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見える化だけに終始して業務改善に繋がらなかったDXの失敗

目次
はじめに:「見える化」で仕事は本当に変わるのか?
「DX(デジタルトランスフォーメーション)」というワードが製造業にも本格的に流れ込み、日本中の工場で「見える化」が重要視されるようになりました。
しかし、現場に20年以上携わってきた私の経験から言えることは、業務改善に繋がらない「見える化」事例が、想像以上に多いという現実です。
なぜ「見える化」を推進しても、昭和のままの現場が変わらずに残るのでしょうか。
この記事では、現実の工場現場でありがちな「見える化の落とし穴」に焦点を当て、真の業務改善に繋がるDXのあり方をラテラルシンキングの視点から深掘りします。
製造業に従事する方、これからバイヤーを目指す方、そしてサプライヤーの立場でバイヤーの行動原理を理解したい方にとって、実践的なヒントを共有します。
見える化のみで終わるDXの典型的な失敗例
1. グラフを眺めて終わる「見える化」
よくあるDXの入口として、生産ラインの稼働状況や設備の稼働状況を「見える化」し、ダッシュボード上にグラフ表示する案件があります。
導入当初は、
「稼働率が数値で分かるようになった!」
「不良発生がリアルタイムで把握できる!」
と現場が活気づきます。
ところが、多くの現場ではこれ以上の改善が進みません。
データを集めてグラフ化しただけで「改善」した気分になり、その先のアクションがない。
会議でダッシュボードの画面を見て、
「なるほど、今月も歩留まりが悪いですね」
「このラインがネックですね」
と言い合うのみで、本質的な業務変革には至らない。
これは、データを「見て満足するだけ」という典型的な落とし穴です。
2. データの「数字合わせ」に終始する現場
本来、DXの見える化は業務改善への”気付き”を与えるはずです。
しかし、現実には「数値の帳尻合わせ」が目的化し、現場が本質の改善問題から目を背ける例を多く目にします。
例えば、工程内不良率がリアルタイムで可視化されたとします。
ところが「この数字が高いと評価が下がる」と現場にプレッシャーがかかり、工程内で無理やり数字を改竄したり、不良を別処理して見かけ上の数字だけ整えてしまう。
数字のための現場運用となり、逆に本来の目的から遠ざかる。
このように表面的な数値に捉われると、「見える化」がチームワークと現場改善の精神を損なう危険性も生じます。
なぜ「見える化だけ」では業務改善につながらないのか?
1. データが「アクション」に転換されていない
最も多い根本的な要因は、現場で収集したデータを「行動」につなげる明確な仕組みが欠落していることです。
「データ→可視化→アクション」の流れがないと、どれだけ優れたシステムを導入しても、実態は昭和の現場と変わりません。
システムを導入した「安心感」が現場に満ち、その裏で従来の業務フローや現場習慣は放置されてしまう。
本来は「データから読み取れる現場課題」に対して、どのような改善アクションを日々実行・定着させていくか、そのPDCAサイクルが重要です。
2. 現場の当事者意識が希薄
「見える化」の推進を情報システム部門やITベンダーに丸投げしてしまい、現場が”巻き込まれていない”ケースも失敗につながります。
本来、業務改善の主役は現場です。
現場作業者・リーダーが、可視化されたデータを使って自分ごととして考え、改善を自発的に進める土壌がなければ、データは「お飾り」に留まります。
働く人が「なぜこの数字が重要なのか」、「どう変化すれば自分たちの仕事が楽になるのか」を理解し、主体的に動ける環境をDXとセットで作ることが求められます。
3. 「昭和的」現場文化とDXのミスマッチ
昭和から続く現場独自の慣習や暗黙知、いわゆる「俺のやり方」文化が根強い製造業では、ITやDXの波だけを持ち込んでも、ベースとなる思考・価値観が変わらなければ形骸化が進みます。
データで現場を”評価するだけ”の運用になれば、人は萎縮し、灰色の現場へと逆戻り。
