- お役立ち記事
- 地震対策の訓練が生産停止を恐れて省略される理由
地震対策の訓練が生産停止を恐れて省略される理由

目次
はじめに:製造業が直面する地震対策訓練の現実
日本は世界でも有数の地震大国です。
そのため、工場や生産現場では「地震対策訓練」の必要性が絶えず叫ばれてきました。
しかし、現場では実際に訓練が徹底されているケースはまだまだ少なく、「訓練は形だけ」「今期は生産が忙しいから省略しよう」といった風潮が根強く残っています。
なぜ、地震対策訓練が重要でありながらも、省略されがちなのでしょうか。
長年、現場で生産管理・品質管理・工場運営に携わってきた立場から、その理由を深掘りし、現場目線で具体的に解説します。
地震対策訓練の本来の意義とは
命とビジネスを守る「備え」
地震対策訓練が求められる背景には、一義的に「従業員の命と安全を守る」という最重要ミッションがあります。
加えて、生産ラインや重要な設備の被害を最小限にとどめることで、企業存続そのものにも直結します。
BCP(事業継続計画)の観点からも、地震想定訓練は、単なる避難訓練にとどまらず、「いかにして短時間で被害を最小化し、生産復旧できるか」を目標にすべきものです。
サプライチェーン全体への波及効果
大手メーカーでは1日止まっただけで数億円~数十億円の損失が発生する事例も珍しくありません。
しかも、自社だけの問題ではなく、サプライヤーや顧客にも多大な影響を及ぼします。
だからこそ「対策訓練の省略」は本来許されないもののはずです。
なぜ訓練が省略されるのか?現場で根強い3つの理由
1. 生産効率・納期遵守への過剰なプレッシャー
昭和から続く日本のモノづくりにおいて、「納期厳守」は現場の最重要KPIとして君臨してきました。
納期遅延=会社の信頼失墜という認識が刷り込まれており、少しでも生産を止めることに抵抗感が強いです。
現場の管理職は
「今日は月末、絶対にラインは止められない」
「取引先から催促が…今週は訓練を延期するしかない」
と判断しがちです。
たとえ年間計画に訓練実施が盛り込まれていても、生産効率との折り合いで“省略”や“規模縮小”が頻発します。
2. 形骸化した「訓練文化」と危機意識の低さ
過去に大きな地震被害を受けた工場では危機意識が高まります。
しかし、幸い大きな災害経験が少ない地域や部署では「うちは大丈夫」という根拠のない自信が広がっている場合が多いです。
また「訓練」といっても単なる避難シミュレーションだけで済ませており、震度ごとに具体的な初動対応や生産設備の保全モード移行訓練など、実践的なものにまで踏み込めていない場面も少なくありません。
3. 現場オペレーションの複雑化・属人化
最新のスマートファクトリーでは、自動化・IoT技術が進んでいる反面、予期せぬトラブルや設備の個別運用ノウハウがベテラン社員にしか分からず、訓練を実施しようにも「誰が全体を取りまとめるべきか不明確」「非定型作業は現場リーダーに丸投げ」などの状況が生まれています。
属人的な運営は「今日は○○係長がいないから訓練できない」といった温度感につながり、結局“やらない理由探し”になってしまいがちです。
地震対策訓練が省略された場合の深刻なリスク
人的被害の拡大
災害時、瞬時に適切な判断や初動対応ができるかどうかは、日常の訓練にかかっています。
省略や形式的な訓練の繰り返しは「いざという時に誰も動けない」状態を招き、従業員の生命・健康を危険に晒します。
設備・生産ライン復旧の遅れ
多くの工場では、地震時の“設備緊急停止手順”がマニュアルで定められていても、実際にやってみないと分からない部分や、古い設備で仕様通りに動かないことも多いです。
訓練を通じて初めて「このスイッチの場所が分かりにくい」「このラインは手動で切り替えが必要」などの“現場ならではの落とし穴”に気付けます。
こうしたプロセスを省略すれば、本番でのダウンタイムが甚大になりかねません。
顧客・サプライヤーへの連鎖的ダメージ
BCPの観点から、近年は大手顧客によるサプライヤー評価でも「相応の地震対策・訓練が実施されているか」がチェックされるケースが増えています。
訓練省略は、サプライチェーン全体の信頼低下リスクにも直結します。
アナログ業界ならではの“昭和マインド”からの脱却がカギ
根強い「現場は現場」主義
製造業界では本社企画部門と現場ラインとが分断された組織風土が未だに根深く残っています。
多忙な現場に負担をかけず、効率的に成果を上げることが第一。
そのため一つひとつの改善活動(カイゼン)が現場の犠牲=時間の切り売りに見えて、受け入れづらくなっています。
「やったことが成果につながった」成功体験不足
地震や災害は頻繁に起きるものではありません。
訓練の効果が目に見えにくく、「本当にやる意味あるの?」という雰囲気になりがちです。
しかし、阪神淡路大震災や東日本大震災で多くの企業が事前訓練を通じて甚大な被害を回避できた事例も数多く報告されています。
小さな成功体験やリアルな被害シミュレーションを現場に落とし込むことが、風土変革の第一歩です。
新しい地平線:本質としての訓練文化を構築するために
1. 訓練の「カイゼン化」と効果見える化
単なる避難訓練から脱却し、「設備停止」「生産再開」など工場ごとの実情に即した訓練項目に細分化しましょう。
実施度や改善ポイントを記録し、可視化することで「訓練の成果」を実感しやすくなります。
2. 年間生産計画への組み込みと経営層のコミットメント
「忙しいから今年はやらない」という判断をさせないためには、地震訓練を“法令遵守事項”や“品質方針”の一つに明記し、トップダウンで推進することが不可欠です。
また、実施時は生産計画を調整し、「訓練のための時間」を事前に確保しましょう。
3. サプライチェーン連携と外部評価、相互チェック
サプライヤーやバイヤーも巻き込むことで、「訓練の省略」は単なる自社の問題でなく、取引全体の品質管理問題として捉えられます。
定期的な地震訓練報告や相互見学会・事後フィードバックの仕組みを設けても良いでしょう。
まとめ:地震対策訓練の“投資”は未来を守る礎
製造現場では限られたリソースと納期プレッシャーの中、「地震対策訓練」に向き合う時間がどうしても後回しになりがちです。
しかし、訓練の“省略”がいかに大きなリスクを招くか、新たな地平線から見直してみることが、今後の業界の生き残りに欠かせません。
アナログ思考や昭和型マインドに甘えることなく、「訓練文化」を経営戦略の一部に格上げし、現場が誇りを持って取り組めるよう制度設計・評価基準を見直していきましょう。
製造業に携わるすべての方が、安全・安心・誇りある現場づくりのため、地震対策訓練の本質的意義を今一度考えていただく契機となれば幸いです。