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経営層がDXを現場任せにして責任を取らなかった失敗談

目次
はじめに:DX推進の理想と現実
製造業におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の重要性は、もはや論じるまでもありません。
多くの経営層が「DXで業務効率を改善し、競争力を強化しなければならない」と声高に言い始めて久しい現代。
しかし、現場レベルではいまだに「昭和のアナログ」が深く根付き、DXの号令は掛け声だけで空回りするケースが少なくありません。
とくに問題となるのは、経営層がDXを単なる流行りや儀式として捉え、具体的な推進責任を現場に丸投げしてしまった失敗例です。
この記事では、筆者が20年以上の製造業現場で体感した失敗談も交えながら、バイヤー、サプライヤー双方に役立つ“現場目線”の知見を掘り下げて共有します。
経営層がDX推進を「現場任せ」にしがちな理由
1. DXは経営課題なのに「現場の延長」と誤認
DXは本質的に、経営戦略の一部として据えなければ意味がありません。
ところが「IoT化」「デジタル化」といった表現が一人歩きし、一部のIT部門や生産管理担当へ指示が下るだけで、経営層が直接関与しないケースが後を絶ちません。
もともと製造現場では“現場力”が重視される文化が根強いため、経営層が「技術のことは現場に任せればいい」と思い込んでいるケースが非常に多いのです。
2. 旧来型マネジメントとDXの本質的なギャップ
昭和的な企業文化では「工場はものづくりのプロ、経営陣は経理や営業のプロ」と明確な分業意識がありました。
しかしDXでは、現場・マネジメント・システムが一体となって新たな価値を生み出す必要があります。
トップが「現場が困ってから話を聞く」というスタンスだと、現場の苦労は水面下にとどまり、改革は頓挫しやすくなります。
3. DXのゴール設定が曖昧なまま導入スタート
DX推進は“手段”であり、“目的”ではありません。
ところが、経営層が「とにかくDXをやれ」という認識に留まる場合、具体的な目標設定や評価基準が曖昧となり、現場は“何をもって成功なのか”が分からないまま手探りで推進することになります。
これが、現場のモチベーション低下と「やらされ仕事」化を引き起こします。
具体的なDX失敗談:現場に丸投げされた現実
1. タブレット導入プロジェクトの顛末
以前、経営層主導で「現場ペーパーレス化」の号令が掛かり、タブレット端末を一斉導入するプロジェクトが立ち上がりました。
当時は「ペーパーレスで生産性2割アップ」という大義名分が先行し、具体的な現場運用フローの検討や費用対効果分析はなされませんでした。
実際の現場では、従来の帳票が急に廃止され、タブレット入力用アプリが配布されました。
しかし、現場担当者からは「入力が面倒」「Wi-Fiがつながらない」「バッテリーがすぐ切れる」などトラブルが多発し、従来の手書き帳票との“二重管理”という非効率な状態が長く続きました。
結局、現場リーダーによる独自の運用ルールが乱立し、混乱状態が数年にわたって続いたのです。
最大の問題は、プロジェクト責任者が人事部門であり、製造現場の実務の実態を把握する“橋渡し役”が社内に存在しなかったことでした。
経営層も表面的な「台数」「利用率」の数字しか見ず、混乱への直接的な対処をしませんでした。
2. 生産管理システム刷新の悲劇
別の工場では、ERP導入という大きなDXプロジェクトが始動しました。
経営層は「海外拠点との情報連携を強化したい」という意識があり、最新のパッケージソフトを導入することを決定します。
ところが、現場担当者の要件ヒアリングはほぼ行われず、「欧米流の生産プロセス」がシステム標準に採用されました。
その結果、現場の日々の工夫や帳票管理手法とシステム仕様が著しく乖離し、「入力に2倍の手間」「間違い修正にはIT部門への申請が必須」など、現場側の業務量がむしろ激増しました。
プロジェクト失敗の責任は明確にされず、結局「現場の運用対応力不足」とされました。
しかし実際は、経営層によるゴール設定・現場実態のすり合わせが不十分だったことが最大の要因でした。
なぜ、現場丸投げのDXは失敗するのか
現場は“会社全体の最適解”を把握できない
現場には現場なりの知見や誇りがあります。
しかし、全社的なサプライチェーン最適化や中長期の経営計画を俯瞰する立場にはありません。
