投稿日:2025年8月19日

共同購買コンソーシアムで単価階段を一段落とす仕組み

はじめに:製造業の調達における「単価階段」の壁

製造業の現場において、部品や資材の調達コストを下げることは、利益を生み出すための重要な課題です。

そのなかでも「単価階段」という言葉は、現場経験のある方には非常に馴染み深いキーワードでしょう。

ある一定の数量をまとめて発注することで、1個当たりの単価がガクンと下がる「ステッププライス」。

しかし、一社単独では発注ロットをなかなか増やせず、「この壁をもう一段下げたい…」と歯痒い思いをした経験がある方は多いはずです。

この壁を打ち破る新たな手法として注目されているのが「共同購買コンソーシアム」です。

ここでは、単価階段を一段落とすメカニズムの実際や実践ノウハウ、また日本のアナログな業界文化とどう向き合うかなど、現場目線で解説していきます。

単価階段とは何か?現場での肌感覚と理論

数量と単価は相関する:バルク発注の強み

部材や消耗品を10,000個単位で発注した場合と、1,000個単位で発注した場合。

ほとんどのメーカーや商社は、発注数量が増えるごとに「まとめ割」を設定しています。

値段表を見ると、「~999個まで1個120円、1,000個以上で1個110円、10,000個以上なら1個100円」といった具合です。

この価格の階段をいかに谷底までもう1段下げるか。バイヤーや調達担当者の永遠のテーマです。

なぜ単価階段は生まれるのか?

