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外部ベンダー任せで社内にノウハウが残らなかったDX失敗事例

目次
はじめに ― DX推進の現場で何が起きているか
製造業を取り巻く環境は、近年目覚ましいスピードで変化しています。
AIやIoT、ビッグデータなどを活用したデジタルトランスフォーメーション(DX)が、企業の競争力強化や品質向上、生産効率の向上に直結する時代となりました。
そのため、社内外のさまざまなプロジェクトでDXの取り組みが加速しています。
一方で、DXの推進、とくに工場や調達購買、生産管理など現場に根ざした領域では、思うように成果が出ないという声が聞かれます。
その失敗の多くに共通しているのが、「外部ベンダー任せ」によるノウハウの社内蓄積不足です。
本記事では、昭和から続くアナログ文化が根強く残る製造業の現場において、なぜこのような事態が起こるのか。
実際の失敗事例をもとに、原因、課題、解決策について深掘りします。
外部ベンダー任せでDXが失敗する典型パターン
調達購買システム刷新プロジェクトの例
ある大手製造業の調達購買部門であった実例です。
従来の紙ベースやExcelでの発注・在庫管理から脱却するため、調達購買プロセスのデジタル化を社長プロジェクトとしてスタートしました。
しかし、現場メンバーは既存業務の知識は豊富でも、ITやシステム設計に関する経験値がほとんどなかったため、全て外部のコンサルやSIerにシステムの設計から現状分析、導入、運用サポートまでを委託しました。
最初は期待も大きく、最新パッケージに合わせて業務プロセスも見直しを行いました。
ところが、ベンダーが主体で進むプロジェクトは現場ニーズとの乖離が徐々に目立ち始めます。
現場の声は十分反映されず、利用する社員が「なぜこの操作が必要なのか」「どういう背景でこのルールになったのか」が理解できないまま、見切り発車でシステム移行が行われました。
その結果、予想もしない不具合が連発し、帳票出力や発注ミスが頻出。
現場は旧来のExcel管理をこっそり続け、業務プロセスも複雑化、やがて「システムは使いにくいから使わない」となり、巨額投資した新システムも十分活用されないままプロジェクトは失敗に終わりました。
品質管理データのデジタル化事例
別の工場では、品質管理プロセスの「見える化」を目的にIoTセンサーやクラウド型の品質管理システムを導入しました。
ここでもベンダーに要件定義から開発・設定・教育まで依存したことで、自社の品質基準や実際のワークフローとの間でミスマッチが生じました。
外部ベンダーは「一般的な製造業の標準プロセス」や「業界ベストプラクティス」をベースに提案しますが、長年の現場慣習やグレーゾーン業務には精通していません。
本来なら現場目線のチューニングや独自指標の取捨選択が必要ですが、社内担当者には「なぜその調整が必要か」を自分の言葉で説明できる人材が育っていません。
やがて、簡単なトラブルや仕様追加のたびにベンダーのエンジニアを呼ぶことになり、運用コストも跳ね上がるという悪循環に陥りました。
システムに詳しい社員がおらず、ベンダー依存体質は加速し、肝心の「現場の知恵」はデジタル資産化されぬまま風化してしまいました。
なぜノウハウが社内に残らないのか?根本的な理由
現場に「改革を担う人材」がいなかった
DX推進の現場で、「デジタル技術は専門外」と考える熟練社員は少なくありません。
「システムのことはSEにおまかせ」「ウチの工場は特殊だから外部の力を借りよう」という発想が根強いです。
こうした文化の中では、自分たちで主体的に要件をまとめる、プロジェクトを内部でディレクションする、といったスキル習得や経験の場が失われます。
要件のヒアリングも受動的になり、「SEが聞きに来たから答えておく」といった消極的な参加にとどまり、結果的にノウハウが現場には蓄積されません。
アナログ業務の「暗黙知」が放置されがち
長くアナログ業務の慣習で動いてきた現場ほど、工程ごと・個人ごとに異なるノウハウや、明文化されず継承されてきた「暗黙知」が多く存在します。
ですが、システム化となると一律の「標準プロセス」でまとめようとするため、これらの暗黙知はドキュメント化・システム化されることなく取り残されます。
外部ベンダーは当然ながら提供された情報やマニュアル以上のことは理解できません。
この部分は内部に「現場理解」かつ「IT理解」ができる橋渡し人材がいなければ絶対に拾いきれない部分です。
よって、現場独自の最適化された運用がシステム導入によって逆に阻害されるリスクさえあります。
