投稿日:2025年12月15日

図面と現物の不一致が調達クレームを増やす理由

図面と現物の不一致が調達クレームを増やす理由

製造業に携わる皆さま、あるいはバイヤーを目指す方、そしてサプライヤーとしてバイヤー視点に関心を持つ方々へ。
今回は、現場目線で「なぜ図面と現物の不一致が調達クレームを引き起こすのか」という課題を掘り下げていきます。
長い歴史を持つ日本の製造業は、いまだにアナログ的な運用が根強く残っている現場も多く、その現実の中でどのようなトラブルが起きやすいのか、またその背景にはどんな業界動向が潜んでいるのか、実体験を交えながらお伝えします。

図面と現物の「ズレ」はなぜ起きるのか

1. 設計と現場の意識差が背景にある

現場調達や購買経験者なら一度は感じたことがある「部品が図面通りに来ていない」問題。
これは決して一方的なサプライヤーの責任ではなく、設計部門と現場製造部門の間に潜む“意識の溝”が大きく影響しています。

設計者が意図した使い方や形状、寸法が現場と100%リンクできているケースは意外に少なく、「設計図面通り作れば問題ないはず」という思い込みがクレームの火種となります。
また、設計者も現場で使用されるシーンや生産プロセスの厳しさをリアルに把握できていない場合、図面記載の優先順位や省略されがちな説明が後々影響を及ぼします。

2. 図面フォーマットと記載項目の曖昧さ

昭和から続く伝統的製造業ではいまだに紙図面やFAXによる仕様伝達が残っています。
設計図面そのものが旧式のまま更新されず、「ローカルルール」や「阿吽の呼吸」に頼った曖昧な記載が温存されがちです。

こうした状況下、部品サプライヤー側は「図面には明記されていないが、実際は○○が必要」という暗黙知に対応できなければなりません。
ところが、新規サプライヤーや事業承継後間もない工場ではこうした“空気の読み合い”が通じずに、厳格な図面解釈で納品するため、現物とのギャップが拡大します。

3. 最新の3D-CAD化やデジタル化が進まない現場

近年では3D-CADを活用した設計やデジタル化が進行していますが、現場に定着するまでは時間を要します。
全ての部門で3Dデータを扱えるわけではなく、現物との照合も紙図面ベースで行うのが実態です。
データ転送や印刷段階で寸法が狂う、意図しない倍率変更、バージョン違いによる誤った設計が流通するなどの「ひと手間ミス」がクレームの起点になります。

調達・購買部門で頻発するクレームの具体例

1. 寸法誤差による組立不良クレーム

たとえば0.1mmの寸法公差が図面には出ているのに、現物では0.2mmズレている。
これが何十個、何百個と納品され、組立ラインで“合わない”という事態に。

原因は図面の記載ミスや最新バージョンの指定ミス、サプライヤー側の座標系解釈違いなど多岐に渡ります。
現場は工程が止まり、緊急連絡・再手配・在庫調査と大騒ぎに。
一度や二度ならまだしも、体制が古いメーカーでは同じミスが定期的に繰り返されがちです。

2. 指定材料・表面処理の未記載による品質不適合

図面には「SUS」としか書かれておらず、実際には耐食性や強度を重視し特定のグレード(SUS304やSUS316)が必要だった場合、本来の用途を満たせない部品が出来上がってきます。

あるいは「指定塗装有」「表面処理ハガキ仕上げ」など口頭・補足資料で伝えていた内容が図面上では不十分なケース。
納入された現物に不備があると、後工程で一気にクレームが噴出します。

3. 仕様変更やECO対応に関する伝達ミス

マーケットや法令の変化、ECO対応などで設計仕様が変わったにも関わらず、図面データのバージョン管理が徹底されていない場合、旧仕様のままモノが流通します。
現場は「新しい仕様で指示しているのに、なぜか古い部品が混入している」となり、調達部・品質管理部での緊急対応が不可避に。
これが顧客納入後に発覚した場合、莫大なリコールや損害賠償につながる例も珍しくありません。

