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ベンダーの提案に丸投げして業務にフィットしなかったDX失敗例

目次
はじめに――なぜDXは失敗するのか?
製造業の現場で働くみなさん、あるいはバイヤーやサプライヤーの方々も「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉を一度は耳にしていますよね。
近年、DXは生産性向上・コスト削減・品質管理の強化など、魅力的なキーワードとともに社内で推進されています。
しかし現実には、思い描いたような成果を上げられず、「失敗」に終わるケースも少なくありません。
特に、ベンダー(IT・システム提供会社)主導で提案された「丸投げ型」の導入が現場にフィットしないという失敗は、いまも多くの工場や生産現場で見聞きします。
この背景には何があるのか。そして、どのようにすれば「業務に合ったDX」を実現できるのか。
製造業での長年の実務経験と現場目線を交えて、深く掘り下げていきます。
よくあるDX失敗パターン――ベンダー提案に丸投げとは何か
「とりあえず導入」の落とし穴
まず、よく見かける失敗例が以下の流れです。
1. 社内でDX推進の方針が決定する。
2. 在庫管理や生産計画など業務の一部をデジタル化するため、ベンダーに相談。
3. ベンダーは自社パッケージや最新クラウドサービスを提案。
4. 細かな要件や現場の運用まで詰めきれず、そのまま導入。
5. 「システム化」したものの、現場の業務と噛み合わず運用が定着しない。
とにかく「デジタル化を早く進めなくては」と焦り、ベンダーにヒアリング・提案・導入のすべてを丸投げしてしまう。
この時点で、現場業務の実態や社員のスキル、アナログならではの工夫や課題が置き去りになります。
現場の温度差――「昭和の業務」は一筋縄ではいかない
製造業、とりわけ昭和から続く大手・中堅工場では、紙の伝票、手書き日報、声掛けでの進捗確認、属人的なノウハウがいまも根強く残っています。
「うちもいずれはシステム化すべき」という意識はあっても、実はその「日々の小さな工夫」や「暗黙の了解」が、業務を滞りなく回す大きな力になっています。
外部ベンダーの「テンプレ通り」の業務フローに現場が反発するのも当然です。
こうした現実と目指すべきDXのギャップに気づかないまま進めると、現場での混乱や生産性の低下につながっていきます。
ありがちな失敗――経験者が語る現場エピソード
たとえば、私が以前経験した工場では、在庫管理システムの導入をベンダーに全面的に依頼した結果、次のような問題が起きました。
・現場で管理している部品の分類体系と、ベンダーが設計したシステムのテーブル設計がまったく噛み合わず、帳簿とシステムの整合性が取れない
・実際の運用では1日数十件の突発的な入出庫が発生するが、その対応プロセスがシステム化されていない
・バーコード読み取り端末が現場の油まみれ環境に適応できず、入力エラーが頻発
結果、新システムを使うほど手戻りや手書き修正が増え、結局「紙に戻そうか…」という声が上がる始末でした。
なぜベンダー提案は現場とズレるのか
ベンダーの事情と「導入サイクル」
ITベンダーは、提案から納品までの「導入サイクル」を効率的に回したいと考えています。
多くの製造現場に合わせる“業界標準”パッケージやクラウドサービスは、カスタマイズが最小限で済み、短期間かつ定額で導入できるため、ベンダーにとっても顧客にとっても“導入のハードルが低い”のが売りです。
しかし、現実の工場業務は各現場ごとにクセや問題点、特殊なノウハウが存在します。
テンプレートに収まりきらないこれらの要素は、業務整理や現場ヒアリングをしっかりやらなければ見過ごされてしまいます。
「業務改革なきIT導入は失敗する」
繰り返し述べたいのは、「アナログのままでは生産性が上がらない=すぐデジタル化すべき」ではない、という事実です。
“アナログに根ざした業務”がなぜ定着してきたのか、その背景を無視して単なるIT導入を押し進めても、本質的な改善にはつながりません。
極端な話、現場の業務が最適化されていないまま、システムだけ最新になれば「運用がやりにくくなるだけ」です。
コスト意識と現場担当者の「置き去り」
よくあるのが、「コストバランスを考えて簡便なパッケージを」と経営層や上長が判断し、現場の実情に目を向けないケースです。
