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地震対策設備が稼働停止リスクを増やす皮肉

目次
はじめに:製造業現場が抱える“地震対策”の意外な落とし穴
日本は世界有数の地震大国です。
阪神淡路大震災や東日本大震災を経て、製造業の現場では「事業継続」のための地震対策が重要視され続けてきました。
実際、多くの企業が免震装置や耐震補強、自動停止システムなど、あらゆる地震対策設備に投資してきました。
それ自体は正しい選択です。しかし、現場に深く根ざして働いてきた私の実感として、皮肉なことに「地震対策設備」が新たな“稼働停止リスク”を増幅させているケースも少なくありません。
なぜ、このような矛盾が生まれるのでしょうか。
本記事では、地震対策設備が持つ二面性と、業界ならではの慣習や昭和的価値観がもたらす課題、さらに現場が主導権を持って真のBCP(事業継続計画)を実現するための視点をお伝えします。
地震用自動停止システムがもたらす「不稼働リスク」
地震対策設備として「自動停止システム」を導入している現場は多いのではないでしょうか。
このシステムは、地震波(P波やS波)を感知すると即座に設備を自動停止させ、オペレーターや製品の安全を確保します。
理屈上は非常に理想的です。
しかし、実際の運用現場では、想定外のリスクが顕在化しやすくなります。
ちょっとした地震でも頻繁にライン停止が発生
地震センサーの設定によっては、震度3~4の比較的軽い揺れでもシステムが作動し、数秒から数分で設備が止まります。
一度止まった設備は、オペレーターの安全確認、設備の点検を経て慎重に再起動します。
大規模工場の場合、これが全体の生産リズムに大きなロスを生み出します。
年間で数回の地震であっても、数十分~数時間の生産停止が発生すれば、月次・年次単位の稼働率(OEE:総合設備効率)にじわじわと影響し、失注や納期遅延という深刻な事態を引き起こすのです。
システム誤作動・復旧ノウハウの属人化
自動停止システム自体も電子機器であり、誤作動や通信エラー、バグ、センサーの劣化による誤認識などがゼロではありません。
さらに、「復旧作業」には独特のノウハウや“カン”が必要となる場合も多く、属人性が高くなりがちです。
ベテランオペレーターが減少する中、現場では「本当にこのやり方で再起動して大丈夫か」といった心理的バリアが新たなロスを生んでいます。
業界に根強く残る“昭和的”地震対策発想とその限界
私たち製造業に携わっていると、業界横断的に“昭和型”思考の地震対策を目にすることが少なくありません。
装置に頼りすぎる「形だけの安全」
多額の設備投資によって「装置・システムで自動停止させる仕組み」を整えれば、どこかで「これで地震リスクはクリア」と満足しがちです。
しかし本質は、「いかに迅速&安全に事業を再開できるか」です。
設備を止める仕組みはあっても、再稼働をスムーズに行える体制づくりにまで意識が向かっていない現場がほとんどです。
“現場力”への信頼と属人化のジレンマ
熟練者の“現場力”を信じ、マニュアル化せず属人的な運用に頼る文化が根強いのも、日本のものづくり現場の特徴です。
地震発生時、「○○さんしか分からない操作」「係長の許可がないと復帰できない」など、曖昧かつ属人的な運用が危機対応を複雑化してしまっています。
地震対策が「サプライチェーン全体」に与える影響
工場現場だけの話ではありません。
地震対策(=設備停止による迅速な安全確保)があるがゆえ、サプライチェーン全体が思わぬ影響を受けることもあります。
バイヤー・調達担当者の視点:余力・納期遅延リスク
バイヤーや調達部門からすれば、「地震で突然ラインが全停止した」「再稼働に手間取り納期遅延が拡大した」こうした事態は致命的です。
最近は、1次サプライヤーだけでなく2次、3次サプライヤーでも“瞬発的な納期遵守力”が厳しく問われています。
どれだけ立派な地震対策マニュアルを持っていても、「実は一度でも止まると数時間再稼働できない体質」では、サプライチェーンの信頼は大きく損なわれてしまいます。
サプライヤーの立場:バイヤーの真意を読む
「地震に強い」「リスクマネジメントができている」ことはサプライヤーの競争力アピールの一つですが、バイヤーが本当に重視しているのは「いかに短時間で事業継続・再稼働できるか」です。
常に“最低限の在庫”しか持たせないジャストインタイム調達が当たり前になった今、地震で一時的に供給チェーンが絶たれると、取引先を変えられてしまうリスクも現実味を帯びてきました。
「設備はすぐ止まるけど復帰も一瞬」こうした新たな対応力こそ、サプライヤーの付加価値になる時代です。
真のBCPは“仕組みと現場力”の両立から
それでは、地震対策設備にどう向き合うべきなのでしょうか。
「止まること」「復旧すること」双方のシミュレーションを徹底
P波感知で瞬時にストップ。「安全最優先」です。しかし、その停止の判断基準・連絡体制・安全確認マニュアル・再稼働までの手順を徹底的に可視化し、日常的にトレーニングすること。
形骸化したPOS(Process Operating Standards:標準作業書)やEOP(緊急対応マニュアル)を、紙の中だけのものにしない。
QRコードや動画で誰でも手順を確認できる仕組みを作り、練度を高め続けることが必要です。
設備まかせ⇒ヒト×デジタル融合への進化
昨今の製造業DX(デジタルトランスフォーメーション)は、地震対策にも応用可能です。
IoTセンサーは作動ログだけでなく、現場作業者の行動データも記録して分析。
“デジタル現場力”を磨くことで、設備停止からの復旧フローも継続的に改善できる素地を作りましょう。
属人的な判断から“チームによる可視共有体制”へ
部門や役職を超えて「誰が何を判断し、どう連携すべきか」を明確にして実践する仕組みづくりが肝要です。
属人性的な判断をデジタルツールや可視化シートにより脱却し、現場全体が“リアルタイムで意思疎通できる”体制づくりが有効です。
結論:地震対策設備=安全の切り札ではない!「豊かな現場力」が最大のBCP
地震対策設備への投資は素晴らしいことです。
ただし、「災害で止める=OK」ではなく、「いかに早く安全に再始動できるか」に価値観を転換することこそが、これからの製造業現場には求められます。
昭和型の“装置頼み”から脱却し、安全と生産性を両立させる“現場力”の強化。
これこそが、地震リスクにも強い、日本のものづくりの底力だと私は信じています。
未来を担うバイヤー・サプライヤーの皆さんは、ぜひ現場との対話を深め、「止める・動かす・つなげる」すべての実態を把握・分析する姿勢を持っていただきたいです。
皆さんの現場が、地震だけでなく多様な危機にも勝つ“創造的レジリエンス”をもたらしてくれることを期待しています。