投稿日:2025年10月8日

糸のトルクねじれを防ぐ延伸張力モニタリングと補正機構

はじめに:糸のトルクねじれと製造現場の課題

糸や繊維の生産現場において、トルクねじれ(Twist)や延伸時の張力変動は、製品品質や生産効率を大きく左右する重要な要素です。

とりわけ日本の製造業、とくに繊維・糸の分野では、昭和期からの伝統的なノウハウや現場の勘に頼る部分が多く、デジタル・自動化への移行が遅れている工場も少なくありません。

本稿では、20年以上現場で培った経験をもとに、糸のトルクねじれ発生のメカニズム、延伸張力のリアルタイムモニタリング、さらに補正機構の実践的な導入方法と、そのメリットについて詳しく解説します。

また、アナログ型の工場に根付く現状と、革新に立ち向かう現場目線も交えて、明日から使えるヒントと将来的な業界動向にも言及します。

糸のトルクねじれとは何か?現場での現象例

トルクねじれとは、糸や繊維が延伸や巻き取りなどの工程で、糸軸方向にねじれてしまう現象を指します。

この現象は、特にポリエステルやナイロンなどの合成繊維および化学繊維の生産ラインで問題となりやすく、染色や織布といった後工程での不具合、完成品の物性低下や外観不良の主因となります。

たとえば、

– コーン積み後に糸がバタバタして後工程で絡みや切断が多発
– 糸の太さ(デニール)が安定せず、織布後の風合いや強度低下
– 編物工程での落ち糸(抜糸)、飛び目の発生

など、熟練オペレーターの「勘」に頼ってきたトラブルは、ほぼ糸のねじれ(トルク発生)や張力不均一に起因することが多いのです。

昭和的な現場では、糸の張り具合の調整も「ちょっとゆるめてみるか」「今日は湿度が高いから締めろ」といった、数値化されないオペレーションに終始していました。

現代の安定品質を目指すなら、トルク・張力の見える化、可視化と定量的制御が不可欠です。

トルクねじれ発生の要因とメカニズム

原糸そのものの不均一性

糸原料は、紡績や重合、押出し、延伸工程を経て生産されるため、工程ごとに糸の内部応力や分子配向が微妙に異なります。

原糸の均一性が低い場合、糸自身が持つ自己ねじれモーメントが強まり、外力や張力の変動時にトルクねじれを顕在化させます。

延伸・巻き取り時の張力変動

糸の延伸装置(ゴダールやベンチュリーなど)やワインダー(巻き取り)装置の回転変動・自動制御の不安定さが、張力の波打ちやゆらぎを生み出し、これが局所的なねじれ発生、ひいては糸切れや絡みに直結します。