これはサプライヤー側のコスト構造と密接に関係しています。

段取り替えや金型の切り替えといった初動コストが発生するため、小ロット発注ではどうしてもコストが高騰します。

また、大量生産のラインに一括投入すれば「まとめて生産できる→効率が上がる→価格を下げても十分利益がでる」となります。

発注側にとっても、一定量をまとめて購入しなければコスト面で非常に不利になります。

現場で起こる「発注量の限界」

理論上は大量発注がベストの選択ですが、現場では「在庫スペースがない」「キャッシュフローを圧迫する」「製品仕様が頻繁に変わる」といった問題が山積みです。

いくら安くなるからといっても、年に1回しか使わない部品を10年分まとめて購入するわけにもいきません。

こうした制約が、「これ以上、単価階段を下げられない」という“現実的な壁”となって立ちはだかるのです。

共同購買コンソーシアムとは—「みんなで買う」という選択肢

コンソーシアムとは:枠組みと仕組み

共同購買コンソーシアムとは、複数の企業(時には異業種同士も含む)がコンソーシアム(協業体)を組成し、必要な部品や資材を「全体で一括購入」する仕組みです。

端的に言えば、「みんなでまとめて買うから、もっと安くしてください」という交渉力を集団で持つわけです。

これにより、一社単独では到達できなかった「最も低い単価階段」を目指すことができます。

コンソーシアム共同購買のメリット

単価階段を一段落とせる
安定供給が確保しやすい(大量受注でサプライヤーも安定稼働)
新たなネットワーク・ノウハウの獲得
サプライヤーとの関係強化

数量効果によるコスト削減だけでなく、業界横断的なネットワーキングや、情報共有、共通課題の抽出など、得られるメリットは多岐に渡ります。

アナログ文化との葛藤と現場での実情

日本の製造業では、「自分の会社の事情は外部に漏らしたくない」「調達先の情報は門外不出」という意識が今も根強いです。

協力会社とはいえ同業者でありライバルでもあり、「あの会社とは取引量も資材調達単価も違うはずだ」という気持ちから、慎重になるのが実情です。

また「いつもの商社さん」「昔からの付き合い」が重視され、イレギュラーな共同購買は敬遠されがちです。

現場でこれら心情的な障壁をどう乗り越えていくかが、成功のカギとなります。

単価階段を下げるための実践ノウハウ—コンソーシアム導入のプロセス

1.共同購買のパートナー選定

類似の資材・部品を使っているが、直接の競合ではない企業(例:同業界の規模違い、多拠点企業の別拠点、異業種で調達品目が被るケースなど)が理想的です。

お互いの購買リスト一覧や年間使用計画を持ち寄る段階からスタートしましょう。

この際、「情報漏洩リスク」や「相手に依存しすぎない関係構築」が重要です。

2.発注スケジュールと数量のすり合わせ

各社で納入希望時期や使用数量は異なります。

需要のピークや、オフピークの時期を調整しながら、「コンソーシアムまとめ発注リスト」を作成します。

ここで高度な“ウィンウィン設計力”が要求されます。

3.価格の再交渉

コンソーシアム代表としてサプライヤーと交渉します。

通常の発注では実現が難しかった「次の単価階段」を、共同発注なら交渉材料として提示可能です。

ここでは「今後の長期的な発注継続」「サプライヤーにとってのキャッシュフロー安定」など、総合的なメリットを明示して説得力を持たせましょう。

4.分配ルールとトラブル防止策の策定

数量確定後に、どの企業がどれだけ持ち分を確保するのか
受け取り・納品トラブル時の責任分界点
価格変動時の対応(市場が高騰・下落した場合の調整)

など、協業体としての「契約書式」や「合意形成手順」を明確化しておくことをおすすめします。

すべて口約束では長続きしません。

昭和アナログ文化×デジタル連携—新しい地平を開拓する

現場の「付き合い文化」は敵か味方か

日本の製造現場には「義理と人情」の文化が色濃く残っており、いわば“なあなあ取引”が大前提の世界が根強いです。

その反面、新しい手法への抵抗は非常に強いです。

しかし、単価階段を下げることが「現場の仲間」「下請けのネットワーク」「取引先サプライヤー全体」の活性化につながるシナリオを丁寧に描くことで、少しずつ納得を得ることができます。

「新しい仕組み=現場の安全や信頼を壊すもの」という思考停止から脱却しましょう。

デジタル技術の活用—調達プラットフォームとデータ連携

近年はサプライチェーン・マネジメント専門のクラウドサービスや、業界ごとの共同購買プラットフォームが登場しています。

これにより、発注〜納品〜受領確認〜コスト按分のプロセスがワンストップで管理でき、アナログな人間関係トラブルや伝達ミスも減少します。

現場に導入する際には、「昔ながらの商習慣」を上手く残しつつ、デジタルの力で効率化・透明化をはかりましょう。

サプライヤー&バイヤー視点—それぞれのメリット・リスク

バイヤー側のメリット・注意点

・大口発注ができるためコスト競争力が上がる
・サプライヤーとの関係性強化、供給安定性向上
・ただし、パートナー企業との調整・トラブル対応工数が増える可能性

サプライヤー側のメリット・懸念材料

・安定的かつ大口のロット受注が見込める
・まとめて生産でき、段取り回数削減で自社の生産効率もアップ
・ただし値引き幅が増え過ぎる、納期分散や責任範囲増大のリスクがある

サプライヤー側にとって「1社1社バラバラ対応するより効率的」「新規口座開設コストが省ける」など直接的なメリットを明確に伝えることで、Win-Winの関係を築きやすくなります。

「共同購買コンソーシアム」導入事例と教訓

成功事例:中小部品メーカーによる共同バルク購買

同じ業界内の中小メーカー数社で、年間数百万円単位だった部品調達を、コンソーシアム化によって年間数千万円規模に拡大。

従来は到底到達できなかった「10,000個階段」をクリアし、単価を15%近く削減。

加えて、生産ライン側からもコンソーシアム内で不具合事例・品質情報を共有し、「改善サイクルの短縮」も達成しています。

失敗事例:共同購買導入後の課題対応の不徹底

共同購買立ち上げ直後は各社ともコストダウン効果に満足したが、数か月後に某社が急な需要増加。

追加発注をコンソーシアム経由せず単独で依頼したため調整がこじれ、最終的にバラバラで元の調達形態に戻ってしまった。

「ルールづくり」と「トラブル時の対応フロー」づくりの重要性が再確認された事例です。

最後に:今後の製造業における単価階段突破の新常識

「共同購買コンソーシアム」は、コスト競争とサプライチェーン安定化、さらには新たな付加価値創出のための有力な武器です。

ですが、アナログな信頼と人間関係のうえに小さく始めて、しっかりルールを整備し、デジタルで支える。

この三位一体こそ、昭和から令和へとバトンをつなぐ調達改革のカギとなります。

単価階段の一段下、さらにその先を目指して——まずは社内・サプライヤー・業界ネットワークへ、本記事の内容を「提案」してみてはいかがでしょうか。

知恵と現場力、そして開かれた対話こそが、日本のものづくりを次の地平へと導く原動力です。

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