投稿日:2025年6月23日

わかりやすく伝わる説明技法とそのポイント

はじめに

製造業の現場では、技術や業務プロセス、課題の本質を正しく「伝える力」がとても重要です。
特に調達購買、生産管理、品質管理、工場の自動化など、多くの専門分野で異なる立場の人々が連携するためには、複雑な情報や意図を、誰にでも「わかりやすく」伝えるスキルが欠かせません。

本記事では、昭和から続くアナログな風土や現場特有の事情も加味しつつ、製造業のバイヤーやサプライヤー、現場の担当者が「納得しやすい説明技法」と、その具体的なテクニックについて、現場目線で深く掘り下げていきます。

なぜ「わかりやすい説明」が必要なのか?

製造業ならではの伝達の難しさ

製造業には、設計、生産、品質、資材など、数多くの部署・立場が存在し、それぞれの専門用語や考え方が根付いています。
現場のオペレーター、ライン長、購買バイヤー、管理職、さらには取引先のサプライヤーまで、同じ組織にいながら価値観も「言葉」も異なります。

さらに「昭和スタイル」の文化も強く残っており、「察してほしい」「暗黙知で伝わるはず」という考え方が根強く、誤解やコミュニケーションロスが頻発しがちです。

そのため、実際の業務改善や品質向上、設備投資の申請・交渉などでは、数字や理屈、根拠を誰にでも分かりやすく説明・説得できるかどうかが成功の鍵を握ります。

現場で起きやすい“誤解”や“勘違い”とは

例えば、バイヤーがサプライヤーに発注条件の変更を伝える際や、品質部門が現場に是正指示を出す場合、あいまいな表現や専門用語への過信が原因で
– 実際と異なる仕様で納品された
– 品質基準が守られていなかった
– 予定したコストダウンが図れなかった
など、数多くのミスが繰り返されています。

これらは「説明が正しく伝わっていない」「相手の立場・知識を考慮していない」ことが主な原因です。
裏を返せば、「誰にでもわかりやすく伝える力」を磨けば、こうしたロスを劇的に減らすことができます。

基本となる「わかりやすい説明」の4原則

説明力を上げるためのポイントは、以下の4原則に集約されます。

1. 聞き手の知識レベルを把握する

技術者やバイヤー、サプライヤーの中には、同じ製造業といえども専門分野によって知識の幅や深さが大きく異なります。
自分が知っている用語や論理が相手にも通じるとは限りません。
まずは、「相手がどこまで知っているのか」「日々どのような課題に直面しているのか」を確認しましょう。
会話の冒頭で、「この点はご存知ですか?」「◯◯についてはどのようにお考えですか?」など簡単な質問を挟むことで、相手のレベル感を把握できます。

2. 目的/ゴールを明確に示す

何のために説明するのか?説明のゴールはどこなのか?を事前に整理し、冒頭で明示します。
例えば、「A案とB案のコスト比較をもとに、どちらが現実的かご意見いただきたい」「この品質トラブルの原因解明を、事実ベースで共有したい」など、最終的にどうしてほしいのかをハッキリさせることで、聞き手の集中力も高まります。

3. 結論>理由>具体例の順で伝える

製造業の現場では、論理的な説明を求められる場面が非常に多いです。
その場合は、まず結論をシンプルに伝え、その後に理由や根拠、最後に具体的な事例やデータを交えて説明すると納得度が高まります。
この流れを意識するだけで、話が分かりやすく、かつ説得力が生まれます。

4. 専門用語の使いすぎに注意する

現場では「なじみ」のある言葉でも、他部門や異業種には通じないことが多々あります。
SIerやエンジニアとの打ち合わせ、海外サプライヤーとの交渉など、多様な人と仕事をする今だからこそ、難解な専門用語や略語はなるべく避け、「誰でも分かる言葉」で伝える配慮が重要です。