また、現場のキーパーソン(ベテラン作業員や現場主任)がプロジェクトから外され、IT部門や調達部門だけで進行してしまうことも失敗の一因となります。
バイヤー・サプライヤーの視点――DXで役立つ“実践的目利き力”
現場にマッチする「要件定義」とは何か
バイヤーや購買担当者として、またサプライヤーの提案担当者としても重要になるのが、「現場業務のリアル」に根差した要件定義です。
他社でうまくいった成功談や、カタログ通りのスペック比較だけでは判断できません。
本当に求められているのは、以下のような視点です。
・現場の日々の課題や困りごとを徹底的に洗い出す
・必ず「現場担当者」や「管理職(係長・課長・工場長)」の生の声を聞く
・“昭和流”の工夫が、実は自社の競争力のタネになっていないか見極める
・業務プロセス全体の最適化(IT導入前の業務整理・標準化)ができているか
要件定義フェーズでこれらをしっかりケアできるかどうかが、導入後の「現場フィット感」に直結します。
「一緒につくる」パートナーシップが成功のカギ
ITベンダーやシステムサプライヤーに全て丸投げするのではなく、現場側とベンダー側、双方が「一緒に業務プロセスを考える」ことが大切です。
たとえば、
・既存の紙の業務をデータ化するだけでなく、“業務そのものの見直し”を並行実施
・べンダー提案へのフィードバックを現場担当者が行う仕組み
・現場テスト(PoC:Proof of Concept)やトライアル運用を経てから本格導入
こうしたプロセスを踏むことで、「現場に合ったDX」を目指すことが可能になります。
調達の観点――「安さ」だけでなく「定着」を重視する
価格競争が激しい製造現場では、つい見積価格や工数短縮ばかりに目が行きがちです。
しかし、「安物買いの銭失い」ならぬ「安価システム導入の業務混乱」にならないよう、
・本当に運用定着するか
・教育・サポート体制が現場眼で確認できるか
・将来の業務変化や成長に柔軟に追従できるか
こうしたポイントを調達・選定の際にきちんと検証するべきです。
“昭和のアナログ力”を生かした実践的DXのヒント
アナログとデジタルの「ハイブリッド化」発想
現場では、紙を全廃せず「重要な紙の帳票」だけを残し、日々の数値や実績はデジタルで記録・共有するなど、「デジタル×アナログのハイブリッド化」も十分選択肢です。
たとえば、検査成績書や棚卸日報は紙で必ず残してチェックし、各現場のPCやタブレットでスキャン・データ化して共有するといった柔軟なやり方が効果を上げています。
現場の“暗黙知”を見える化するプロジェクト推進
ベンダーと協働する場合、「現場の暗黙知(職人技や現場感覚)」を徹底可視化し、DXプロジェクトのストーリーに組み込むことが現場の納得感や成功率を高めます。
業務フロー図やヒアリングシート、“なぜこの作業手順なのか”をまとめるワークショップなどを通すことで、「現場とITの距離感」を縮めていく必要があります。
“小さく始めて大きく育てる”――DXは「現場力+データ」で進化する
いきなり全社・全工程の大規模導入ではなく、まずは一工程や一つの工場からトライアルし、現場の負担や効果を地道に確かめていく「スモールスタート」が成功の近道です。
最初の一歩は小さくても、現場で生まれる「生きたデータ」から新たな改善や現場改革につなげていけば、やがて大きな変革につながります。
まとめ――ベンダー提案の“丸投げ”から「現場協創型DX」へ
・「ベンダーに丸投げ」型のDX導入は、現場の実情やアナログ業務を軽視しがちです。
・現場業務の可視化、現場担当者の意見反映、業務改革の先行が成功へのカギになります。
・サプライヤー・ベンダーと調達側(バイヤー)、そして現場担当者が「一緒に考えてつくる」ことこそ、持続可能なDXの道です。
・アナログとデジタルの“いいところ取り”を柔軟に進め、「小さく始めて大きく育てる」姿勢が成果をもたらします。
昭和のアナログ力を活かしつつ、現場目線の業務改善を土台にしたDXに取り組むことで、本当に業務にフィットする「未来の製造業」が切り拓けると確信しています。
現場で働く皆さま、バイヤーやサプライヤーの皆さま、ぜひ今の業務の“足元”を見つめ直し、ベンダーとの協働のあり方を再考してみてください。
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