投稿日:2025年7月15日

DRの課題と未然防止による対処法支援ツール活用によるDRBFMの組織展開グループワーク実践演習

はじめに:今、なぜDRBFMが注目されているのか

製造業が直面している課題の一つに、顧客要求の多様化と品質保証体制の複雑化があります。
特に、自動車、家電、産業機械などの分野では、一度不具合が発生すると、大規模なリコールやブランドイメージ低下など多大な損失に繋がるため、開発初期からの「未然防止」が極めて重要です。
こうした背景から、設計変更時の品質リスク管理手法「DRBFM(Design Review Based on Failure Mode)」が、改めて注目を集めています。

ここでは、DRBFMが現場でどのような課題に直面し、どのように支援ツールやグループワークを活用して組織全体へ展開できるのか、最新の実践例を交えながら解説します。

DRBFMとは:基本と導入の壁

DRBFMの概要

DRBFMは、設計変更に伴う潜在的な故障モードを徹底的に洗い出し、未然にリスクを防ぐための手法です。
Design Review(設計審査)とFMEA(故障モード影響解析)を掛け合わせたアプローチであり、現場の知見・経験を活かしながら、改訂・変更箇所に絞った徹底議論を行う点に最大の特長があります。

現場導入の課題

しかし日本の製造現場では、昭和的なアナログ文化や根深い縦割り組織、属人的なナレッジ共有の不足など、多くの壁が立ちはだかります。

– 形式的なレビューで議論が深まらない
– 担当者の経験差による抜け・モレ
– 工数増大に対する抵抗感
– フロントローディング(初期段階での十分な検討)意識の不足
– 過去トラブル知見の組織全体での横展開の難しさ

これらは、私が長年現場で泥臭く対峙してきたリアルな課題でもあります。

未然防止の極意:DRBFMを「使い物」にする勘所

ツール活用の本質

DRBFMは単なる「テンプレート」や「チェックリスト」として運用しても、期待する成果は得られません。
重要なのは、以下の3点です。

1. 各工程やメンバーの”気付き”を最大化するダイナミックなディスカッション
2. 過去の失敗知見・現場のヒヤリハットを可視化しナレッジとして蓄積
3. それらを次につなげる仕組みづくり(組織的PDCA)

これを実現するには、よくあるExcel形式の単なる「記入シート」ではなく、最新の支援ツール(共同編集型のクラウドツールや可視化ダッシュボード)を活用し、俯瞰的な議論・その場でのモデリング・履歴追跡までを一気通貫で行える仕組みが効果的です。

グループワークの現場力:対話の「質」を高める

DRBFMを設計者の独りよがりな作業で終わらせず、機械・電気・ソフト・生産・品質・購買部門といった多部門横断のグループワークとして実施することで、飛躍的に抜けモレを防げます。

現場経験者だけが捉えている暗黙知—「そこの部品は昔、一度だけこういう不具合が…」「このサプライヤーはこういう納入癖が…」など—を顕在化させ、新たな設計・工程・部品調達に反映させることが真の未然防止に繋がります。

支援ツールによるDRBFM組織展開のステップ

1. ツール選定と導入準備

・操作がシンプルで現場が直感的に使えること
・多人数同時編集や議論履歴の自動保存ができること
・過去事例やヒヤリハットを簡単に検索・参照できること

メーカー専用のDRBFM支援クラウドサービスや、Googleスプレッドシート+バックログ管理ツールなど、現場の文化・規模に合ったものを選びましょう。
ITアレルギーの現場にも徐々に慣れさせる「ハンズオン教育」も重要です。

2. 現場グループワークの設計

・拠点や部門を越えたメンバー編成を意識(例:設計+生産+品質+購買+サプライヤー)
・ツール画面を使い、リスク発見→議論→判断・対策までをワークショップ形式で一貫実施
・定型レビュー+「これだけは絶対に議論しておきたい」という現場固有テーマをセット

この仕立てにより、現場ならではの”リアルな対話”から、本質的な未然防止アイデアが引き出されます。

3. 組織展開と効果検証

・各チームで生まれたナレッジや成功体験を体系化し、テンプレートやヒヤリハット集として全社共有
・新たな設計変更やサプライヤー選定の際には、「前回実施DRBFM」のナレッジを必ず参照・再利用
・四半期ごとに実施プロジェクトのアウトカム(金額換算の損失未然防止額・QCD向上指標等)を可視化

鮮度・説得力ある成果の「見える化」が、現場への定着と継続的なモチベーション向上に繋がります。

昭和アナログ現場のDRBFM展開におけるよくある疑問と対策

1. 「工数が増えて忙しいだけ」への打開策

DRBFMは最初の導入期こそ工数・負担増に見えますが、出戻り設計・手戻り対応の工数や、リコール・クレーム対応に要する工数を「見える化」して比較することをおすすめします。
未然防止による大幅な損失回避効果を可視化することで、「現場でやりきる意義」を自発的に実感できるようになります。

2. 属人化&情報の未共有化の解消法

支援ツールで場所や時間を問わずナレッジを共有・検索できる仕組みを取り入れることで、「俺の頭の中」から「みんなの資産」へと情報を変換できます。
管理職自らが模範となり、「まずは小さなプロジェクトから始める」姿勢を見せることで、徐々に現場に浸透していきます。

3. サプライヤーとの連携強化

重要部品や外注工程には極力サプライヤーも議論に巻き込み、リスク洗い出しや改善案の検討を共創することが鍵です。
バイヤーの視点からも、サプライヤーと「品質リスクを共有できるパートナー関係」を築くことが重要な時代になっています。

実践演習例:現場グループワークDRBFMの流れ

1. 対象案件と変更点の特定

例:既存モデルの電子基板回路変更

– 設計者、製造技術者、品質、調達、関係サプライヤーでチームを編成
– DRBFMツール上に「変更点リスト」「過去事故事例」「懸念事項」を一括可視化

2. 故障モードの洗い出しワーク

– 変更点ごとに「何が壊れる/動かない/不具合になる可能性があるか」を個々人で速記
– そのうえで、全体ディスカッションで経験知をぶつけ合い、リスク優先度を合議
– ツールでそのまま気付きや議論履歴を記録

3. 対策検討とアクション決定

– 優先度の高いリスクについて「設計変更」「工程変更」「サプライヤー変更」の各観点で具体策を検討
– タスク管理ツールと連動し、担当・期限・チェックポイントを自動割当

4. 振り返りとナレッジ共有

– 実施後、良かった点・課題点をメンバー間でフィードバック
– 得られたノウハウを「事例集」としてデータベース化し、次案件で即利用

この一連の流れが、次世代型DRBFMの標準プロセスになりつつあります。

まとめ:製造業を次世代にバトンタッチするために

DRBFMは単なる「品質部門の作業」でも「設計者のルーティン」でもありません。
現場一人ひとりの知見と主体性、多様な視点が絡み合い、「組織知」として蓄積された時、初めて真価を発揮します。

昭和アナログ現場でも、サプライヤーやバイヤーの間でも、現場力とIT・組織開発の橋渡しとしてDRBFMを革新的に展開する時代が来ています。
今こそ失敗を未然に防ぐ文化を根付かせ、製造業を一歩先へ進めていきましょう。

新人バイヤーの方も、経験豊富な現場リーダーの方も、ぜひDRBFM支援ツールとグループワークの「現場目線イノベーション」を体感してください。
それが、ものづくり現場の未来を切り開く第一歩となります。

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