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和紙を用いたファッションブランドを構築するための耐久性加工と縫製法

目次
はじめに
和紙は日本古来の伝統素材でありながら、環境負荷の低いエシカルマテリアルとして再び注目を集めています。現代のサステナブルファッションの文脈においても、和紙は「軽量」「吸湿性」「抗菌性」など衣料素材としてのポテンシャルを秘めています。しかし和紙は繊維断面の構造的な脆弱さから、ファッションブランドの商品化には耐久性の課題、量産化のための縫製・加工技術の醸成が不可欠です。本記事では、和紙を用いたファッションブランドを構築する際に必要となる「耐久性加工」と「縫製法」について、実践現場で培ったノウハウも交え、現場目線で紐解きます。伝統と革新の架け橋となる知見を、製造業の方・バイヤー志望者・サプライヤーの皆様に共有します。
和紙の基本特性と現状の用途
和紙の機能性と課題
和紙は楮(こうぞ)、三椏(みつまた)、雁皮(がんぴ)などの植物由来繊維から作られます。これらの繊維は長く強靭ですが、伝統的な製法では紙としての柔軟性・風合いを優先しているため、洋服やバッグのようなファッション用途には「破れやすさ」「摩耗・毛羽立ち」「耐水性の不足」などクリティカルな課題が顕在化します。特に縫製・洗濯を繰り返す衣類分野では、従来どおりの和紙素材では耐用年数や製品クレームのリスクが高いです。
既存の用途とイノベーション動向
現在の和紙利用は着物の裏地や和装小物が主流です。最近では和紙紡績糸を用いた「和紙繊維」も登場し、スポーツウェアやカジュアル衣類にも用途が広がってきました。しかし量産・グローバル展開を考えた場合は、安定品質の確保、縫製ラインへの適応、ユーザビリティの水準向上が求められます。
和紙の耐久性を高める加工技術
樹脂加工・ラミネート加工
和紙に合成樹脂を含浸させたり、ラミネートすることで、耐水性・耐摩耗性が飛躍的に向上します。PUやEVAを薄付けすることで、和紙本来の風合いを損なわずに機能性を与えられます。ただし過度なコーティングは和紙材料の通気性や独特のしなやかさを損なうため、バランスの取れた配合設計や試験が必要です。サステナブル観点では、生分解性樹脂の研究も進められています。
繊維強化(スパンボンド・編込・混紡)
「和紙糸」は和紙を細断して撚りをかけて紡績した素材で、コットンやポリエステルと混紡することで飛躍的に耐久性が増します。また、和紙を他繊維や布基材へ積層・スパンボンド加工することで補強も可能です。これによりファッションユースでも「しなやかさ」と「強さ」を両立させることができます。
生地表面のナノコーティング・後加工
和紙生地の表面にフッ素やシリコーン系のナノコーティングを施せば、撥水性・防汚性を向上できます。洗濯や摩擦による劣化を最小限に抑えるため、ブランドの商品開発段階で必ず試験を行い、ファッション用途への適合性を確認する必要があります。
また、抗菌・防臭加工をあわせて施すことで、スポーツ衣類やアンダーウェアなど用途拡大も狙えます。
和紙素材に適した縫製方法の選択
従来の和紙縫製と課題
和紙は水に弱く強度がないため、古くから手縫いや差し込み縫いなど負荷の小さい手法が使われてきました。しかしアパレルラインの量産現場では、工業用ミシンや自動裁断機の普及により作業が効率化されています。和紙は引き裂き強度や縫い割れしやすいため、そのままでは工業縫製に不向きです。このため、適切な補強・事前加工・縫製方法を選択しなければなりません。
最適な縫製糸と針の選定
和紙生地はデリケートなため、細番手で滑りの良いポリエステル糸やシルク糸を使うのがベターです。
過度なテンションや太糸では縫い目から破れてしまうケースが多発します。
針は細く鋭角なものを選び、穴あきや割れを防ぎましょう。
刺繍や装飾を施す場合もあらかじめ試し縫いを必ず行い、負荷に応じて芯地や接着芯で補強する工夫が必要です。
