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老舗工場の暗黙知を図面化して属人コストを排除するドキュメント化

目次
はじめに:製造業の現場に根付く「暗黙知」とその課題
日本の老舗工場には、長い歴史の中で蓄積された職人の「勘」や「コツ」、つまり暗黙知が脈々と受け継がれています。
この暗黙知は、品質安定や納期短縮を実現するための重要な競争力ですが、同時に「属人化」という大きなリスクも孕んでいます。
特定のベテラン作業者しかできない調整や、不明瞭な手順に依存したオペレーションは、技術継承の障壁となり、多くの工場が現場力の維持・向上に頭を悩ませています。
この記事では、「暗黙知」の現場ドキュメント化がなぜ必要なのか、どのようにすれば本当の意味で効果的な可視化ができるのかを、実践的なアプローチで解説します。
また、調達購買、生産・品質管理、オートメーション推進の観点からも広く捉え直し、サプライヤーの視点やバイヤーに求められる要素も交えて考察します。
暗黙知がもたらす属人化コストの正体
属人コストの現実:人が辞める・休む・ベテラン頼みの現場
よくある問題として、ベテラン担当者が突然退職した、急な休みを取った、あるいは長期療養に入ったというケースです。
こうした時、現場では「〇〇さんでないと分からない」「前に同じことがあったが、記録が見当たらない」といった混乱に陥ることが珍しくありません。
一度現場が滞れば、納期遅延やクレーム増加、追加コスト発生といった負の連鎖が発生します。
これが「属人コスト」と呼ばれるものです。
バイヤー視点のリスク:見えない品質・変わらないリードタイム
バイヤーやサプライヤーの立場に立った時、この属人化は大きなリスク要因です。
例えば、発注先の工程品質が可視化されていなければ、品質の再現性が分からず、特急オーダーや設変(設計変更)への柔軟な対応も期待できません。
購買側は、「この工場、大丈夫か?」という懸念を払拭できず、パートナーシップ構築にもブレーキがかかるのです。
暗黙知を「図面化」または「ドキュメント化」する意義
なぜ今、図面や手順書の整備が再注目されているのか
AIやIoT、RPAなどの先端技術が導入されても、現場レベルで「自工程完結」できるオペレーション整備がなされていなければ、結局は従来通りのベテラン頼みになりがちです。
昭和から続くアナログな手順・ノウハウを、図面・ドキュメントという「標準」に落とし込むことが、本当の意味でのデジタル化・自動化への第一歩です。
特に、2024年問題をはじめとする労働力不足や熟練者減少がますます現実味を帯びている今、図面管理や手順書整備の重要性が再認識されています。
現場「あるある」から見た図面化・ドキュメント化のメリット
– イレギュラー対応でも、記録を見ればすぐに作業内容が再現できる
– 新人や異動者でも、標準手順書をもとに同品質で製造できる
– マシン自動化・ロボット導入時、現場手順をそのまま仕様書に落とし込める
– 客先監査(品質・工程管理)への対応力向上
このように、短期的な「属人コスト削減」だけでなく、長期的な競争力維持・強化につながる投資といえます。
図面化・ドキュメント化の具体的ステップ
1. 現場ヒアリング:なぜ「現象」ではなく「背景」を聞き取るべきか
暗黙知の可視化で一番大事なのは、「表面的な手順」だけを書き起こさないことです。
たとえば「このネジは二回転半で止める」といった手順が、なぜ二回転半なのかを突き詰めて、そこに至るまでの経緯やトラブル事例も掘り起こします。
多くの場合、現場担当者は「理由は分からないが、昔からこうしている」と答えます。
この背景にあるのは、過去に発生した「不良・ヒヤリハット」や「品質検査での指摘」など、暗黙ながら重要な判断材料です。
ラテラルシンキング的アプローチでは、「なぜそれにしたのか」「失敗例はなかったか」「他の人はどう工夫しているか」まで深掘りし、現象の裏側にある本質まで明らかにします。
2. フローチャート・作業標準書・図面への落とし込み