現場で使える!わかりやすい説明技法8選

ここからは、筆者が20年以上の現場経験や管理職時代の事例をもとに、具体的な説明技法を紹介します。
明日からすぐに使える実践テクニックばかりです。

1. 「3つのポイント」でまとめる

どんなに複雑な内容でも「ポイントは3つあります」と冒頭で示すだけで、聞き手は全体像をイメージしやすくなります。
人間の記憶や認知の構造的にも、“3つ”が最も整理しやすいと言われています。
例えば、「設備投資の要請に必要なポイントは3つです」と切り出すことで、内容が明確になり意思決定もスムーズになります。

2. 「結論ファースト」を徹底する

話の最初に「私が採用したいのはA案です。その理由は…」と最初に結論を伝え、次に詳細を説明していきましょう。
日本の製造業界では、どうしても背景・状況説明から始めがちな風潮がありますが、「結論ファースト」に変えるだけで、時間短縮と納得感が向上します。

3. 図やグラフで補足する

工程フローやコスト構造の説明は、文章や口頭だけでは伝わりにくいものです。
シンプルな図表やグラフ、写真など視覚的な情報を添えることで、説明の理解度が格段に上がります。
現場ではホワイトボードの手書きや、簡単なイラストでも十分効果があります。

4. 「Before→After」比較を使う

改善案や課題提起の時は、変更前(Before)と変更後(After)を対比して説明すると効果的です。
「従来はこの工程で10分かかっていましたが、改善後は6分まで短縮しました」と、変化を明確に示すことで納得・共感を得やすくなります。

5. 数値や事例を必ず添える

「コストダウンができました」「品質が上がりました」など抽象的な表現だけでは説得力に欠けます。
実際のデータや過去の類似事例、現場での声を必ず添えることで、話の信憑性が跳ね上がります。

6. 相手の立場・価値観を言葉にする

「お忙しい中ですが、現場ではこういう意見が上がっているのも事実です」「バイヤーの目線ではコスト最優先という事情も分かります」と、相手の事情や想いを最初に言語化してみましょう。
「自分のことを分かってくれている」と思えば、相手の警戒心が和らぎ、協力的になりやすいのです。

7. 「一言」で要約してみせる

長い説明の後、最後に「つまり○○ということです」と一言でまとめることで、場の理解度が格段に上がります。
難しい説明でも、この要約があると最後まで内容がクリアに残ります。

8. 反論や質問を先回りしてフォローする

「この案にはこういうリスクも考えられるため、事前にこう対応します」と、予想される質問や懸念への回答を説明の中にあらかじめ組み込むと、実務での「詰めた議論」に強くなります。

業界動向と「説明力」の進化

デジタル化に伴う新しい伝え方の重要性

昨今、製造現場もDX(デジタルトランスフォーメーション)が進み、リモート会議やオンライン商談、チャットツールによる指示伝達が急速に増えています。
こうした中では「相手の表情」や「空気感」だけに頼れず、論理性・構造化された説明力がますます重視される時代です。

一方で、昭和的アナログ思考の現場では、「紙の資料や手書きノート」「慣習・経験」への信頼が根強く残っています。
デジタル・アナログが混在する中、双方に伝わる説明力が「現場を動かす力」になっています。

グローバル化と多様な価値観への対応

海外サプライヤーとのやり取りや、社内の外国人スタッフとの協働が当たり前になる中、異文化に配慮したシンプルな説明、英語でもロジカルに説明できる“型”の習得は今後さらに不可欠です。

まとめ:わかりやすい説明は「現場力」そのもの

「説明がうまい人」=「現場で信頼され、結果を出す人」と言っても過言ではありません。
難しい専門用語、煩雑な業務フロー、複雑な数字……。
それらを誰にでも「腹落ち」させられる説明力こそ、これからの製造業に求められる、新しい「現場力」です。

ぜひ今日ご紹介した4原則と8つの実践技法を、明日からの仕事の現場で試してみてください。
説明の仕方が変われば、現場の風土が変わり、結果として製造業全体の競争力向上にもつながっていくはずです。

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