ライン配置・ガイドローラーの不良

糸ラインの経路にあるガイドローラーやテンションロッドの滑り、摩耗や偏心も、糸が進行途中でねじれ応力を持つ原因です。

昭和型ラインでは「人が糸触ってねじれを直す」光景が当たり前に存在し、これが生産速度と歩留まりを極端に引き下げてきました。

延伸張力のモニタリング技術最前線

トルクねじれ防止の第一歩は、延伸ラインでの張力値(N:ニュートン単位)を、リアルタイムで数値管理し続けることです。

ロードセルを活用した高精度張力測定

従来、バネ式テンションメータやアナログタイプのゲージを使って張力測定をしていました。

しかし、最新のロードセル(ひずみゲージ式張力計)は、

– 0.01N単位の高精度
– デジタルデータの取り扱い
– リアルタイムの長期トレンド取得

が可能となり、PLCやPCによるデータ集約・工程監視システムとの連携が一般化しています。

多点にロードセルを仕込めば、ライン全体のテンションマップ(どこで張力が落ちているか・上がっているか)を把握できます。

画像解析エッジAIによる非接触モニタリング

近年は、カメラや画像処理AIを用いた糸の挙動解析も進んでいます。

糸の振動やヨレ(ねじれ)の様子をリアルタイムで画像データ化し、AIが自動異常判定。

工場のスマート化先進事例として、熟練工の「見る」「触る」ノウハウのデジタル転写が現実になってきました。

品質保証部門や工程監査でも重要な「工場の可視化証跡」となります。

トルクねじれを抑える補正機構の具体的方法

アクティブ・トルク補正ローラーの導入

ライン中にアクティブ制御ローラー(トルク補正モーター付き)を設置し、糸のねじれ角度をセンサで検知したら、その都度ローラーの回転を調整。

糸の逆方向へのトルク与え、数十ミリ秒単位でねじれを自動で相殺する仕組みです。

– モーター制御による細かなトルク付与が可能
– 異なる糸種や生産速度にも柔軟対応
– 工程異常のアラートやトレーサビリティ向上に直結

実装コストはかかりますが、歩留まり・稼働率の飛躍的改善が見込めます。

静電気除去・糸道設計の最適化

糸の帯電もねじれ発生の原因。

ライン全体へのイオナイザー設置や、糸道中のデッドスポット(摩擦・バタつき)を無くす「糸道ユニット最適配置」が、アナログ現場で即効性ある対策です。

導入による現場の変化とメリット

品質と生産性の両立

トルクねじれ防止の張力モニタリング&補正機構の導入で、以下の点が大幅に改善します。

– 糸切れ・絡みの大幅減少
– 品質トラブル(太さムラ、外観不良)の半減以下
– 製品クレーム率、手直し回数の激減
– オペレーターの「糸張り調整」「見廻り」「人による勘頼み」が必要なくなる

結果的に、現場の働き方改革、熟練者依存からの脱却、リスキリング促進につながります。

お客様・ユーザー評価の向上

安定した糸品質は、そのままブランド価値やサプライヤー選定の決定要因になります。

顧客(バイヤー)がサプライヤーを選ぶ基準は「納期」「価格」「品質安定性」。

このうち、最後の部分は、工場現場の可視化(IoT・張力リアルタイム監視)が大きく寄与します。

現場が変われば、受注が増える。これは想像以上に大きな現実です。

アナログ現場の脱・昭和型への課題と提言

IT・自動化投資への抵抗の現状

昭和型工場現場では今なお、

– 自動化投資は高コストで二の足を踏む
– 目先の生産数量確保を優先
– 現場熟練者の定着ノウハウを重視

こういった傾向が根強く残っています。

ですが、アナログノウハウの属人化は、製造業のサステナビリティ・グローバル競争で確実にハンデとなります。

誰でも分かる、使いこなせるシステムを現場へ

単なる「モダンな高機能マシン」を現場に導入するだけでは意味がありません。

– データがワンタッチで「見える」
– 異常発生時は誰でも即座にアラーム対応
– データ履歴が工程監査に活用できる

といった、現場目線のUI/UX開発・現場教育が不可欠です。

工場長や管理職こそが先頭に立ち「誰でも使える・分かる」道具を厳選し、現場の声を吸い上げましょう。

サプライヤー・バイヤー双方に知ってほしい視点

– サプライヤーは「トルクねじれ・張力管理」の実践を強みとして、納得性ある技術提案を
– バイヤーは「張力・糸ねじれ制御」がどれだけ顧客品質・製品価値に直接響くかを重視
– 双方が「工程見える化・ロス低減」でサステナブルな関係性と生産効率向上を目指す

これこそが、次世代製造業バリューチェーンの核心です。

結論:糸のトルクねじれ制御は、現場力×テクノロジーの融合で

糸、繊維製造におけるトルクねじれの見える化・制御は、熟練ノウハウの源流をたどりつつ、IT・IoTによる張力モニタリング・補正で飛躍的進化を果たします。

アナログ現場の泥臭い課題も、数値化・自動化の一歩で大きなブレイクスルーが起こせます。

現場で働くみなさん、製造メーカーや調達担当、そして未来のバイヤー志望のみなさん。

これからの日本のものづくりは、現場力とテクノロジーの絶妙な融合で、さらなる高みに進化できます。

今日からできる可視化と、目の前の課題解決が、あなたの現場を・会社を・業界全体を強くしていきます。

明日の現場に、確かな手応えを!

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