ヒアリングした内容を、作業フロー図や作業標準書、もしくは工程図などに落とし込みます。
ポイントは「図と写真、説明文を混ぜて直感的に理解できるようにする」ことです。
また、曖昧な表現(例:「きつめに締める」「適度に流す」)を、具体的な数値・条件に変換する意識が重要です。
この際、作成側と現場担当者が一緒にレビューし、実際の現場感覚に合った表現・書式に調整することで、使われる標準を作っていきます。
3. データベース化・共有化、定期的な更新サイクルの構築
作成したドキュメントは、ファイルサーバーだけでなく、現場ですぐ検索・閲覧できるようにクラウド共有やタブレット端末などを導入するのも効果的です。
また、運用しながら現場の声を随時反映し、PDCAサイクルを回す仕組みづくりが長期的には不可欠です。
更新記録を残せば、手順内容や工程条件の見直し履歴も一目で把握できます。
ドキュメント化の際の現場の抵抗とその解決策
「ベテランの誇り」 VS 「変化への不安」
暗黙知の見える化には、しばしば現場から「自分のノウハウが盗まれる」「失敗を暴かれる気がして不安」といった声が出ます。
これは、現場経験が長いほど「自分らしさ」「伝統」に強い愛着を持ち、「マニュアル化=個人技の否定」という誤解をしがちなためです。
現場巻き込み型で進めるには、「あなたの経験が会社の財産になる」「次世代へ技術継承する意味」を丁寧に伝え、インセンティブを設計することが大切です。
また、完成した標準書に本人の名前やエピソードを入れることで「自分ごと」にする、小さな成功例をみんなで祝うなど共創の雰囲気づくりが進みます。
「やらされ感」から「自分たちの施策」へと意識転換させるポイント
単なる上意下達・一方通行の指示では、結局現場には根付きません。
現場リーダーや班長と一緒に「困ったこと、直したいこと」を洗い出し、現状のやり方の中で取り残されている本音や課題を拾い上げることが鍵です。
改善が実現した時は、「工数短縮」「不良再発防止」のエピソードを見える形で記録し、現場全体での共有・意識づけを進めると、属人的体質から組織力への進化が進みます。
ドキュメント化がもたらす未来像〜サプライチェーン全体へのインパクト
工場内だけでなく、仕入先や顧客にも波及する透明性
図面や標準書の整備を徹底することで、社外パートナー(サプライヤー)との技術打合わせや、バイヤーによる監査対応のスムーズさが大きく向上します。
たとえばサプライヤー側が「なぜこの工程をこうしているのか」を理解できれば、品質トラブル原因の特定や、設変対応時のリスク評価も格段に早くなります。
結果的に、リードタイム短縮や品質安定性アップが期待でき、取引先から「信頼される工場」へと進化していくのです。
業界全体の課題から見える未来〜昭和体質からの脱却
多くの老舗工場はいまだに「伝統的やり方」の価値観が強く残っています。
しかしこれからは、データやドキュメントに基づく現場運営へのシフトが必要不可欠です。
ドキュメント化技術を用いて、「誰でも、いつでも、高品質なモノづくりができる現場」に進化することこそ、今後の日本製造業の生き残り戦略の中核となるでしょう。
まとめ:暗黙知の見える化・図面化の本質
製造現場にある「暗黙知」は、長年積み重ねられた現場の知恵そのものであり、企業競争力の源泉です。
これを図面・標準書として見える化・共有化し、さらなるPDCAとイノベーションにつなげることで、「人材不足」や「技術継承の断絶」といった将来リスクを乗り越えることができます。
属人コストを排除し、だれもが「この工場なら安心だ」と思える透明で洗練された現場を目指して、一歩ずつドキュメント化に取り組んでいくことが、古き良き伝統を守りつつ、現代に適応するものづくりの新しいカタチです。
現場にいる皆さま、ものづくりを支えるバイヤーの皆さま、そして今後製造業を志す未来の技術者の皆さまへ。
「暗黙知」を「資産知」へ。
昭和から令和へ、現場ドキュメント化の一歩を共に踏み出しましょう。
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