投稿日:2025年12月10日

耐久試験のフィードバックが設計に反映されず品質改善が停滞する問題

耐久試験のフィードバックが設計に反映されず品質改善が停滞する問題

製造業における耐久試験の意義

製品開発の過程において、耐久試験は極めて重要な役割を担います。
ユーザー環境を模した条件下で、機器や部品の寿命・信頼性・潜在トラブルを事前に把握し、設計品質に反映させていくのが本来の目的です。

しかし、日本の長らく続く「昭和的な現場主導」「属人化」などにより、せっかく現場で得られた貴重なフィードバックが設計や開発にきちんと反映されない例が今も後を絶ちません。
こうした構造の問題が、競争力や品質改善の停滞を招いている実情があります。

フィードバックが設計に活かされない“現場あるある”

未だに多いのが、「試験結果として得られる不具合や劣化現象」の現場止まりです。

たとえば、
– 組立工程で日々発生する“ちょっとしたキズ”や“微細なガタ”
– 市場クレームほど至らない“耐久テスト中の異常音”
– フィールドから持ち帰った部品の摩耗や変色

こうしたリアルなデータは、報告書やメールで形だけ設計部門に伝えられ、「了解」「対応検討」「要因調査」などと記載されるだけで、具体的な設計変更に結びつかない例が頻発します。

現場ヒアリングを重ねると、次のような課題が浮き彫りになります。

なぜ“フィードバック停滞”が起こるのか?構造的な3つの壁

1. 部門間コミュニケーションの断絶と責任回避

たとえば設計部門が各試験結果を「参考情報」として受け止めるだけで、「設計の工夫として何を追加すべきか」という深い議論がなかなか行われません。
品質部門も、「法規・仕様的に問題なし」と判断すると、それ以上踏み込まなくなります。

このように現場で発生した不具合や気づきは“伝達すること”自体がゴールとなり、アクションが伴わないのです。

2. 属人的なナレッジと暗黙知への依存

昭和世代のベテラン技術者が「この歯車はこうした方がもつ」「この締結は増し締めしないとダメ」などと経験則でノウハウを抱え込み、そのまま引退・異動してしまうケースが後を絶ちません。
組織として「構造的な改善ナレッジ」「横展開のしくみ」を持たないため、せっかくのフィードバックが“知見の墓場”に消えます。

3. コスト優先・納期優先思考の悪循環

現場で顕在化する不具合情報に対し、「今さら大きな設計変更はコストも納期も膨らむ」「とりあえず現場で埋め合わせてくれ」といったトップダウンの指示が現実的な選択肢として定着しています。
こうした“場当たり主義”がフィードバックループを形骸化させています。

先進現場の取り組み事例:デジタル活用でフィードバックループを強化する

これらの課題に“本気で”取り組み始めている製造企業が少しずつですが増えてきました。

デジタル化・データドリブン経営の実践

たとえば品質情報や試験結果を「不具合申告」「現場日報」などで都度蓄積し、AIやBIツールを使って型番・工程・設計変更履歴・試験仕様との関連性まで統合分析できる仕組みを構築しています。

設計部門もアジャイル開発の手法を取り入れ、「現場で出たフィードバック」を週次レビューし、設計変更案や試作改良へスピード感を持って組み込む体制が取られています。

これにより「現場で起きたことが過去データの1つ」で終わらず、「未然防止策の立案」「最適機種の設計ノウハウ」へとつながり、真の品質改善サイクル形成に寄与しています。

現場・設計・調達三位一体チームの常設

「設計 ⇄ 生産現場 ⇄ バイヤー」の三者による小集団改善が定期的に開催され、耐久試験後の部品寸法・摩耗状況・コスト比較などを“見える化”してディスカッションしています。
サプライヤーの立場からも「現場でどんなトラブル・クレームが出ているか」を共有してもらい、“設計から選定までワンストップで改善する”機運が高まっています。

バイヤー・サプライヤー視点でも重要な「フィードバックの循環」

購買やバイヤーの立場から見ても、フィードバックを設計や部品選定に反映させることは原価低減・安定調達の両面で有効です。

例えば、「特定ロットだけ摩耗が激しい」「納品時の検査では見抜けない材質ばらつきが市場で顕在化」など、調達側が現場・設計部門双方と連携し、再発防止やサプライヤー選定基準強化につなげることが大切です。

サプライヤー側も、納入品の耐久情報・現場トラブル事例を積極的に開示し、設計者と一体になって“本質的な原因追及”や“工程改善案提案”を行えば、値下げ交渉一辺倒ではなく“開発パートナー”としての信頼関係構築も進みます。

アナログ業界こそ「小さなフィードバック」が生き残りのカギ

高度な自動化やデジタル一辺倒でなくても、現場の“小さな違和感”に耳を傾けて仮説を立て直し、設計・製造・品質保証・調達がワンチームで改善する文化こそ、日本のモノづくりの強さでした。
「図面通り作ればOK」「仕様内なら合格」だけの古い思考から脱却し、「なぜ現場で想定外の劣化や変化が起きたのか?」にもっと真剣に取り組むべきタイミングに差し掛かっています。

今、現場・設計・バイヤーに求められるマインドセット

最後に、耐久試験のフィードバックを本当に活かしていくために大切なことは
– どんな“小さな異常”も現場の声として真摯に受け止める
– 設計は「完成した図面」ではなく「常に進化するプロトタイプ」と捉える
– バイヤーは品質・コスト・調達安定性を統合的に見て“止まない改善提案”を行う
– サプライヤーとも率直な情報共有と協働改善に挑む

これらは決して「システムや道具」だけで解決できる問題ではありません。
現場ごとの創意工夫と、バイヤー・サプライヤーも巻き込んだ“本音の対話”こそが、最強の品質改善ループを生み出す原動力となるでしょう。

まとめ:昭和から令和のものづくりへ、現場発フィードバックの新たな地平へ

耐久試験で得たフィードバックを「本当に活かす」ためには、昔ながらの“形式的な伝達”を脱却し、現場・設計・バイヤー・サプライヤーがワンチームで対話し、常に“構造的な見直し”ができる仕組みが不可欠です。

デジタル技術も活用しながら、アナログな現場感・人間力も大切にする「ハイブリッド型改善文化」を一人ひとりが心掛けることで、日本の製造業は必ずもう一度、世界で輝くはずだと私は信じています。

全ての現場、そしてバイヤーやサプライヤーの皆さんと共に、品質改善の“次なる地平”を開拓していきましょう。

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