ミシン縫製の工夫と特殊ミシン
和紙の縫製では、一般的な本縫い(直線縫い)ではなく、チェーンステッチやオーバーロックといった柔軟な縫い方を採用するのがおすすめです。
また、2本針のダブルステッチで負荷を分散し、縫い目幅を調節することで強度が向上します。
ウルトラソニック(超音波)や高周波溶着など、接着系の無縫製技術もデリケート素材には有効です。
補強・裏打ち・接着技術の活用
コーナーやストレスが集中する部位(ポケット口や開閉部)には補強テープや柔軟芯地をあてがい、断裂を防止します。
和紙の裏に薄手のコットンやポリエステル繊維を圧着(裏打ち)することで、しなやかさを維持しつつ強度・耐洗濯性を高めることができます。
こうした多層構造は近年のサステナブルファッション領域でも盛んに利用されています。
和紙ファッションブランド立ち上げの現場戦略
現場主導による素材試験と改善のPDCA
新素材開発で最も重要なのは、現場での「トライ&エラー」です。私が経験した工程では、試作・物性試験・着用耐久テスト・洗濯テストを現場主体で繰り返し、挙がった問題点を随時フィードバックして改良を進めてきました。営業・バイヤー・サプライヤー・QCが一体となって、連携した開発体制を構築することが成功のカギとなります。
バイヤー目線の品質基準設定
和紙を衣類・アパレル製品として世に出す場合、バイヤーは機能性・デザイン性・量産安定性・リスク管理(クレーム発生率)を総合的に審査します。和紙製品は必ずJISや海外規格での耐洗濯性・摩擦強度・耐光堅牢度など試験データを用意し、価値訴求ポイントを明確に打ち出すことが重要です。現場担当者は、実際の生産プロセスやコストダウン手法、歩留まり改善策まで咀嚼して資料化しておくと、バイヤー側から信頼を勝ち取りやすくなります。
サプライヤーの差別化と企業アライアンス
現場で重視すべきは「素材のストーリー提案」と「生産安定性の裏付け」です。サプライヤーは、和紙の歴史性・地域性・提携農家とのネットワークなど差別化要素と、耐久性強化の独自技術や徹底した現場検証の取り組みをセットで提案することが必要不可欠です。さらに、共同開発型の企業アライアンス(縫製会社・糸メーカー・加工業者との連携)を積極的に構築し、バリューチェーン全体で一貫したクオリティマネジメントを実現しましょう。
昭和型アナログ業界の中で新機軸を打ち出すには
伝統産業の現場では、いまだに勘や経験に依存した「昭和型」オペレーションが根強く残っています。デジタル化・標準化の流れを踏まえつつも、伝統的な手業や地域密着型のサプライチェーンに敬意を払い、ノウハウを次世代へ継承していくことも非常に重要です。現場で培った微細な改善点やクラフトマンシップの重要性を、データや数値に落とし込み「見える化」することで、職人技と先進技術のハイブリッドなものづくりが目指せます。
また、DXツールやIoTセンサ等を用いた工場内の工程管理や進捗「見える化」を推進することで、人の勘に頼らない安定品質・コスト競争力・納期短縮も可能になります。和紙ブランド構築においても、アナログの良さとデジタル活用の両輪で先端事例を増やしましょう。
まとめ
和紙を用いたファッションブランドの構築には、和紙素材の魅力を活かしながらも「耐久性加工」と「縫製技術」の革新が不可欠です。樹脂加工・混紡・ナノコーティングなどの機能性向上策と、適切な縫製法・補強・量産体制の確立がブランド競争力の基盤となります。
現場主導のPDCA、バイヤーやサプライヤーの思考のプロセス統合、伝統と先端技術の掛け合わせにより、和紙ファッションは今後さらなる市場拡大が期待できます。ものづくり現場での地道なトライ、アナログの良さとデジタルの利活用、その両輪で、日本発サステナブルファッションの新機軸を世界に発信していきましょう。
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