「外に頼って当たり前」の組織風土
これまで昭和型ともいえる組織運営の中では、専門的なことは外部に丸投げし、「見積が安いところにやらせる」ことが評価されてきました。
システム刷新も「どうせITだから自分たちではできない」と意識し、外注費の承認だけを意思決定として残す企業文化が多いものです。
そのため、社内業務やプロセスそのものを自分たちで構築・推進・改善するスキルを積む習慣も意識も生まれず、5年後10年後にシステムが老朽化した際も「新しいベンダー任せ」になる悪循環に陥りがちです。
失敗事例から学ぶべき「本質的な教訓」
現場の主体性こそがDX成功の鍵
DXの本質は、単なるシステムの刷新や外部サービスの導入ではありません。
現場ノウハウをデジタル上にどう落とし込むのか、その運用と改善サイクルを自分たちで持てるかどうかが鍵です。
すなわち「主役は内製人材」でなければなりません。
ベンダーはあくまでも伴走者であり、主導権は内製メンバーが担う体制――つまり
・現場を深く理解し
・業務要件を言語化でき
・ITの基礎知識も持った
「現場ディレクター」的な育成が求められているのです。
業務とITの「翻訳者」を育てよ
調達購買、生産管理、品質管理といった業務ノウハウと、システム要件・設計知見の間に横たわる「溝」を埋める人材――いわば“現場とITの翻訳者”が不可欠です。
製造業がこれから生き残っていくには、現場が自分たちの業務を言語化し、ツールを「自分事化」してカスタマイズ、改善できる力が求められます。
「IT専任」ではなく、「現場×ITのハイブリッド人材」を各部署で意識的に育てることが、究極の内製DXの基盤となります。
現場主導のDXにシフトするための実践策
1. 内部メンバーのプロジェクト主導を徹底する
まずは業務部門から「現場リーダー」「現場PM」を必ず選び、企画段階から、システム設計、運用、改善サイクルのすべてのフェーズで主導権を持たせることが大切です。
外部ベンダーには黒子として入ってもらい、必ず仕様レビューや移行テスト、ユーザートレーニングは現場自ら進めて「現場目線の意見」をセットで反映させましょう。
2. 暗黙知・ローカルルールの徹底可視化
システム化やDXによる業務変革を進める際には、必ず「現場の暗黙知」「個人ノウハウ」を細大漏らさず棚卸しします。
これは全て現場ヒアリングによって行い、業務フローやQCD(品質・コスト・納期)の観点だけでは出てこない「非公式プロセス」も洗い出すことがポイントです。
棚卸しした知見をプロジェクトチーム全体で共有し、どこまでシステム標準に落とすのか、それとも個別カスタマイズとするのか、現場が選択権をもつ運用を徹底します。
3. 小規模な内製開発のトライアルから始める
DX推進に「大規模システム導入」から取りかからず、まずは「小さく作って成果を見る」マイクロDXの方針が重要です。
たとえば調達購買であれば、一部部署に限定した発注ワークフローのデジタル化や簡単なPower Automateの導入、現場主導のBIレポート作成などから始めます。
現場自ら設計・改善を繰り返し、ノウハウの内製化を図ることで、やがて大規模システム導入の際にも「自社として外部と対等に要件議論できる地力」がつきます。
4. 「現場改革人材」発掘・登用の仕組み構築
現場でDX改革の旗手となる“現場×ITのハイブリッド人材”を積極的に発掘し、適切な権限と裁量を与えます。
育成としては外部研修だけでなく、チーム内勉強会や業務改善アイデアのコンテスト開催等の仕掛けを増やし、横断的なノウハウ共有を仕組み化します。
まとめ ― 「うちは特殊」という思考が業界全体を後退させる
昭和から続くアナログ型の仕事の進め方を「うちの会社は特殊だから」と言って正当化し、外部ベンダーに依存し続けてしまう。
この発想自体が産業界の未来を阻害し、グローバル競争に後れを取る主要因です。
「現場ノウハウは自分たちが守る。ITも現場が使いこなす。」この強い意志と取り組みがあってこそ、真の意味での製造業のDXは実現します。
調達購買、生産管理、品質管理、工場の自動化――どの分野でも現場を知る人こそが主役です。
ベンダー任せではなく、「現場が自走するDX」を目指し、まずは自ら手を動かし、失敗から学び、知恵とノウハウを積み重ねていきましょう。
バイヤー、サプライヤー問わず、この考え方が浸透すれば、日本のものづくりはもう一度世界のトップランナーになれると信じています。
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