会社としての意思決定や長期戦略=「会社全体の最適解」を出せるのは、やはり経営層の役割です。
現場への一方的な丸投げは、「現場でできる範囲の最適化」というピンポイント視点に留まる危険を孕んでいます。
たとえば、「この業務フローだけを自動化できればいい」と思って導入したシステムが、他部門や上流・下流部門の業務と噛み合わず、全体最適とは程遠い構造的な非効率を生み出すことが少なくありません。
現場の自主性・提案力だけでは超えられない壁
DX導入の現場プレイヤーは、日々の業務の中で新システムや新技術に対し、柔軟に適応しようと努力します。
とはいえ、権限や予算、人員的な制約があるなかで、全ての課題を解決するのは不可能です。
上司や経営層が「お前たちの現場力を信じている」などと期待の言葉を投げかけても、サポートや明確な経営判断がなければ限界があります。
その結果、現場は「できそうな範囲で無理矢理回す」仕組みに甘んじがちです。
この“最小単位の最適化”は、本来DXが狙う「全体の付加価値向上」とは真逆の世界なのです。
成功するDXと失敗するDX、その分岐点
トップが「現場を見る経営」の先頭に立つ
成功したプロジェクトに共通するのは、経営層自らが現場に足を運び、現場メンバーの声や不安、日々の細かなトラブルに真摯に耳を傾けたケースです。
トップが現場の“泥臭さ”を理解し、現場の困りごとを自らの責任で捉えた時、現場も「この会社で本気の変革をやるんだ」と感じ、モチベーションが一気に高まります。
これは、一見当たり前のようで、実は徹底できていない企業が非常に多いのが現実です。
DXはマネジメント「全体改革」と一体でなければ意味がない
DXとは“デジタル化による部分最適”ではなく、組織全体の構造改革を意味します。
システム導入や業務自動化という“点の取り組み”ばかりを追い求めがちですが、真に価値が出るのは、部門間や工場間をまたぎ、全バリューチェーンを“線”でつなげて変革できるかどうかです。
現場主体のアイディアやPDCAは重要ですが、最終的な意思決定・投資配分・ゴール設定は必ず経営層が握るべきです。
経営層自らが、現場が潜在的に抱える「不安」や「抵抗感」を、組織全体の成長機会として受けとめる覚悟が必要です。
バイヤー・サプライヤー双方でDX時代を乗りこなすヒント
バイヤー視点:仕入れ先選定も「見える化」と「共創」重視へ
バイヤーを志す方に伝えたいのは、これからの仕入れ先選定は「価格」や「実績」だけではなく、サプライヤーのDX適応力や情報共有力が問われる時代になる、ということです。
・サプライヤーと課題・目標を共有し、中長期で「共創」していく関係性がより重要になる
・商談や品質管理の現場にAIやIoTが入り込む
・バイヤー自身が現場目線を持つことで、現場がDXでどこにつまずきやすいかを理解し、サプライヤーに適切なフィードバックができる
こうした“現場で使える具体的フィードバック”を意識することが、今後のバイヤー職には不可欠です。
サプライヤー視点:バイヤーの本当の悩みを「現場から」読み解く
サプライヤーから見ると、バイヤーがDX化の過程で求める“新しい価値”や“痛み”は、必ずしもカタログやウェブサイトには現れてきません。
製造現場には「導入したいけど現場が反発している」「期待した効果が出ていない」という“本音”があります。
こうした本音や現場のジレンマをサプライヤー自身が理解し、「自社製品がどうやって現場目線で役立つか」を示すことが今後は評価されるポイントです。
ときにはバイヤーの悩みに「現場で実感したDXの失敗談・解決例」を“サポート提案”として盛り込めば、受注確度も高まるはずです。
おわりに:現場任せにしないDXが、製造業の未来を拓く
DXは単なるIT化やペーパーレス化ではなく、働き方や価値観さえも変えていく壮大な改革です。
昭和の製造業文化の中で根付いてきた「現場は現場、経営は経営」という壁を超え、経営層と現場、バイヤーとサプライヤーが一体となることで初めて真価を発揮します。
現場に丸投げして失敗した事例をしっかりと振り返り、現場の痛みや現実と経営戦略の“ギャップ”を埋める取り組みが不可欠です。
これからのDX推進では、現場目線と経営視点の「ズレ」に真摯に向き合い、会社全体で責任を持つ覚悟が問われていきます。
この記事が、製造業に従事するバイヤー、サプライヤー、そして現場と経営をつなぐすべての方の気づきや行動変容の一助になれば幸いです。
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