アナログの良さとデジタルの強みをうまく融合させ、「新しいラインの流儀」を現場主体で作り出す視点が不可欠です。
「見える化」を業務改善に繋げるために必要な3つの視点
1. データから”問い”を発見し、現場改善の「仮説検証型」へ
単なる見える化に終始しないためには、「なぜこの数字なのか?」という深い問いを現場が持ち続けることが重要です。
設備稼働率が90%でも、なぜ残りの10%が停止しているのか。
不良率が上がる瞬間に、どんな変化が現場で起こっているのか。
見える化されたデータから、必ず”Why”を現場で問うカルチャーへと進化させましょう。
そして、その仮説を元に小さな改善アクション(生産手順変更、教育内容見直し、治工具の工夫など)を考え、データでその結果を検証する「トライ&エラー型」の現場運営へと変えていきます。
2. チームで数字を読み解き、「共通言語」を作る
データは個人の評価のためでなく、現場全体の業務改善の武器です。
現場内でデータを共通言語化し、チームでKPIを読み解きましょう。
「この歩留まりの変動はなぜ?」
「○番ラインだけ稼働停止が多い理由は?」
とリーダー会議や日常業務の中で、データを元に原因や対策を議論する風土を醸成します。
その際、作業者自らがデータを収集・集計に参画できれば「数字≠評価指標」という意識改革が生まれ、現場の納得感が格段に高まります。
一般的な「自工程完結」や「自分ごと化」といったトレンドワードも、この文脈で現場に浸透させられます。
3. 「現場起点」発想の業務設計とDXツール活用のバランス
システム化を現場の柔軟性を奪うものと捉えず、「現場で本当に必要な数字や仕組み」を主導的に洗い出し、柔軟にツール活用を設計しましょう。
先進的なIoTツールやBIダッシュボードは、現場からのフィードバックが真価を発揮します。
「外部から与えられたシステム」ではなく、「現場の声を反映して進化する道具」となるよう、段階的に運用を定着させていくことが結果的に最短の業務改善への道となります。
実際の現場で変革を起こした各社の事例
1. 生産管理部門での「なぜなぜ分析」と見える化連動
ある自動車部品メーカーでは、部品欠品や生産遅延のデータを「見える化」したうえで、毎朝の短時間ミーティングで「なぜなぜ分析」を徹底。
可視化されたグラフを使って、「なぜ停滞が起きたのか?」「なぜ注文ミスが発生したのか?」を部門横断で深掘りし、ITシステム導入と現場レベル改善を同時並行。
結果として30%以上のトラブル削減、納期遵守向上を達成しました。
2. 品質管理部門でのデータ民主化
中小規模の電子部品メーカーでは、不良原因の情報が「管理職のノウハウ」としてブラックボックス化していました。
そこで、全員がデータベースにアクセスし、「この数字がこの変動を示している」ことを新人教育に活用。
ベテランと若手の知見が可視化されたデータで結びつき、「品質施策の世代交代」と「改善定着」を生み出しました。
3. サプライヤー管理での「共通指標」運用
購買・調達部門では、「納期遵守率」「納品品質」などのKPIをサプライヤーとリアルタイムで共有。
バイヤー(購買担当)が自社・サプライヤー双方の数字変化を読み取ることで、トラブル未然防止や「共創型改善」に発展しています。
「サプライヤーの立場でバイヤーの考えを知る」ためにも、数字の可視化と現場・現実の肌感覚のすり合わせが必須です。
まとめ:DXの本懐は「現場の知恵」が主役になること
見える化はDXの第一歩に過ぎません。
しかし、単なるデータ収集・表示では現場は変わりません。
重要なのは、
– データから現場が問いを立て、改善策を打ち立てること
– 現場全体で数字を共通の言語とし議論・検証すること
– 昭和的なアナログ文化を否定せずデジタルと融合させる運用設計を柔軟に行うこと
です。
「見える化するDX」から「現場を動かすDX」へ。
現場目線を維持しながら、皆さんの明日からの業務改善、メーカー・バイヤー・サプライヤーの各立場での最適な現場運営に少しでも参考となれば幸いです。
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