アナログな業界構造がクレームを生みやすい理由

1. デジタル伝達の壁、情報の分断

日本の製造業は長い間、国内ネットワークの信頼関係や人の目・人の手に頼った運用が基本でした。
技術伝承やノウハウも属人的で、システム的な統合が遅れがちです。
サプライヤーとの図面データ共有もFAXや紙ベースが多く、「図面の受け渡し時にミスがないか」「そもそも正規バージョンか」を厳密に統制できません。
現場担当が「念のため一声かけておく」という裏ワザ的対応が正常化し、それができないとクレームにつながります。

2. サプライチェーンの多重構造と情報の非対称性

一次サプライヤー、二次・三次サプライヤーという多重構造の中で、上流下流間での正確な仕様伝達は難解です。
上流バイヤーは「これぐらい分かるだろう」と暗黙の了解で依頼し、サプライヤーは経験値や過去ノウハウで対応。
ただし現場の世代交代やグローバル化、急速な人材流動によって“伝わっているはず”が通用しなくなっています。

3. コミュニケーションの形骸化とスピード優先文化

日常のQCD(品質・コスト・納期)を守るため、現場は常にスピード感を求められます。
そのため、本来は仕様確認や図面再チェックに時間を割くべき場面でも、「とりあえず作って」「そっちで調整しておいて」という丸投げ依頼が横行しがち。
コミュニケーションの形骸化は、ミス発生時に「言った」「言わない」「口頭で了承した」という水掛け論へと進化し、最後は調達クレームへ発展します。

クレームを減らすために現場が今できること

1. 図面管理とバージョン統制の徹底

まずは設計図面の管理が最重要です。
各バージョンの図面を管理番号や日付、作成者で徹底的に区分し、取引先との受け渡しログも保存しましょう。
受け渡し時に双方で内容確認を行い、依頼内容の改変がなされていないか都度点検することが、クレーム低減への基本です。

2. 設計と現場、サプライヤー間のコミュニケーション強化

設計者が現場やサプライヤー現場を定期的に視察し、どのように図面が読み取られているかを把握する取り組みも効果的です。
また、現場担当者やサプライヤーとの意見交換会や振り返りミーティングなど、カジュアルな対話の場を増やすことが意思疎通の秘訣です。

3. デジタルツール&ガイドラインの活用

図面データの電子化や3D-CADの普及、設計~調達~生産管理までの一元化プラットフォーム導入も業界の流れです。
また、“曖昧な記載”を根絶するための設計ガイドラインや業界標準の仕様書策定など、共通言語を揃えることが欠かせません。
知見の属人化からチームノウハウへの転換が、昭和的アナログ企業からの脱却ポイントになります。

変革の時代に向き合うために−バイヤー・サプライヤー双方の視点から

バイヤーを目指す方へは、図面を「単なる指示書」ではなく、「現場と設計、サプライヤーと私たちのコミュニケーションツール」と捉え、自分の発注が現場全体に及ぼす影響を想像しましょう。

逆にサプライヤーの皆さんは、受け取った図面を鵜呑みにせず、「この指示で本当に用途が合っているか」「不明点・曖昧点はないか」を、バイヤーへ遠慮なく確認する習慣を身につけてください。
“言われた通り作る”だけではなく、“相談しながらより良いものを生み出す”パートナーへ脱皮する姿勢が今、求められています。

アナログな業界文化も、今まさに新しい認識と意識改革へと向かっています。
従来の“ノリと空気”を脱し、データと対話を通じて、図面と現物の不一致によるクレームを極限まで減らしていく。
この実践こそが、現場の信頼を生み、ひいては日本の製造業を新しい段階へ押し進めるカギとなるはずです。

新たな地平線へ向かう皆さまの現場で、ぜひ参考にしていただければ幸いです。

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