります。
切断順序の違いで生じるトラブル事例
定番ミス1:外周から一気に切断する
レーザーやプラズマ切断で厚板の部品を一発で外周切断してしまうと、残留応力がバランスを失い、中央部が反り返ってしまうことがしばしば発生します。
この場合、切断部分の膨張収縮や熱変化も相まって、「せっかく精密に切ったのに、治具にはまらない」「溶接工程で合わせ面がずれてしまう」など後工程に多大な支障をきたします。
定番ミス2:パンチングで連続穴あけ後に切断
パンチングやドリル孔加工のあとで最終寸法へ切断すると、穴間に残る応力が切断後にバランスを崩しやすく、部品が波打つなどの変形が発生しやすくなります。
実際、現場で「穴あけの直後に切ってから他加工」「切断してから穴あけ」という順序を変えるだけで、精度や歩留まりに大きな差が出ることを、筆者も何度も体験しています。
昭和的なアナログ現場の視点:経験に頼る危うさ
「昔からこうやってる」現場の落とし穴
多くの工場では、ベテラン作業者の勘や経験則が重宝されています。
確かに、経験豊富な先輩の手順は一見無駄が無く、歩留まりも高いように見えます。
しかし、裏を返せば「なぜこの順番で切るのか」を理論的に説明できる人材が少ないとも言えます。
不具合やトラブルの根本原因が「なぜなのか」まで落とし込まれていないため、新しい人材への伝承や標準化が難しく、属人化による品質のばらつき・再発トラブルも多発します。
AIや自動化が進んでも消しきれない「順序」問題
近年、切断シミュレーションソフトやAIを駆使した自動切断設備も普及してきました。
しかし、現場では「ソフトの指示通りにカットしたら、やっぱり歪みが出た」という声も根強く聞こえます。
これは現場特有の素材ロットばらつきや、製品一つ一つの残留応力の違いまではアルゴリズムだけでは吸収しきれないためです。
人間の経験に加え、体系的な理論と現場のフィードバックを融合し、日々手順や考察をアップデートしていく文化づくりが昭和的アナログ現場からの「変革」に必要不可欠です。
切断順序を最適化するためのポイント
手順1:部材や部品ごとの応力分布を把握する
部品形状、材料種別、加工履歴ごとに残留応力がどう分布しやすいかを傾向として押さえておくことが最初の一歩です。
新しい図面や顧客からの要求があれば、
・各部位の応力の流れ
・高応力集中部(厚み変化部、穴群付近など)
・作業履歴による応力特徴
を事前に確認し、最適な切断箇所や順番を考えましょう。
手順2:切断前と切断後の変形予測をルール化する
現場内で発生した過去の歪み事例を分析し、「同じ形状・同じ加工順序ならこのタイプの歪みが出やすい」といったノウハウをデータベース化します。
切断作業前に、変形シミュレーション(経験に基づく簡易モデルでも十分)を行う体制化ができれば、後工程の不良低減や、修正作業の削減にも直結します。
手順3:余白と分割、切り残しを活用する
特にレーザー切断やガス切断では、材料をいきなり完全切断するのではなく、一部を「タブ」状に残しておき、応力が解放されにくいよう工夫する手法も有効です。
粗切り→仮止め→仕上げ切断と段階的に進めることで、応力の変化を状況を見ながらコントロールできます。
材料径が大きい場合は分割切断してから再圧接する「2段切断」や、歪みを見越した逆方向からの補助切断も現場目線で効果的です。
バイヤー目線で見る「切断順序と品質コスト」
バイヤーが部品調達を行う際、最終製品の品質不良や手戻りリスクを低減する視点が重要です。
切断順序や現場の歪み取りノウハウが乏しいサプライヤーでは、製品精度が安定せず「歩留り低下=コスト増」「納期遅延」という形でバイヤー側にも大きく影響します。
発注先を評価する際は、
・歪み対策や順序管理のマニュアル有無
・加工時の一時測定や変形フィードバック体制
・応力解析やシミュレーション導入
など、プロセス面での実力を見極める視点が不可欠です。
また、「どういった理由でこの順序・工法なのか」を質問し、明確に答えられる現場なら、バイヤー側も高い信頼を持って調達先に選ぶことができるでしょう。
サプライヤーが今すぐできる切断順序管理の施策
サプライヤー側では、切断順序に関するチェックリストや、現場作業者への手順教育、その成果の見える化(QC工程表や変形事例共有など)が重要となります。
また、最新の切断機や分析ツールを導入するだけでなく、「現場からの声」を収集し続けるボトムアップ型の改善文化を作れば、メーカーやバイヤーからの信頼も高まります。
自工場内だけでなく、同業他社との加工事例交流や、加工機メーカーとの勉強会に参加することで、業界全体の知見も広がります。
まとめ:切断順序管理は製造現場の要
切断順序による歪みは、「これぐらいなら大丈夫」「いつもこうしてるから平気だ」といった思い込みが、思わぬ品質事故やコスト増につながります。
だからこそ、アナログな現場であっても「なぜ歪みが出るのか」「最適な順序はどう選ぶべきか」を理論的に学び、経験に基づいたPDCAを続けていくことが極めて重要です。
バイヤーやサプライヤー、あらゆる立場の製造業関係者が切断順序の本質を正しく理解し、全員が「品質で選ばれる日本の製造業」を目指しましょう。
現場の知恵と理論を融合させ、昭和~令和をつなぐ新たな製造現場の開拓者となっていきたいものです。
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